苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

追跡の件

アルザス村の北部にあるルーメイン森林。
木々がうっそうと繁るこの森に弓っ娘ことミスティーを追うべくこの森に踏み込んだ。


「参ったな...どう探すか...」


探しに来たは良いものの、この広大な森を全部探すのは骨が折れる。


草木を掻き分け、獣道を進んでいくと目を疑う状況に出会った。


「これは...血か...?」


大した量ではないが血が点々と奥へと続いていく。


「.....」


それを追っていくと大きな血溜まりが見えてきた。
まるで数人分の血液を搾り取って池にしたような...


「一体なにが...」


「お逃げください!」


「!?」


何者かの声に反応し剣を出現させる。
同時にまた別の気配を察知しヒュッと何かが飛んでくる音が聞こえそちらに振り向き。


「ちっ!....どこのどいつだ!矢を飛ばしやがって!」


俺目掛けて射られた弓矢を剣で斬り落とした。
斬った弓矢が地面に落ちカランと音を立てるとガサガサと木が揺れ、葉が落ちる。


その木を注視すると人影がこちらを見つめており、そのローブ姿の正体不明な何者かは木々を飛び移り逃走した。


「逃がさんっ!」


当然逃がすわけにはいかなかったが「うぅ...」と女性の声が聞こえ足を止めざるを得なくなってしまった。


「....くそ...おい、あんた無事か?」


草葉の陰に隠れていた人物を見つけるが最早手遅れだったらしい。


腹に2本矢がささり、落下した衝撃か両足と翼が折れていた。
特に酷いのは心臓に突き刺さった矢だ。
心臓まで達しているのだろう。
もう助けようがない。
矢が心臓に刺さっていることでかろうじて生きてはいるがこのままにしておけばいずれは心配停止。
抜いたとしても出血多量で死に至るだろう。
もう助けられる方法は皆無だ。


「娘は...娘は生き延びていますか?」


娘?...それを聞いてあのハーピーを思い出した。


「あんたの娘か知らないが村に辿り着いたハーピーならいるが...」


「ああ...!娘...私の娘...よくぞ無事で...!」


恐らくはあの娘の母親なのだろう。
子の無事に安堵し涙を流す。


「どうかお願いします...娘を守ってください...」


「ああ...分かってる...辛いとは思うが事情を教えて貰えないか?」


「分かりました...私の知り得る事をお話します。」


話に聞いたことを整理するとこういう事らしい。


ここら辺、近辺で最近ハーピー達が一人の人間に狩られていたらしい。
どうやら手慣れたハンターのようで、姿を一切見せずあっという間にハーピー達を狩尽くされたらしい。


そこを俺が通り掛かったとの事だ。


「ひでえな...酷すぎんだろ...そいつの目的に心当たりは?」


「...ありません...なにせ、いきなりでしたから...」


やはりあの人物を追うしかないか。
奴が去っていった方角を睨んでいると力なくハーピーの母親が俺の服の裾を引っ張る。


「お会いしたばかりのあなた様にこんな事を頼むのは心苦しいのですが...私を楽にして頂けませんか?」


「あんた、娘のことがあるだろう...生きるつもりは...」


彼女は首を横に振ると「もう永くないでしょう?」とそう問いかけてきた。


きっとこのまま奴のために死ぬくらいなら助けようとした俺に殺されたいのだろう。
人間の生活に染まっている俺にはよくわからないが魔族にとっては誰に殺されるか...それが重要なのかもしれない。


「分かった...すまない。」


「いえ...」


剣の切っ先を彼女の喉元に押し付けると彼女は「娘をよろしくお願いします」とそう告げ息を引き取った。


ーー彼女と周りで亡くなっているハーピーの弔いをしていたらいつの間にか日が落ち始めていたのでアルザス村へと急ぐ。


その道中だった。犯人かもしれない女と邂逅したのは。


「弓っ娘...お前こんな所で何をしている」


森の入り口に辿り着くとそこに居たのは弓の名手、ミスティーだった。


彼女はあのローブのフードから見えた銀髪を静かに風に擽らせると俺に対し弓を射った。


「....君も死んで...」


彼女は俺に紛れもない殺意を抱きながら。





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