苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

帰還、そして計略の件

「じゃあ変身するですわ!...はあ!」


「おお...」


トリスリアが魔方陣を地面に展開し、そこに乗るとみるみるドラゴンへと変態していった。


「さあさあ、乗りなんし!主様!皆の者!あ...ロゼ様、どうぞどうぞ」


「うん、ありがとう」


最早上下関係が出来上がっている二人を見て大奥を思い出した。
女って怖いな...


「悪いな、トリスリア。乗らせて貰うぞ」


「硬いでおりあるが勘弁して貰いたく!」


「じゃあ私はぁ、定位置にぃ」


フェニアはいつも通り俺の胸元に。
俺は翼の付け根に足をかける。


「じゃああたしはここだな。」


そして残るドミノは尻尾の根本の窪みにすっぽり収まった。
まるで子猫か段ボールで遊ぶ子供だな。


「おい、ユウキ。口に出してみろ、殺すからな」


「何の事だ?知らんな」


危ない...読まれていたとは思わなかった...気を付けよう。


各々が思い思いの場所に腰を下ろすと翼がはためき始めた。
周囲の地面の土が砂埃となり巻き上がる。


中庭でやるべきじゃあ無かった。


「うわああ!皆ー!トリスリア様が飛び立つぞ!逃げろー!」


「ぎゃあああ!吹っ飛ぶー!」


こうなるからだ。
申し訳ない、お城の方々。
片手でポーズを取り謝っていると身体がふっと浮き出す。


ドミノも置いていた特大ハンマーをしっかりと支え、ロゼは肩だと思われる場所でバランスを取りながら座っていると、一気に空へと飛び立った。


「トリスリア様、悪いんだがじいさん迎えに行きたい。行って貰えるか?」


「どこじゃんし?」


「そこの路地の所」


ドミノが指を指した方向を確認し身体の向きを変える。


「このまま行くのか?それはどうなんだ?」


「まあいいじゃんか、ユウキの旦那。こっちの方が楽だろ?」


にかっとドミノが白い歯を見せる。
そういう問題じゃないが。




「ちょ...これマジヤバなぁ、予感がぁしますぅ....ごふぁ!」


「フェニアさんの顔が人に見せれない状態に!」


「フェニア-!」


俺の胸元に居たフェニアの顔がGの影響でくしゃくしゃのぐちゃぐちゃになってしまった。


「わ、わ、わらしぃ....さいきんん...こんなんばっかぁ...ですふぅぅ...!」


ーー「ぎゃあああ!全員家に逃げ込めー!吹き飛ばされるぞー!」


「だからトリスリア様は嫌なんだ!いつも豪快過ぎる!」


「賊を退治してくれるのは助かるけど、私達もいつもわりを食うんだから勘弁してぇぇ!」


「洗濯物が...飛んでいく....」


なんてこった...大惨事じゃないか。
俺達は当分この街に帰ってこれないだろう。


人々が逃げ惑い、吹き飛ばされ、洗濯物が行方不明になっているとグルカン工務店の扉がバンっと音を鳴らし勢いよく開いた。


「何事じゃ!な、ななな!トリスリア様じゃと!」


驚きの余り腰が砕けそうなグルカン爺を見下ろしていたドミノが身を乗りだし叫んだ。


「おーい、親父ー!迎えに来たぞ-!下りてくから乗れー!!」


「おい、無茶は...」


「おいしょっとなのだわ」


その巨体を下降させたトリスリアのせいで家や花瓶、ガラスや果物等がことごとく破壊され吹き飛ばされた。
もう阿鼻叫喚である。
なるほど...御者の言っていたドラゴン以外は平和の意味がここでようやく理解出来た。


確かにこの国は基本的に平和なのだろう。
色々とやりすぎるトリスリア以外は。


「き、きさんらぁ!何しとるんじゃあ!このバカ者どもが!」


「あー、くそっ!じいさん早く乗れ!さっさと行くぞ!」


「その声、坊主か!無茶しおって!」


そう言いながら周りの惨状をこれ以上拡大させたくないグルカン爺はトリスリアに乗り込んだ。


「トリスリア!早く飛べ!そして出来るだけ早く国外に出るんだ!」


「かしこまりまりまし!」


俺の一言を聞き届けたトリスリアは翼を羽ばたかせ一気に上空へと舞い上がるとそのまま共和国方面へと舵を切った。


街の方からはごみ等を空中へ投げつけながら「もう帰ってくるなー!」と罵声を俺達に浴びせていた。


もう本格的に帝都には行けないな...と振り返り、思うのだった。


ーー「そうか...あの二人がな...済まんかった、坊主、嬢ちゃん」


グルカン爺は胡座をかきながら頭を下げている。


「い、いえ!そんな!」


「ロゼの言う通りだ。謝罪するのは奴一人だけでいい。そもそもあの2人も被害者だからな」


当然謝罪で終わらせるつもりはない。
次に会ったらツケを払わせる。
どんな非道な手段を取ろうともな。


「あのー、グルカンさん、一つ良いですか?」


「なんじゃい」


「どうやってアルヴィンさんとフィニさんとお知り合いに?」


確かにそうだ。あの2人は公国に居たはずだ。
レオンの命令なのは間違いないだろうが...


するとそれを聞き付けたドミノがこちらに振り向く。


「あたしも知らないな。仕事から帰ってきたら居たからな。親父、いつの間に雇ったんだ?」


「そりゃおめえが1ヶ月居なかったから知らんだろうよ」


1ヶ月も家に帰らなかったのか?
余程大工仕事が好きだと見える。


ある程度親子の言い合いを眺めていたらグルカン爺が目を閉じながら語り始めた。


「だいたい2ヶ月間だったかの?そのくらいん時に急に弟子にしてくれと言ってきてなあ。最初は門前払いしておったんだが何日も懲りずにやってきたんでな。雇うことにしたんじゃ」


2ヶ月...その単語に俺とロゼは反応しお互いに顔を近づけ、皆に聞こえないように小声で話す。


「その時期って私達が公国から逃げ出した時期だよね...偶然じゃあ...ないよね?...やっぱり....」


「ああ、十中八九仕組まれてたな。しかも俺達にとって最悪のな...」


俺達...アルザス村にとってこれ以上最悪なシナリオはない。
仕組まれていたんだ、俺達が脱出してからと言うものある仕組みがもう出来上がっていた。
最低な結論に頭をもたげる。
まさか俺達の中にスパイが居るだなんて考えたくもなかった。


「主様!見えて参りあったのだけれど何かおかしいと感じざるを得なかったり!」


「おかしいのはぁ、言葉遣いですぅ」


理由はとうに分かっている。
この武器同士がぶつかり合う音を聞けば一目瞭然だ。


「全員武器を取れ!会敵するぞ!」


どこのどいつが間者か知らないがここであぶり出してやる。

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