異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

リンカの過去がちょっと分かったがそんなもん俺には関係ねえ

同日の夕方前。
日が落ちる前に行動しようと屋敷に戻りリビングに着くと、俺の怒りのボルテージがマックスを迎えた。
「ごるああああっ!リンカァァァアっ!てめえ、ひとが折角、稼ごうと右往左往してんのに!なに寛いでんだ、この穀潰しがぁっ!」
「やばっ.....お、お帰り.....ユウトくん.....お、遅かったね.....?.....いぃ!?.....いったぁぁぁい!うわあああん!殴った~!うわああん!」
またしてもソファーから顔を少しだけ覗かせているリンカの口元についている、フルーツの果汁と果肉が目に入り怒りを抑えきれずげんこつをお見舞いした。
「うるせえわ!おまっ!ほんと!ないわ!ほんとない!普通他人の買ってきた食い物勝手に食うか!?品性どうなってんだ!」
「だ、だってぇ、お昼ごはん無かったんだもん....」
「はあ?なんで?朝に昼御飯作っといただろ?」
するとリンカが頭を擦りながらぼそぼそと語り始めた。
自業自得で、バカらしい物語を。


ーーそれは遡ることお昼前後....俺がギルドで昼飯を食っている時に起こったらしい。
「ごっはん!ごっはん!ユウトくんの手作っりチャーハン!」
丁度お昼時ということで、朝、作り置きしておいたチャーハンを台所の棚から出し、スキップしながらテーブルに持っていったらしい。
そこでたまたま洗濯物を取り込んでいたルカが、裏口から入るなり声を掛けた。
「あっ!.....お姉ちゃん......触っちゃだ.....め.........っ......!...........ほんとどうしようもねえな、姉御は..........です」
「ぶふぅっ!......ふわあああん!こけちゃったよ~!ご飯が~!」
どうやら自分のふくらはぎに足を引っ掛けてしまったらしく、そのままスライディングするように床に滑り込んだらしい。
というのが、今回の顛末らしい。
なんともアホらしく、自業自得で、かつ残念すぎるリンカに涙を誘われる。


ーーなんていうか、こう....心配になってきた。
今後こいつはどうするんだろうか?もしかして俺の傍に一生居るつもりか?
冗談じゃない。こんな女の一生面倒なんてみたくない。
誰か引き取ってくれないかな。
「ごめんねぇ.....ほんとはフルーツ食べちゃダメなの分かってたけど、誘惑に勝てなくて......つい」
一応は反省しているらしいが、いかんせん心が弱すぎる。
泣きながら許して貰おうとしがみついてくるリンカを引き剥がしながら、今まで聞けなかった件を聞いてみた。
「お前さ、なんでそんななの?なんつーか....どうやって生活してきたんだ?そんなドジばっかりやってたら日常生活難しかったんじゃないのか?」
「え?......あれ?言ってなかったっけ?私、あっちに居たときはメイドがやってくれてたから、自分でやること無かったもん」
「は?はあああ!?そ、それマジなのか!?」
俺の焦り混じりの早口にリンカが首を傾けながら頷いた。


って事は、こいつマジもんのお嬢様だったのか。
だからこんな何も出来ない娘に.....だから良いのかと言えばそういう訳では無いが、何となく合点はいったかもしれない。
合点はいくがだからそれが何だ?という感じだけども。
「はあ.....いいか、リンカ.....お前の今までの境遇から色々難しいのは分かる....お前がドジで何も出来ないのもきっと両親やメイドが相当過保護だったからだろうな」
「ねえ、サラッと今酷いこと言わなかった?言ったよね!?ねえってば!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐリンカの肩に両手を置き、見つめるとリンカが目線をずらし押し黙った。
「.......うぅ......」
「だけどな.....ここは危険な異世界なんだ....だから」
ラノベや漫画なんかの主人公なら『大丈夫だよ。一緒に慣れていけばいいさ』とか『僕がついてるから安心して』とか甘いマスクで甘ったるぅい戯れ言を呟くんだろうが俺はそうじゃない。
ふざけてんのかとそいつらに言いたい.....お前らと違ってな.....俺は普通の人間で自分が一番可愛いんだよ!ってな!
「だからな、リンカ......お前がこれ以上俺に迷惑かけるんならパーティーから追い出すからな?俺は死にたくないし、無駄な苦労も背負いたくない。楽しみにしていたフルーツも取られたくないし、何より自業自得の癖に被害者ぶるのがくっそ腹立つんだよっ!分かったかっ!!この被害者面の穀潰しがっ!」
「ふええ~ん!ごめんなさ~い!私も頑張るから!頑張るから見捨てないで~!」
いつかのような光景といつかのような腕力でしがみつこうとするリンカをひょいっと避け、リンカの頭をむんずと掴む。
そして掴んだまま支えにし立ち上がる。
「いたい!いたい!いたい!いたい!予想外の、仕打ちに困惑だよ!」
床にリンカの顔をめり込ませ、何故だか理解不能だが大量の洗濯物に埋もれているルカを助け起こしながらリンカにぼそりと語りかける。
「ったく、お前は.....飯食ったら一仕事あるからな。ちゃんと働くんだぞ。」
「.....う、うん!頑張るよ!私、頑張るから!」
まるで子供の様にぱたぱたと手をペンギンの様に振り近づいてきたリンカにルカを預け、取り敢えず.....洗濯物を畳むことにした。


◇◇◇


「こんなとこに何の用事なのー?」
リンカの言うこんな所とは職人通りの最奥にある広場....廃材置き場だ。
「勿論、廃材を貰いに来たんだっての。これで露天を作るんだよ」
「露天?なんで?」
ついさっき説明したんですけど。お前のおつむはどんぐりレベルなの?
「だーかーらー!アクセサリーの生製作と販売の為だっての!いい加減....はあぁ.....もう疲れた......」
「お兄ちゃん......元気だして....?」
俺を元気付けようとその小さい手で、右手をにぎにぎしているルカを見下ろす。
「ルカ、留守番してても良いんだぞ?家事もしてたんだし、疲れたろ」
少し目蓋が下がってきているルカにそう呟いたが、ルカは拒否を示すように首をブンブン振りかぶった。
「いや......お兄ちゃん今日.....ずっと居なかったから.....一緒に居たい.....」
「うっ.......!」
か、可愛すぎる.....俺のハート持ってかれそうになったぞ。
正直ロリコンに目覚めても良い気がしないでもない。
ルカミディア、恐ろしい娘!
「そ、そうか....まあルカがそういうんなら....」
「うん...。....?....あそこ誰か.....居る.....」
ルカの指差す方を見てみると確かに人影が魔動機(魔力で動く機械)のライトの真下にぼんやりと浮かんでいた。
恐らくは管理人だろう。
「ちょっと話してくる。リンカを頼んだぞ」
「うん.....勝手しないように.....見とく....」
「まるで私が子供みたいなんですけど.....」
自己分析出来てるじゃねえか、その通りだよ。


小走りで向かうと向こうも気付いたのか声を掛けてきた。
「おーい、どうしたー?何か用かー?」
「......ああ、悪いんだけど廃材貰って良いかな?ちょっと入り用でさ」
「何に使うんだ?」
こんな夜に来たせいか、やはり怪しまれてしまっているようだ。
そこへ、二人も加わる。
「ああ....ちょっとあるものを作りたくてさ」
「あるもの........ああ、なるほど。いいぜ、持ってきなよ」
ルカとリンカを見た途端何故か納得するように頷き、廃材置き場の扉を開いた。
「いいのか?」
「おうともよ、奥さんと子供に何か作ってやるんだろ?頑張ってな、旦那さん!」
と、俺の背中をパンパンと叩く。
「どうも.......おい、ちょっと待て。奥さんと子供って誰が?」
「いや、そこの銀髪の娘が娘で、黒髪の美人さんが奥さんだろ?違うのか?」
「ちがっ!」
「まあまあまあ、良いじゃん今はそれで!早く行こ!あなたっ!」
「えと.....私が.....奥さんでも.......良い......」
ぐいぐいと二人が俺を奥へと引きずろうとするが、何とか訂正させようと踏みとどまる.....しかし二人の方がステータスが上なのでずるずる引きずられていった。
「いやーー!訂正!訂正させてぇ!いぃやぁぁ!」
ずるずると連れ去られ管理人の姿が見えなくなるとポツリと独り言が耳に届いた。
「仲睦まじい家族だねぇ。羨ましいこって」
だから違うっつってんだろ。





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