オトギ・オブ・ザ・ワールド
赤ずきん 1話
「ふっふふんふふ~ん。ふっふふ~ん。」
鼻歌混じりにスキップしながら森の奥へと進んでいく。
「もうすぐおばあちゃん家だなぁ......元気にしてるかなぁ.....」
場所が丁度中間ぐらいに差し掛かったころ。
不意にがさがさと草木が揺れ、私はスカートの下に忍ばせたナイフに手を伸ばす。
「...?.........っ......!」
次第に音が大きくなるにつれ、私の警戒心もより増幅していき、意を決して太ももから、するっ....とナイフを取り出し、構えた刹那、何者かが飛び出した。
「あれ、赤ずきんじゃないかい?どうしたんだ、こんなところで」
「ほんとだぁ。赤ずきんなにしてるだぁ?」
「なーんだ、犬のお巡りさんと森のくまさんじゃない。驚かさないでよー」
だが現れたのは犬の姿をした警察官と森の安全を守る熊だった。
私はナイフを戻し、目付きをいつもの穏やかなものへと変えていく。
「なにって、おばあちゃんとこに行くんだよ」
「ああ、お見舞いかい。」
「うん、そだよ。私よりも二人はどうしたの?」
そう問いかけると二人は難しい顔を見合わせている。
「最近ここらで人狼が出て人が襲われてるだぁ。だから巡回しとるんだなぁ」
「人狼....怖いね....」
「赤ずきんも気をつけてくれ。襲われたら喰われちゃうからね」
「う、うん....気を付けるね」
怖じけながらそう返すと、不安そうにしていた二人が踵を返し。
「じゃあおら達は町の方に巡回に行くでなぁ。赤ずきん、早く帰るんだぞぉ」
優しげな瞳をさせながら去っていった。
「.............」
ざあっと風が吹き、木々が揺れ、まるで森全体がざわめいているような様相に私の体もブルッと震える。
「っ......は、早くいこ....」
人狼の話を聞き、完璧に臆病風に吹かれた私は小走りでおばあちゃんの家へと駆け出した。
ーーそれから10分程経った頃。
「......後少しで着くかなぁ...........あれ?なんだろあれ....」
走り疲れ、注意深く歩いていると、参道の真ん中辺りで何かが転がっているのが眼に入った。
先程の話もあり、近寄らずに目を凝らしているとハッとした。
「あれって.....人....だよね?見たこと無い服着てるけど旅の人かな.....っていうか死んでないよね?」
もしや人狼に襲われたのか、とも過ったがどちらにしてもそこを通らないといけないので、そろりそろりと足音を抑え近づき、覗き込んでみる。
「....男の人?私よりもちょっと年上かな....?」
外傷も無く、死んでいるように見えないその男性が妙に気にかかり、私は手を伸ばした。
◇◇◇
「おーい、お兄さん大丈夫ー?」
誰かが俺の身体を揺さぶり、意識がハッキリと戻ってくる。
「生きてる....よね?生きてたら起きて~?」
聞き覚えの無い少女の声に閉じた瞼がピクリと反応し、ゆっくりと目を開いていくと、そこに居たのは...
「お、生きてた。大丈夫?お兄さん?」
「.....だ、誰?.......え!?ここはどこだ!?」
「きゃっ!」
これまた見覚えの無い可愛らしい顔立ちで赤いフードを被った女の子だった。
恐らく年齢は14歳ぐらいだろうか、幼さの残る顔、フードから覗く栗色の髪が揺れている。
だがそれよりも驚きで身体を飛び上がらせ、周りをキョロキョロと見渡す。
「なんだここ.....さっきまで俺は東京に....こんな森なんかに居なかったぞ.....?」
ひきつった表情をしながら、慌てふためいている俺に驚いて尻餅をついている少女が立ち上がりながら服についた土をパンパンとはたき落としている。
その顔には少し苛立ちが見えた。
「ちょっと~....ビックリするでしょ~?お兄さん大丈夫?」
「ご、ごめん.....大丈夫....だと思うけど......えっと君は誰なの?コスプレイヤー?」
「コス....?なにそれ?....私の名前は赤ずきんだよ。向こうのレッドフードタウンに住んでるんだけど.....お兄さんは何者?」
赤ずきんという聞き覚えのある名前に肩がビクッと震える。
「え?...それって童話の....?いやいやいや」
一瞬とはいえそう思いはしたものの、きっとなりきっているのだろうと決めつけ。
「赤ずきんね....分かったよ.....で、ここどこなの?」
「なにその適当な言い方.....だからレッドフードタウンの近くの森だってば!」
レッドフードタウン?聞いたこと無い。
そもそも名称的に日本じゃないのかもしれない。
ふと、あの怪しいフード女を思い出した。
「だからそんな場所しらないって.....所でさ、近くでフードを被った紫色の唇をした大人の女の人見なかった?」
「なんなの、この人.......見てないよ!もう!大丈夫ならもう行くからね!」
ぷりぷり怒り始めた赤ずきんと名乗った少女がずかずかと森の奥へと歩み始めたが、彼女の細い腕を掴み引き留める。
「きゃ!な、なんなの!なにすんの!?」
「ま、待って!じゃ、じゃあ東京にはどういったらいいかな?交通機関とかある?」
「トーキョー?コーツーキカン?聞いたこと無いけど.......いい加減離して!」
「ご、ごめん.....」
赤ずきんはバッと腕を振ると、予想以上の腕力で俺の手から逃れた。
「......お兄さんもしかして迷子?」
「迷子.....迷子なのかな......」
その迷子という言葉にある記憶が呼び起こされる。
図書室に来た女の子二人が言っていた都市伝説。
オトギの世界に引き込まれる....その話が何故か今、頭にうかんだ。
バカらしいとは思うが、半信半疑で聞いてみると。
「ねえ....ここって地球だよね....?」
「チキュウ?また知らない単語だなぁ.....」
「.......じゃ、じゃあこの星?世界?の名前は?」
「ほんとなんなの、この人....頭打っちゃったのかな........そんなのオトギ・オブ・ザ・ワールドに決まってるじゃない?」
オトギ・オブ・ザ・ワールド....その名称には聞き覚えがある。
あのフードの女が最後に口にしていた言葉だ。
バカな考えだとは思うが、一旦口にしてみようと思う。
「あの本のせいで、ここに来た....のか?」
俺の心がざわつき、冷や汗が吹き出る。
「あの本って?」
赤ずきんが不思議そうに訊ねてくるので本の題名を口にすると、納得したように言葉を連ねた。
それも聞きたくなかった言葉を。
「ああ、それ見ちゃったの?その本、どこかの魔女が作った別の世界から人を呼ぶ魔法の本らしいね。って事はお兄さん....生け贄人.....あ....じゃなくて、彷徨者なんだね.....」
「い、生け贄人....だって?」
なんとなく繋がった気がする。
あの行方不明事件。あの学校の生徒だけが被害に遭った事件。
今度はどうやら俺が巻き込まれたらしい。
最悪な展開だろう。
鼻歌混じりにスキップしながら森の奥へと進んでいく。
「もうすぐおばあちゃん家だなぁ......元気にしてるかなぁ.....」
場所が丁度中間ぐらいに差し掛かったころ。
不意にがさがさと草木が揺れ、私はスカートの下に忍ばせたナイフに手を伸ばす。
「...?.........っ......!」
次第に音が大きくなるにつれ、私の警戒心もより増幅していき、意を決して太ももから、するっ....とナイフを取り出し、構えた刹那、何者かが飛び出した。
「あれ、赤ずきんじゃないかい?どうしたんだ、こんなところで」
「ほんとだぁ。赤ずきんなにしてるだぁ?」
「なーんだ、犬のお巡りさんと森のくまさんじゃない。驚かさないでよー」
だが現れたのは犬の姿をした警察官と森の安全を守る熊だった。
私はナイフを戻し、目付きをいつもの穏やかなものへと変えていく。
「なにって、おばあちゃんとこに行くんだよ」
「ああ、お見舞いかい。」
「うん、そだよ。私よりも二人はどうしたの?」
そう問いかけると二人は難しい顔を見合わせている。
「最近ここらで人狼が出て人が襲われてるだぁ。だから巡回しとるんだなぁ」
「人狼....怖いね....」
「赤ずきんも気をつけてくれ。襲われたら喰われちゃうからね」
「う、うん....気を付けるね」
怖じけながらそう返すと、不安そうにしていた二人が踵を返し。
「じゃあおら達は町の方に巡回に行くでなぁ。赤ずきん、早く帰るんだぞぉ」
優しげな瞳をさせながら去っていった。
「.............」
ざあっと風が吹き、木々が揺れ、まるで森全体がざわめいているような様相に私の体もブルッと震える。
「っ......は、早くいこ....」
人狼の話を聞き、完璧に臆病風に吹かれた私は小走りでおばあちゃんの家へと駆け出した。
ーーそれから10分程経った頃。
「......後少しで着くかなぁ...........あれ?なんだろあれ....」
走り疲れ、注意深く歩いていると、参道の真ん中辺りで何かが転がっているのが眼に入った。
先程の話もあり、近寄らずに目を凝らしているとハッとした。
「あれって.....人....だよね?見たこと無い服着てるけど旅の人かな.....っていうか死んでないよね?」
もしや人狼に襲われたのか、とも過ったがどちらにしてもそこを通らないといけないので、そろりそろりと足音を抑え近づき、覗き込んでみる。
「....男の人?私よりもちょっと年上かな....?」
外傷も無く、死んでいるように見えないその男性が妙に気にかかり、私は手を伸ばした。
◇◇◇
「おーい、お兄さん大丈夫ー?」
誰かが俺の身体を揺さぶり、意識がハッキリと戻ってくる。
「生きてる....よね?生きてたら起きて~?」
聞き覚えの無い少女の声に閉じた瞼がピクリと反応し、ゆっくりと目を開いていくと、そこに居たのは...
「お、生きてた。大丈夫?お兄さん?」
「.....だ、誰?.......え!?ここはどこだ!?」
「きゃっ!」
これまた見覚えの無い可愛らしい顔立ちで赤いフードを被った女の子だった。
恐らく年齢は14歳ぐらいだろうか、幼さの残る顔、フードから覗く栗色の髪が揺れている。
だがそれよりも驚きで身体を飛び上がらせ、周りをキョロキョロと見渡す。
「なんだここ.....さっきまで俺は東京に....こんな森なんかに居なかったぞ.....?」
ひきつった表情をしながら、慌てふためいている俺に驚いて尻餅をついている少女が立ち上がりながら服についた土をパンパンとはたき落としている。
その顔には少し苛立ちが見えた。
「ちょっと~....ビックリするでしょ~?お兄さん大丈夫?」
「ご、ごめん.....大丈夫....だと思うけど......えっと君は誰なの?コスプレイヤー?」
「コス....?なにそれ?....私の名前は赤ずきんだよ。向こうのレッドフードタウンに住んでるんだけど.....お兄さんは何者?」
赤ずきんという聞き覚えのある名前に肩がビクッと震える。
「え?...それって童話の....?いやいやいや」
一瞬とはいえそう思いはしたものの、きっとなりきっているのだろうと決めつけ。
「赤ずきんね....分かったよ.....で、ここどこなの?」
「なにその適当な言い方.....だからレッドフードタウンの近くの森だってば!」
レッドフードタウン?聞いたこと無い。
そもそも名称的に日本じゃないのかもしれない。
ふと、あの怪しいフード女を思い出した。
「だからそんな場所しらないって.....所でさ、近くでフードを被った紫色の唇をした大人の女の人見なかった?」
「なんなの、この人.......見てないよ!もう!大丈夫ならもう行くからね!」
ぷりぷり怒り始めた赤ずきんと名乗った少女がずかずかと森の奥へと歩み始めたが、彼女の細い腕を掴み引き留める。
「きゃ!な、なんなの!なにすんの!?」
「ま、待って!じゃ、じゃあ東京にはどういったらいいかな?交通機関とかある?」
「トーキョー?コーツーキカン?聞いたこと無いけど.......いい加減離して!」
「ご、ごめん.....」
赤ずきんはバッと腕を振ると、予想以上の腕力で俺の手から逃れた。
「......お兄さんもしかして迷子?」
「迷子.....迷子なのかな......」
その迷子という言葉にある記憶が呼び起こされる。
図書室に来た女の子二人が言っていた都市伝説。
オトギの世界に引き込まれる....その話が何故か今、頭にうかんだ。
バカらしいとは思うが、半信半疑で聞いてみると。
「ねえ....ここって地球だよね....?」
「チキュウ?また知らない単語だなぁ.....」
「.......じゃ、じゃあこの星?世界?の名前は?」
「ほんとなんなの、この人....頭打っちゃったのかな........そんなのオトギ・オブ・ザ・ワールドに決まってるじゃない?」
オトギ・オブ・ザ・ワールド....その名称には聞き覚えがある。
あのフードの女が最後に口にしていた言葉だ。
バカな考えだとは思うが、一旦口にしてみようと思う。
「あの本のせいで、ここに来た....のか?」
俺の心がざわつき、冷や汗が吹き出る。
「あの本って?」
赤ずきんが不思議そうに訊ねてくるので本の題名を口にすると、納得したように言葉を連ねた。
それも聞きたくなかった言葉を。
「ああ、それ見ちゃったの?その本、どこかの魔女が作った別の世界から人を呼ぶ魔法の本らしいね。って事はお兄さん....生け贄人.....あ....じゃなくて、彷徨者なんだね.....」
「い、生け贄人....だって?」
なんとなく繋がった気がする。
あの行方不明事件。あの学校の生徒だけが被害に遭った事件。
今度はどうやら俺が巻き込まれたらしい。
最悪な展開だろう。
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