苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

魔王式魔法会得の件

「ここっすか?へぇー、こんな所あるとは知らなかったっす」


「ほんとにね。中はどうなっているのかしら」


止めろ...頭痛が収まらなくなる。
もう喋るな。


「でも何も無さそうっすね。つまんねー。アニキ達はお仕事なんで行くんすよね?俺達は待ってますっす」


「ええ、特に危険も無さそうですし」


もう止めてくれ...お前達を信じさせてくれ。
仲間じゃ無かったのか?俺達は...
三年も一緒に旅してきただろう...
                ・
なのにもう顔も見えなくなるくらい嘘しかつけないのか?


悪意しか持ってないのか?もう手遅れなのか?
助けるのは...もう無理なのか?


「分かりました!じゃあぱぱっと終わらせちゃいましょう!ユウキくん!」


「ああ...そうだな....」


「ユウキくん?」


俺の様子になにかを感じ取ったのか心配そうに肩に手をおく。


「大丈夫?顔色悪いよ?」


「ああ...行くぞ」


「う、うん...」


岩が何個も折り重なるような岩場の入り口に潜り込む。
中は案外広く、入り口の足場から降りないと入れないらしい。


ふと背後に二人の気配と悪意を察知した。


「.........」


俺は眼を瞑り、背後の人物に話しかける。


「ロゼは見逃してくれ...俺の事は好きにしろ...俺に用があるんだろう?」


「......勘違いしないでほしいっす。アニキは尊敬できる人っす。ちょっと辛い目には遭いますけど死にはしないっす。だけど姫さんには役目があるっすから」


俺は眼を見開き剣を生成し振り向いた。


「アルヴィン!フィニ!.....!」


「きゃああああ!」


くそったれが....アルヴィン、フィニ...お前ら...!


俺とロゼは二人に押され岩場の一番下まで落下したがダメージはあったものの動ける程度で何とか起き上がる。


「ロゼ....ロゼ...無事か!」


「う、うん...え?誰!?きゃあっ!ユウキくん!」


「ロゼ!...くっ!」


誰かに連れ去られそうになるロゼの手を掴もうとしたがからぶってしまう。


「なんだ...煙幕だと!?」


何処かから煙幕玉が投げ込まれ視界を絶たれてしまった。
襲撃されないように防御姿勢を整え晴れるのを待つ。
すると数分と経たず煙が晴れ、視界が良好になる。
日の光に目が焼かれそうになるくらいには。


しかしそこで目撃したものに冷や汗が流れ始める。


「よお、ユウキ、久しぶりだな。会いたかったぜ?」


俺が最も嫌悪感を持つ、最低の糞野郎が目の前に居た。


「貴様....レオン!」


あの最低最悪な勇者が目の前で気色悪い笑みを浮かべていた。
そしてその横には両手を縛られ吊るされたロゼの姿があった。


「レオン...てめえロゼに何しやがった!」


「別に?ただ薬を嗅がせただけだぜ?」


薬だと?あの朦朧とした感じ....幻覚剤か!


「この糞野郎!もう許せねえ!絶対...があっ!?...アルヴィン...てめえ....」


「ご、ごめんなさい...ごめんなさいっす、アニキ...ごめんなさい、ごめんなさい....」


身体が動かない。
どうやらアルヴィンのナイフに麻痺毒が仕込まれていたのか身体が麻痺している様だ。
指先一本動かなくなっている。


「ユウキ...くん...?」


「ロ...ゼ...今助け...ぐぅ...!?」


「アニキ!アニキには手出さねえって...!」


「ああ、殺しはしねえぜ?殺しはな!アテナに殺されちまうんでなっ!」


「がっ!ぐうっ!げほげほ...」


何度も俺の腹部にレオンが蹴りを入れ嗚咽を漏らす。


「はあはあ...良い気味だ...いつもいつも威張りやがって...目障りなんだよ、てめえは!」


息を切らしながら怒鳴り散らしロゼの隣に帰っていくと彼女に口づけをした。


「ん...んん!?いや!いやあ!」


「ロゼェ!!くそっ!この糞野郎がぁっ!!」


「うるせえんだよ!この雑魚が!」


「がっ...」


顔をけられ何処かが折れた音がした。
恐らくは鼻だろう。激痛がするがそれよりも怒りが増している。


そこへフィニが降りてきて俺の横を通りすぎる。
どうやら俺など眼中に無いらしい。


「フィニ...行くな...」


俺の渾身の制止を聞かずレオンの目の前で肩を揺らす。


「こ、これで私達を解放してくれるんですよね!?もう私とアルヴィンに関わらないんですよね!」


「ああ、そうだな。解放してやるよ。今な!」


「止めろぉぉぉ!レオーーーン!!」


「は...な、なんだよ、それ...何で...なんで!」


レオンが聖剣を召喚しあろうことかフィニの身体をそれで突き刺した。


フィニは何が起こったか分からず瞳孔が開いたまま腹部を見ると「う...そ...なん...で...」そう呟くとひざが崩れ落ち剣から滑り落ち、自分の血溜まりに身体を沈めた。


「バカだよなぁ、お前ら。そんな約束守る筈無いじゃねえか」


「この...くそ...ったれが...あああ!」


「仲間が殺されてもなにも出来ないなんてよぉ?どんな気持ちだ?」


腸が煮え繰り返る。
身体さえ動けばこんな奴直ぐにでも切り刻んでやるのに...!


「アル....ヴィン....お前だけでも...逃げろ...!」


「い、嫌っす!」


「アルヴィン!」


「だ、だってこんなことしたのにアニキは俺を気遣ってくれてるのに俺だけ逃げ出すなんて...!」


かたっと小石を蹴る音がし、足音が耳元から聞こえ、何とか首を動かし音のした方向を向くとレオンが剣を突き刺そうと構えていた。


「だ、駄目っす!アニキー!」


「アルヴィンやめろーーっ!」


アルヴィンが俺を守ろうと俺の前に出て掴みかかると目の前で深々と突き刺さった。


「アニ...キ...すいませんっす...俺...アニキの事...本当に...尊敬して....」


「......っ!!.......うおああっ!」


俺の目の前で瞳孔を開き絶命したアルヴィンと目が合い絶叫する。
俺のせいだ。もっと気が付いていれば...
あの時こいつを殺しておけば...!
アルヴィンもフィニもロゼもこんな目に合わずに済んだ筈だ


俺はこの男を絶対に許さない...泣きわめこうがこの世で最も残酷な殺し方で殺してやる...


「ああ!?何だ、その目は!気に食わねえ!てめえにはもうどうにも出来ねえんだよ!ははははは!」


「......っ......ぎり....」


どれだけ蹴られようと耐えてやる...
耐えきってこいつを...


「止めて!もう止めて!」


「ああ?」


「!?....止めろ...」


ロゼの言葉に身体がびくっと反応する。


「お願い!私はなんでもするから、ユウキくんを殺さないで!」


「へえ?そうかよ」


「!?」


レオンがロゼに近づき太ももに触れる。


「ロゼ....!止めろ!頼むから止めてくれ!」


「ひっ....」


「止めろ....レオン!」


「黙ってみてろよ、負け犬」


怯えるロゼだが涙をこらえ、レオン越しに微笑む。


「私は大丈夫だから...安心してユウキくん。でも見ないで欲しいかな?」


「.......うぅぅぅぅ!」


歯軋りが岩場全体に反響する。
レオンの手がロゼの服に潜り込む。


「ひ...いや...」


「おいおい、何下向いてんだ?ちゃんと見とけよ?俺がお前の女を犯すところをなあ!」


「......ぐううっ!!」


レオンの鼻息が荒くなり、ロゼの啜り泣きが聞こえてくる。


俺はここまで無力なのか?友人も仲間も救えず、愛する人すら救えないのか...


「いやあ!」


「ははははは!ぎゃはははは!最高の気分だぜー!ひはははは!」


左腕に無理矢理力を入れ地面の土を抉る。
ふと身体が軽いのを感じ身体を動かすと右手が反応した。


右手に握力を感じ浮かせ地面につける。
理由は分からないが動かせるらしい。


「ぐ...う...が...」


少しずつだが上半身が持ち上がるのが分かる。
身体が熱い...体温ではなく魔力がまるで発火しているかの様だ。


魔力が右腕に集まっていく。
この魔力には覚えがある....


『ようやく気付いたか、愚か者が』


「この声...頭の中に...」


『バカ者!右腕じゃ!』


声の言う通り右腕を見るといつかのように紋様が浮き出していた。
だが前とは違い赤く発光している。


『貴様は私を倒したじゃろう!その時を思い出せ!憎しみではない。誰かを守るために力を振るったじゃろう!』 


そうだ...あの時...魔王を倒した時。
俺は自分より仲間を守るために...


右手に妙な感覚を覚え、力が魔力でも精霊力でもない全く未知の物へと変化していくのを感じとる。


「これは...」


『私は意識を保てん!一回だけ言うてやるから耳をかっぽじってよく聞くんじゃ!お前は何故聖剣を扱えたと思う!?』


そんなの知るわけがない...気が付いたら握れていただけだ。


『そうじゃ。じゃがな、聖剣は聖剣が選んだものしか扱えん。本来なら死ぬ筈が右腕だけで済んどるんじゃ。』


「それがなんだ...」


『その右腕は死んだわけではない。私の魔力と聖剣の力が入り込んだ影響じゃ。じゃから一つ私の魔法を伝授してやろう。これは貴様しか使えん魔法じゃ』


その瞬間、頭の中に魔法名、効果、右腕の使用方法が刻み込まれ、身体に魔力が充満する。


『ふん!私がここまでやったんじゃ!もう私は消滅するからな!せいぜい生き延びるがよいぞ!』


「魔王!」


「ああ?」


魔王はそれだけ言い残し今度こそ本当に気配が消えていった。


今はまだ動く右腕で拳を作り、立ち上がる。


「て、てめえ何で動けるんだ!?まだ毒は回ってる筈だろ!」


「ユウキ...くん?」


ロゼの目が真っ赤に腫れ、衣服は半分破りとられていた。


魔王の言っていた憎しみで闘うな...その言葉が頭の中で反芻する。


右手を開き新たに得た力を解き放つ。


「ラ・アルシーブ・ベクタ」


頭に浮かぶ言葉を口にすると右腕に異変が現れる。


漆黒のモヤが腕を包み込むと腕全体を覆うように魔王の魔方陣が無数に浮き出ている。


「な、なんだそれ...なんなんだよ、それは!」


一歩踏み出すと地面がざりっと音を鳴らす。


「なんなんだ!なんなんだ、てめえは!意味がわかんねえ!」


痺れはあっても動く足でゆっくり動き一歩ごとに速度を上げる。
そして走れるようになると一瞬でレオンの目の前まで詰め寄った。


「ひっ!」


「何者かって?...そんなもん知るか...俺は勇者でもないし英雄でもない。ましてや何もかも守れる救世主でもない。なら何だろうな?」


「し、知るか!こっちくんじゃねえ!」


「なら答えてやるよ。俺は...俺は!てめえみたいな糞野郎が大っ嫌いなただの傭兵崩れのロゼの旦那だ!」


そう吠え散らかし右手を真っ直ぐ突き出すと魔方陣が全て全面に移動し3つの魔方陣を形成。


手前から小、中、大と並ぶ魔方陣から一筋の魔力光が発射され、その射程圏内全てを衝撃波が破壊し尽くした。


「ひ、ひいいいい!」


パラパラと破片が落ちてくるなかレオンが破壊した岩の破片から逃げていくのが見え追いかけようとするが足に力が入らず、右腕がまた動かなくなっていた。


「し、しまった...あいつを追わないと...公国に逃げられでもしたら...!」


「ユウキくん!ユウキくん!」


身体の何処にも力が入らず地面に倒れ込むと、衝撃波がロゼを吊るしていた紐の先端にあった岩を破壊したお陰で脱出出来たロゼが寄り添ってきた。


腕の紐を急いでとり俺の身体を上半身だけ起き上がらせる。
すると俺の頭を両腕で包み込んだ。


「ごめんね...ごめんね!私のせいで!」


「アホか....俺が勝手にやったんだ...だから泣くな」


左手指で涙を拭おうとするが疲労困憊しているからか上がらず、急激な眠気に襲われる。


「ユウキくん?ユウキくん!」


ロゼの俺を呼ぶ声が聞こえるがもう意識を保っていられなくなり、目を瞑っていく。


バサバサと翼がはためく音が聞こえ「主の魔力が妙な感じがしおりたわ!ここに間違いなかろうぞ!」と場違いなふざけた言葉遣いが聞こえてきた。


「ご主人様ぁ!ご主人様ぁ!」


「おいおい、無事か、お前ら」


周りから聞き覚えのある声が複数聞こえたがもう耐えきれなくなりそこで意識が途絶えた。

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