異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

ルーメルタウン巡り

「まじで覚えてきちまったのか。あんた大したもんだな。巷じゃあ二股男だの屑野郎だとか、ニートだとか言われてたがやる時はやるんだな」
「ははは、まあそれなりには....おい、ちょっとまてや、ニートってなんだ。初めて聞いたぞ。」
また謂われのない名称に驚きを隠せない。
俺の悪評を広めているやつでもいるのか......一人心当たりあるな。
騎士の癖にやることのせこい奴だ。今度パンツ剥ぎ取って町中の男に似顔絵と共に見せびらかしてやろう。
「ま、まあ良いじゃねえか。俺らは分かってるんだしよ。ほら、それ貸しな?」
「よろしく......良くは無いが?全然良くないんだけど」
最近町を歩くと女性からの視線が冷たい。
確かに風評被害とは言えない事も実際しているけど、リンカよりかは働いてるんだが。
そこは評価するべきだろ。


鍛冶屋のおっさんが、さらさらとサインを書き留め、それを手渡してきたので受けとる。
「それじゃあ商売頑張んな。また来いよ」
「うぃっす。お疲れーっす」
と、軽めに挨拶をして、鍛冶屋の扉を潜った。


◇◇◇


地図を見ながら町の外れまで行くと石造りの寂れた書店を発見し、看板を見上げる。
「ルセット書房.....なんかこの町に似つかわしくない造りの建物だなぁ」
この町は基本、レンガ造りの建物ばかりなので、こういう砂漠の町にありそうな建物は珍しい。
余計不安を煽る。ちゃんと揃っているんだろうか....
「まあ....お姉さんの紹介だし、変な所ではないだろ」
と、無理矢理納得し、頭を振りかぶり意を決して扉のない入り口を潜ると、魔法で灯すランプに照らされた風情ある店内に躍り出た。
「へえ、悪くないな。蔵書数もなかなかありそうだし」
「何かお探しですか?良ければお手伝いしますが」
「あ。ありがとうございま.....ひゃあっ!!」
初対面で失礼だとは思うが驚かずには居られなかった。
その店員さんは古代エジプトからいらっしゃったのかと思うほどのアヌビス顔だったからだ。
あの狐なのか、なんなのか良く分からない顔がすぐ近くまで来ており、数歩飛び退いてしまった。
「ご、ごめんなさい。悪気は無かったんだけど」
「構いませんよ。あの国以外ではなかなか見当たらないと思いますから。私達魔族の者は」
「魔族なのか?もしかして魔界から?」
そう問いかけると困った顔をさせてしまった。
「はい。お嫌でしたか?」
最初こそ驚いたが落ち着いてくると、彼女の長い睫毛や穏やかな表情や優しい言葉遣いに安心感を感じ始めていた。
俺がケモナーなら落ちていたかもしれない。
「いや、そんな事ないよ。あんたの国も色々と大変なようだし、ここに腰を落ち着けても良いんじゃないか?それはそうとスキル習得本ってある?鍛冶の派生スキルね」
「ありがとうございます。お客様は人間族の割に珍しく色々と事情通なようですね。.....私はちょっと魔王様の性癖とやり方にはついていけなくて....こちらに御座いますよ。案内します」
アヌビス顔の店員に付いていき、店の最奥まで行くと戦闘スキルや生活スキル、職業スキルに分けられた棚にたどり着いた。
「どのような本をお探しですか?お取りしますが」
「えっと....アクセサリーの作れる種類を増やしたいんだけど、ステータスアップ系やスキル付与系が習得できるやつとか」
「それでしたらこちらですね」
要望を聞くなり、棚の角にあった埃をかぶった一冊の本を取り出し、パンパンと埃を払い手渡した。
「サブ鍛冶スキル『能力付与』のすすめ?これで習得出来るのか?」
「はい、鍛冶スキル持ちの方が本を開くと自動でカードに習得されます。お買い上げされますか?」
「買うつもりなんだけどいくらなの?」
「ちょっと見せて貰えますか?」
本を渡すと裏表紙を見つめ、頭を悩ませている。
「本来は1500セルカなんですが、この本、全く売れないので500セルカにまけますよ」
「え?いいの?なんか悪い気がするんだけど」
まあこの町には鍛冶屋は一軒しかないし、俺みたいな便利屋じゃなきゃ目もくれないからな。
にしても初めての客にそこまでしていいものなのだろうか。
「ふふ。いつもならしませんけど、なんだかお客様とは長い付き合いになりそうで。それに魔族にも分け隔てなく接して頂けますから」
「ならいいけど。買うよ、それ。」
「ありがとうございます♪他にご所望の物は御座いますか?」
「あっ、そうだ。後はアクセサリーの見本が載ってる本とかあるかな?」
店員が少しの間、頭を傾げていると突然、ポンと手を叩いた。
「一昨日に王都から届いたばっかりの都会向けアクセサリーの雑誌がありますから持ってきますね。少々お待ちください」
と、それだけ言い残すとすたすたと一番間取りを大きくしてある店の中央へと進んでいった。
俺は手持ち無沙汰になり、本を適当に物色していると、呪い師とバトルマスターの習得本を見つけ手に取り、裏表紙に記載してある値段を見ると。
「クソ高いやんけ。こんなん買えるか」
いざという時の為に少しでも戦力を増強したかったがどちらも上級職というだけあり、一冊5000セルカだった。
俺はそっと本を棚に戻した。

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