苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

ドワーフに会う件

「兄ちゃん達、帝国は始めてかい?」


「はい!帝国はお家がレンガ造りでとても綺麗な街並みだと伺っております!」


「ははは!そりゃ嬉しいねえ、外国から来た人にそう言われるのは!この国はドラゴン以外は平和な国でね。安心して滞在してくだせえ。」


ドラゴンか....魔竜戦争の壁画を見て伝説だけの存在ではないのは確証を得ていたが本当に居るとはな。


「ドラゴンですかぁ、あの方ですかねぇ...」


「あの方?誰だ?」


「竜姫トリスリアですぅ、それはもう一騎当千って感じでぇ、めちゃつよですよぉ?」


また逢いたくない奴が増えたんだが。


ふと馬車のスピードが緩やかになり、前方を見ると鉄製の大扉が現れ、大層な城壁に覆われた帝都が姿を露にしていた。


何て壮観で荘厳...そして静謐さを感じさせる様式だろうか。
民の安寧を是が非でも守ろうという王の心意気を感じる。


ロゼとフェニアと同じく魅入ってしまっていると馬車の御者がこちらに振り向く。


「着きましたぜ。ではよいご滞在を」


「ありがとうございました!」


「どうも、また帰り乗せてくれ」


ロゼが財布から小銭を出しプレートに乗せ、馬車を降りた。


「では帰りはまた声をお掛けくだせえ!それでは!」


御者の男がそう告げると馬の腹を弱めに蹴り、帝都の外にある馬小屋まで走っていった。


ーー「ええと...グルカン工務店...グルカン工務店...あっ!ここです!あったよ!ユウキくん!」


「大声出さなくても聞こえてるっての。ほう...なかなか趣のある店だな」


大きな看板に店名が記載してあり、無骨ながらも技術を感じさせる外観に期待して扉をノックする。


「「.....」」


俺達は顔を見合わせる。
何度もノックをしてみるが応答がない。


「居ないのかなぁ?」


ロゼが不安げに扉を見つめ、ロゼにこんな顔させやがってと苛立ちがつのり、ガンガンと扉を思い切り叩く。


「ユ、ユウキくん!?壊れちゃうよ!?」


「誰か居ないのか!?」


「ご主人様ってほんとに奥様ラブですよねぇ」


やはりそう見えるのか...確かに最近はロゼと居ることに幸せを感じているが。


「そうなんだ~...へえ~」


「なんだ、その顔は...気持ち悪い」


「気持ち悪い!?酷い!あっ、もしかして照れ隠しかな?いつもの照れ隠しかな!?」


バレとる...
これ以上ない程の恥辱に余計ムキになりそっぽを向いていると不機嫌な声と共に扉が開いた。


「なんすか!うちは今、お休みしてるって前々から告知してるじゃないっすか!ほら、帰れ帰れ...あれ....あんた...」


「は?....お、お前...」


「あれ?何処かでお見かけしたような...」


そのバンダナをしたいかにも大工してます感のある男が抱きついてきたので避ける。


「アニキーー!探したっすよー!フィニ!アニキっすよ!アニキ!」


「何を言って...ついに頭が........!」


もう一人奥から出てきたこの店に似つかわしくないシスター服を身に纏う女性に眼を奪われる。


「アルヴィン!?フィニ!?こんなとこで何してやがる!つか生きてたのか!」


目の前に現れたのは勇者パーティーで共に闘った盗賊アルヴィンと僧侶フィニだった。


「ユウキさん!?生きてらしたのですか!?」


「おう、まあな。お前はいつも勝手に俺を殺してくるな?」


「そりゃそうっすよ!あんな化け物に狙われてるんすから!」


奇跡的と言っても過言ではない再会に和気あいあいとしていると奥の一部屋から怒号が響き渡る。


「何やってんだ、てめえら!さっさと追い返せ!」


「ひえぇ~」


皆固まるが俺はその声の主へと向かうためアルヴィンを押し退けずかずかと無遠慮に奥の部屋へと向かっていく。


そしてドアノブを捻り、扉を開けるとそこには酒瓶を片手に持った身長100センチ未満だが筋肉隆々で白いアゴヒゲを生やしたどうみてもドワーフなその初老の男を見下ろす。


「何だてめえ、うちは今閉めてんだ。けえんな」


「あんたがグルカンか?」


「けえんなっつったのが聞こえねえのか!?」


ドワーフは空いている方の手でちゃぶ台に似た机を殴り付け威嚇するが、胡座をかいたグルカンの真正面に胡座をかいて座る。


扉側から視線を感じ一瞥すると不安げな表情で行く末を見守っている4人に構わず言葉を並べる。


「あんたに力を貸してほしい。どうかアルザス村の再建に力を貸して貰えないか?」


「アルザス村だと?あんな辺鄙なところからよお来たもんだな」


「そんな事はどうでもいい。受けてくれるか?」


「断る。ワシは今、仕事なぞどうでもいいんでな」


断固とした姿勢を見せるグルカンは酒を一口含み、こちらを睨み付ける。


「どうしてだ?理由があるのか?」


「てめえにはかんけえねえ」


どうしても話を聞くつもりはないのか、そう吐き捨て俺から視線をずらすがこっちとてこのままおめおめと帰るわけにはいかない。


村の命運を背負っているのだから。


「悪いが話だけでも聞いて貰うぞ」


「おい!てめえいい加減に...!」


「だったら酒の肴にでも丁度いい独り言だとでも思ってな」


「.....」


話を聞こうともしない頑固なじいさんに淡々と村の現状を語っていく。
村が襲われたこと、防衛設備が全くないこと。
そして次大軍が来たら抑えきれるかわからないこと、全て包み隠さず伝えた。


「そうか...だがワシは何もせん。けえりな」


「....分かった....あんたにはもう頼らん...」


これだけ話しても顔色一つ変えないグルカンに嫌気がさし、立ち去ろうと扉に手を触れた時だった。


「待て」と呼び止められ振り向かずに立ち止まり耳を澄ます。


「こっから北東の焼け落ちた村に娘がいる。あいつなら仕事受けるだろうよ。あいつが良いっつったらアドバイザーぐらいはしてやる」


「ああ...分かった...?」


なら何故すぐに受けなかったんだ...と不思議に思いながらも問いはせずに工務店を後にした。


「どうするの?」


「とりあえずは娘に会う。それからだな。」


と、帝都の北門へと歩を進めようとすると背後から声が聞こえてきた。


「おーい!アニキー!俺達も行くっすよー!」


「同行の許可頂けますか?」


追ってきたらしい二人も合流し今度こそ再会を祝しながら目的地に向かうことにした。

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