異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

エステー協会のシスター

「これとこれとこれ、下さい」
「ありがとうございます!合計で430セルカで御座います!」
ポケットから麻で作ってある小さい銅貨袋を取り出しお札を取り出していると。
「こんにちは、この近辺でお見かけ致しませんが別の土地から来られたのでしょうか?」
隣に割り込んできた女性の声につられ、そちらを見るとシスターがいた。
めっちゃ巨乳で、金髪の超絶美人が。
周りの男達も勿論のこと、俺もその女性に釘付けになる。
だがおかしい....その豊満な胸元に縫い付けられた協会のマークを見るなり皆目を逸らした。
ここ最近、変な女どもに関わっていたお陰か、びびっと来た。
こいつは関わっちゃいけない系だ。
「そ、そうだけど....ごめんなさい。俺もう行きますんで.....はい、430セルカ。それじゃあ.....」
「ありがとうございましたー......店長ー!あの女が!」
「一旦店閉めるぞ!」
と、お肉屋の店長がそう叫ぶなり商品そっちのけで奥に引っ込んでいってしまった。
何事かと周りを見渡すと他の店も続々と店を閉めている。
明らかに異常な光景に冷や汗が頬を伝い始めた。
「あー、じゃあ俺もそろそろ.....ぎゃあああ!う、腕がああっ!痛い痛い痛いぃっ!何すんだ、あんた!離せよ!いっでぇ~~っ!」
「あらあら、まだ良いじゃありませんか。折角こうして出会えたのですもの。少しお話致しませんか?」
「致しませんが!?はなっ!離して!折れるぅ!」
逃げようとしたら、そのシスターが俺の右手首を捻りあげ、痛みで地面に膝をついているとにこやかにそう告げてきた。
なんなの、こいつ!今まで会った奴で一番ヤバい!
ノーモーションでやりやがった!
「あら、それは残念ですわ。ならこの手首とはさようならを.....」
「行きますぅ!なので止めてくださいぃぃ!」
「ふふ、聞き分けのいい人って好きですよ?では行きましょうか?」
ようやく離してくれた手首は真っ赤で、そこをさすっていると、いきなり胸ぐらを掴まれ、引き摺られながら連れ去られた。
もうそろそろ女性恐怖症になりそうだ。


◇◇◇


「エステー協会にようこそおいで下さいました。歓迎致します」
「無理矢理連れてこられて歓迎もくそも....はい.....」
シスターが拳をミシッと鳴らしたのでそれ以上何も言わないことにした。
理由は勿論、怖いからである。
「では、お入りください」
「お、お邪魔します.............!?」
「?...どうかなさいましたか?」
趣のある協会の扉から中に入るなり驚きの余り、声が出せなかった。
この協会ぼろっちいだとか、信者はおろか神父もいないとかではなく、協会の一番奥に位置する神像に驚愕し、嫌な予感がした。
何故、あのギャル神が奉られているんだ...
絶対この協会ろくでもない場所だぞ....
「も、もうそろそろ良い頃合いだし、帰らせて.....」
「まあまあ、まだ良いじゃありませんか。....ね?」
「..........へい......」
シスターが地面を思い切り踏むと建物が揺れた。
この人、本当に人間なのだろうか。
そりゃあ皆逃げるわ。
すたすたと神像の前まで歩いていくので仕方なくついていき、像を見上げる。
そっくりそのままだな.....創立者はあいつの元で転生したのだろうか。
だとしたら、相当なドMだな、きっと。
「こちらがこのエステー協会が信奉する神。エステー様です。神々しいでしょう?」
あいつエステーっていうのか。エステには通ってそうだけど。
にしても、神々しいねえ.....確かにあのウェーブかかった髪型とかアイシャドウとかに目を瞑ればまあ、神々しさは無くはないかもしれない。
だが内面を知っている以上、信奉は出来ない。したくない。
どうせ、経典やら教えもヤバいんじゃないだろうか。
「美しすぎて声も出せませんか?では更に信仰心を募るため、エステー様のお言葉を....」
「いや、別に.....」
「エステー様はこう仰っております」
神の言葉を説くより、隣人の話を聞けよ。
「汝、金が欲しければカツアゲなさい。より良い暮らしを望むならパパを作りなさい。楽をしたければヒモになりなさい。もういっそニートにおなりなさい。....どうですか?素晴らしい教えでしょう?」
「...........おおう.......」
想像の数倍はヤバい代物だった。
ただただヤンキーが適当に綴ったとしか思えない内容に唖然とする。
「やはりわたくしの目に狂いはありませんでした!この難解な教えを理解できようとは!こうしてはいられません!」
シスターが血相を変え、主祭壇に小走りで向かうと、一枚の紙と羽ペンを取り出し、俺に持たせようとする。
「な、なんだよ?や、やめっ!」
「わたくしと共にエステー教を再興致しましょう!あなた様が主教、わたくしが敬虔なる信徒として!」
「いやいやいや!断るから!ちょ、こっち寄んなぁ!」
「そう遠慮なさらずに!ここにサインするだけで御座いますから!さあ!さあさあさあ!さあさあさあさあさあ!!」
怖い!怖い怖い怖い怖い!怖すぎる!
凄い勢いで詰め寄るシスターの両腕を掴み押し留めようとするが、彼女も冒険者なのか逆にこちらが横長の椅子に押し込められ始めた。
抵抗は試みたものの腕力ステータスが向こうの方が上らしく、椅子にもたれ掛かる状態になるが、尚も抵抗していると。
「お待ちなさい!ヴィクトリア!」
「ちっ!邪魔が入りましたか」
「こ、このシスター舌打ちしたんだけど!聖職者だよね!?」
協会の扉が壊れんばかりに開け放たれ、一人の女性が乗り込んできた。
その女性は金髪のポニーテールで女騎士と言った風貌だ。
それこそ勇者の従者とでも言える風格すらある。
「ヴィクトリア、恥を知りなさい!無理矢理信徒にするなど聖職者の風上にも置けませんよ!」
「はいはい。分かってますよ。ちっ!腹立ちますわね」
そう吐き捨てたシスターは奥の扉の先へと消えていった。 
「た、助かった.....はあ.....」
「大丈夫ですか?あの者はカモを見つけると集るハイエナみたいな女性ですので気を付けた方がよろしいですよ」
女騎士が微笑み、注意喚起しながら手を差し出してきたので、その手を掴むと自分の方へと引き寄せた。
「ありがとよ。いやー、マジで助かったぜ....入信させられかけてさ.....」
「そのようですね。.....町で見かけませんでしたが旅の途中ですか?」
「いや、流れ着いた....って感じか。四日前くらいにさ」
「四日.....」
女騎士が考え込んでいる。何か引っ掛かる事でもあるのか?
俺には特に思い当たることは何もないんだが....
まあ自己紹介くらいはしておいた方が怪しまれずに済むか。
「えっと.....俺は....」
「申し訳ありません。名乗りもせずに。私は王都から来まして、ある方に協力しているシンクレアー・メヒドと申します。あなたは?」
「ああ、俺はユウト..........え....なに?」
「ユウト...?.........貴様があの.....っ!」
そう怒りを露にした女騎士は帯刀していた両手剣を引き抜き、頭の上で構え、それを一気に振り下ろしてきた。



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