苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

弓っ娘ミスティーの件

「弓っ娘!どういう了見だ!」


一矢、二矢、三矢と連続で放たれる弓矢を剣で凪払っていく。


「ミスティー!」


「....」


俺が始めて名前を呼ぼうとも眉1つ動かさない銀髪少女は尚も弓を放つ。


「...この男、片腕の癖に...!」


その言葉に違和感を覚える。
あのダンジョンでの闘いで俺の力量は把握している筈だ。
なら何故今そんな言葉が出る?
本当にこいつはミスティーなのか?
...だが顔といい、声といいあの弓っ娘と寸分違わない。
ミスティー本人に間違いない筈だ。


俺がどれだけ弓を放とうとも全て切り落とした努力の成果が現れた。


「矢が...くっ!」


「撃ちすぎだ!バカが!」


やはりここでも違和感に襲われる。
あの時のミスティーなら矢切れなんて起こさないように立ち回る筈だ。
なんだ、この違和感は?


だがこれは勝機と見、一気に詰め寄る。


「観念しろ、弓っ娘!」


「ふざけるなっ!」


「なに!?」


彼女は懐から白色の球体を取り出し、地面に投げつけるとそこら一帯が煙に覆われ視界を奪われた。


「煙幕だと!?ちっ!」


追撃が来る可能性に行き着き防御姿勢になるが一向に気配が近づいてくることも、弓矢の音も聞こえない。


そして白煙が風に流されるとミスティーは姿を忽然と消していた。


「逃げたか...」


彼女が居なくなった空間を見つめながら剣を砕く。


「....誰だ...そこにいるのは」


朝に感じたあの妙な気配と視線を今度こそ完全に感じとり、森から少し出たとこの岩場まで警戒しながら確認するが、そこにはもう誰も居なかった。


だがそこに誰か居たのは明白で地面に大葉に包まれた果物が置いてあり、その横には「どうぞ」とだけ地面に文字が掘られていた。


毒でも入っているのでは?と、それを恐る恐る手に取り一口思い切って食べてみると、今まで食べたことの無い程瑞々しく甘い果実だった。


特に毒もなさそうで逆に何が目的なのか少し怖いが...


それを一口で頬張り、足で文字を消した。


ーー夜遅くに村へと帰った俺は家へと直行せずにギルドに向かうことにした。


「いらっしゃいませー!あっ!お兄さん!」


「は?なんでお前がここに?」


扉を開けた先で来店の挨拶をしたのは例の双剣少女だった。


「いやー、実はこの村で住むことになりましてー」


「なんでだ」


「それはそのー、止むに止まれぬ事情がございましてー」


どうも歯切れが悪い茶髪に問い質そうとした時だった。


「まあまあユウキさん。彼女にも帰れない事情があるんですよ。」


「事情ぅ?なんだそりゃ?首長国でなんかやらかしたんか?」


どうも的を得ていたらしく少女とアルは口笛を吹き始めた。
隠すの下手すぎるだろ...


「...まあ、どうでもいいが。ところで1つ聞きたいんだが、お前のパーティーメンバーの弓使いの女の居どころ教えろ」


「...ごめん、私分かんない...」


「ルーフェさん、ここは良いので裏から葡萄酒を持ってきてください」


アルが横から助け船を出すと笑顔で返答し、逃げるようにそそくさと倉庫に隠れてしまった。


「おい、アル。何がどうなってやがる。」


「それについては彼女達の問題ですので口外する訳には参りません。それよりもミスティーさんなら今頃は薬草取りの最中ですよ。」


「何処だ?」


アルはやれやれと言った感じで鼻から空気を漏らし、地図を取り出した。


「2時間ほど前からこの川辺でモルガナを取ってきて貰ってます。」


モルガナとは薬草の一種で傷に効き、よく使われる種類だ。
だがモルガナはとても繊細で集中して抜かないと直ぐに枯れてしまう。
更には川辺は村との往復で30分はかかる距離だ。
ほんの数十分前に俺を襲えるとは到底思えない。
やはり別人か?


少しの間、考えたが聞いた方が早いだろうと川辺に向かおうとアルに告げると「ミスティーさんを疑っているので?」と問いかけられ。


「まだわからん」
俺はそう答えることしかできなかった。


ーー村近辺の川辺に辿り着きミスティーを探しているとギャル娘とミスティーが仕事を終わらせて川で戯れていた。


「おい、お前ら!」


「んあ?...おー、おっさーん!どったのー?」


「ん。おじさん、二日ぶり。」


ミスティーにあっけらかんとそう言葉にされ、余計に混乱を誘われる。


「ミスティー、お前はずっとここに居たのか?」


「?...ん、そう。ずっとトトと居た。」


「トト?」


「あーしの愛称だってば~。トトアーシュじゃ呼びにくいからさー。皆、あーしのことトトって呼ぶんだよねー。」


それはどうでも良いが。
だが重要な証言を聞けた。
トトと居た...か。これが間違いないならあの襲撃はミスティーではない。
ミスティーに容姿をわざわざ似せた何者かの犯行ということだろう。


「ちゃんと名前、知ってた?」


「え?ああ、依頼書に書いてあったからな」


ミスティーはどうやら自分の名前を知られているのを知らなかったようで、いつもの寝ぼけ顔に色が表れたのを見逃さなかった。





コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品