苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

ハーピーの少女の件

「ごめんなさい。迷惑をかけるわ...後、先程の事も...」


「いや...家族も村も失ったんだ。気にしなくていい、ハーピー」


「........」


彼女には悪いが片腕では腕を肩に回して貰うしかなく辛いだろうがそのままアルザス村まで連れ帰るしかなかった。


「ロゼ!...ロゼ!開けてくれ!!」


「あ、はい!ユウキさんどうでしたか!?...あ...」


「すまん!退いてくれ!」


何とかハーピーの少女を引き摺り家の中に引っ張り込み床に倒れ込む。


「ロゼ、この子を...」


「う、うん。ハーピーさん、大丈夫?」


「ごめんなさい...迷惑をかけて...」


ロゼは優しく微笑むと彼女をベッドへと連れていった。


ーー「ロゼ、おつかれさん。変わるぞ。」


「うん...ごめんね。ちょっと寝てくるね...」


ふらふらとした足取りで俺の部屋から立ち去ったロゼを見送り脇にあった氷水に、ハーピーのおでこに乗った手拭いを拾い上げ漬け込み、搾ってまた乗せる。


すると気が付いたハーピーが俺と目が合う。


「ユウキ...」


「気が付いたか...」


彼女の目は虚ろだ。
それも仕方ないことだ、高熱が出ているのだから当然だろう。
恐らくは怪我をした状態で無理に動いたからかもしれない。


「本当にごめん。あなたに酷いことを...」


「気にするなと言ったぞ。下らないこと言ってないでさっさと治せ」


「ふふ、厳しいのね、あなた。でも、嫌いじゃないわ、そういうの。優しいのね」


ハーピーは俺の無愛想な表情を眺めながらはにかむ。


「あほか...俺はリビングに居る。ハーピー、何かあれば呼べ」


「分かったわ...ありがとう。それとハーピーなんて呼び方止めてくれる?ハニーと呼んでちょうだい。」


「ああ、分かった...いや、ちょっと待て。それ本当にお前の名前なのか?」


「ええそうよ?素敵な名前でしょう?」


魔族はセンスが独特なのか?
そういえば親父からガキの頃聞いたことがあるがお袋は最初、俺の名前をブラックハートにするつもりだったとか...
親父が常識人で心底ほっとする。


「....ああ、悪くないんじゃないか?じゃあな」


「ええ、おやすみなさい」


冗談だろ...と内心思いながら扉を閉めた。


ーー「おい、ハニー。これ使え。多少歩けるだろ。」


「あら、ありがとう。ユウキ。」


持ってきたのは松葉杖だ。
これで多少ましになるだろう。


と、リビングに戻ろうとするとロゼが笑顔ではにかんでいた。


だが、眼が笑っていない。


「ユウキくん?」


「...なんだ?」


「ハニーってなに?」


今まで女に怯えたことはない。
これでも様々な戦場を渡り歩いてきた傭兵だ。
そんな事はあり得ない...筈なのだが今はロゼに恐怖を感じている。


「ユウキくん、私、妻。君、夫。分かる?」


「お、おう...」


「浮気してる?」


「し、してる訳ないだろ...」


額から汗が滲みでる。
するとそこへハニーが松葉杖を翼で器用につきながらリビングに移動してきた。


「私の名前、ハニーなのよ。そういう意味じゃないから安心して?」


「はあ...そうですか...」


一応理解した風だが腕を組み俺を睨み付ける。


「....はあ...今更ですか、ユウキくんがそういうのは...」


「....何がだ...」


「もう良いです。それより今日はどうするの?」


特に何も考えていなかったので困っているとハニーが口を挟んだ。


「だったら村を案内してくれない?」


その一言に俺とロゼは頷いた。


ーー話を聞くところによるとロゼとは友達らしく始めにギルドに舵を取ることにした。


「ハニーさん、もう容態は大丈夫なんですか?」


「まだ足は動かないけどなんとかなってるわ。この人のお陰でね。」


そう言いながら隣で座りながら一杯ひっかける俺の頬を羽で撫でた。


二人は久しぶりのまともな再開に話に華を咲かせている。
俺はというとルーフェに事情を聞くつもりだったがどうらや昼間は働いていないらしく姿が見当たらない。


辺りを見回していると突然扉が勢いよく開いた。


「アル姉、大変だし!ミスミスが!...あ!おっさん!」


「あ?今度はなんだ、トトアーシュ。また何か厄介事か?」


「トトでいいし!つーかそういうの今マジでいいから!」


どうやら余程焦っているのか左隣の丸椅子に座っているロゼを押し退け俺の両肩を掴む。


「ちょっと...なんなんですかぁ...」


「ミスミスが書き置きしてどっかに行っちゃったんだって!」


余程焦っているのか早口で捲し立てていたトトがカウンターに一枚のメモ用紙を叩きつけた。


それを皆で覗き込む。


『今回の件は私のせい。ごめん、トト。追ってこないで。私が始末をつける』


何故ミスティーが例のハンターを気にやむのか分からないがこれだけは分かる。


きっとあのハンターを殺すつもりなのだろう。





コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品