苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

不思議な剣を拾った件

「なに?壊れただと?...いや、今のは自ら?」


空虚感を感じる右手を眺めていると微かだが右腕の黒い紋様が脈打つのを感じた。
だがそれ以上何も起こらないようだ。


「ん?...足音か。ローゼリッタ、誰かこっちに来るぞ。戦えるか?」


「はい!これでも剣術大会で優勝しましたから!」


「ほう、そいつは重畳だな。」


どうやら腕に覚えがあるらしく、実際構えもしっかりしている。
大会剣術とはいえそれなりには使えるだろう。
だが肝心なのは自分自身だ。
先程は不意打ちだった為上手くいったが武装した連中が真っ向から来るのでは分が悪い。
武器の一つでも適当に取っておくべきだったか。


「仕方ない。そこらの適当な武器でも。」


「え?それ使わないんですか?」


「...なんだこれは...さっきの剣...か?」


自分では気づいていなかったが、いつの間にか砕け散った筈の漆黒の剣が左手に握りしめられていた。


初めて触る筈のそれは、とても軽く、そして何故か俺の手に馴染んでいる。
まるで長年愛用しているかの様だ。


「これは何事だ!?交代にこないと思って来てみたら!」


「全員生きています。気を失ってはいますが。」


「ここの扉、少し開いています!」


兵士の1人の言葉を皮切りに重鎧を着た兵士長らしき男が扉を蹴破った。
そしてその隙を逃さず漆黒の剣を振り切った。


その威力は絶大で重鎧を軽々と切り裂いてしまう。


「がふ...」


「悪いな、あんたに恨みは無いが死ぬわけにはいかん。目的はまだ達してないんでな。ここを押し通らせてもらう。」


どしゃっと肉の塊となった兵士長が地に落ちるのを見た二人の兵士が硬直するなか、始めに動いたのはローゼリッタだった。


「私とてここに居るわけには参りません!申し訳ありませんがお命頂きます!」


目にも止まらぬ速度に加速したローゼリッタが兵士の喉元を一突きし、絶命させる。
それにしてもローゼリッタには何度も驚かされる。
   ・・
まさか霊技マギも使わずにそこまでの速度を出せるとは。
速度だけなら俺やガーフェナは敵わないだろう。


それを見て、俄然やる気が出てきたのか精霊から力を得、霊技を発動する。


「滅旋戟!」


剣を一振りし剣に込めた闇精霊の力を乗せた剣戟を飛ばすと車輪のような弧を描きながら兵士に当たると真っ二つに切り裂いた。


「ユウキ様、精霊技ル・マギカまで使えるのですか!?」


驚くのも無理はない。
精霊技は人間のみ、魔法は魔族のみが扱える種族固有の能力だからだ。


「魔法も使えて、霊技も使える...一体ユウキ様は何者なのですか?」


「それはおいおい教える。ほら、まずは脱出するぞ。」


「はい!」


これだけ暴れたのだからいい加減バレてもおかしくないだろうと駆け出した。


...案の定、脱獄していたのがバレてしまい、兵士がわらわらと出現し始めた。
斬っても斬って次から次へと湧き出てきやがる。
こいつらリポップ機能でも内蔵してんのか?


「はっ!」「せやあっ!」


大体30分程だろうか。
俺とローゼリッタは城内を舞台に大活劇を披露していた。
斬った兵士も100人を越えた辺りから数えるのを止め、ローゼリッタの指示する方角へ逃げていると。


「跳べ!」


連絡橋に入り、周りを囲まれる。
するとどこからともなく声が聞こえ俺達は、橋からジャンプし、一階に難なく着地した。
直後、背後上空の橋から炸裂音と衝撃が響く。
振り向くとそこには。


「アルヴィン!」


盗賊のアルヴィンが爆薬で橋を壊し、行き来出来なくしていた。


だが兵士から存在を消しているからか口パクで伝えようとしている。


「この先に馬がいるっす、いってくださいっす...か?...ふっ、流石盗賊。ぬかりねえな。」


俺も口パクでよくやったと伝えるとアルヴィンは闇夜に消えていった。


大混乱に陥った城内を利用し俺達は馬屋へと歩を進める。


「あそこが馬屋です!」


「...!?...ちっ!やはりそう簡単には行かんか!」


「え?...あれは!」


馬屋に繋がる唯一の通路に兵士数人と更には...


「レオン...そこをどけ...!今度ばかりは容赦しねえぞ!」


聖剣を携えた勇者が仁王立ちしていた。


「この時を待ちわびたぞ、ユウキ!これで晴れててめえをぶっ殺す算段が整った訳だ!」


「はあ?寝ぼけてんのか?寝言は寝てから...ローゼリッタ?」


「申し訳ありません。ユウキ様。ここは私に...」


鬼気迫る雰囲気に飲まれ一歩引き下がる。


「おい、ローゼリッタ!今なら許してやる!勇者の名においてな!こっちに来い!」


「黙りなさい!俗物が!」


その堂々たる雰囲気から放たれる声色が場に緊張感が走らせる。


「あなたは私を襲うだけでは飽き足らず、ユウキ様にあのような仕打ちを...!断じて許せません!勇者の名を汚す輩に付き従う真似は断じて致しません!」


その襲う...という一言が兵士達に困惑を招く。


「襲ったのはその男では...?」


「いや、そもそもどうして、姫様は罪人と共に?それも庇うような...」


道中もそうだったがやはり不思議に思わざるを得ないのだろう。
何故強姦した男と強姦された女が一緒に逃亡しようとしているのか...理解など出来る筈もない。
なにせレオンお得意のオオ嘘なのだから。


「う、うるさい!うるさい!賊に絆されるような女、俺の妻には相応しくねえ!お前ら今すぐその女を殺せ!」


「レオン!てめえ...!」


堪忍袋の緒が今にも切れそうだったがそれよりも早くローゼリッタがレイピアを構え、一瞬でレオンの喉元に切っ先を突きつけた。

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