異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

バイト始めました

「取り敢えずはこの三人でパーティーを組むが、死ぬ確率が格段に上がったから戦闘が絡むクエストはやらん。そこでだ....これを見てくれ」
先程パーティー登録をした際に掲示板に貼ってあったチラシをテーブルに乗せると二人が覗き込んだ。
「......テリーヌ喫茶のバイト募集?」
「へっ!バイトかよ!お嬢に出来んのかあ?....無理です....」
「お前なんでもやるって言ったよな?ならやれ。リンカ、逃げるな!誰のせいで金策してると思ってやがる!」
逃げ出そうとするリンカの艶のある黒髪を手綱の様に引っ張り、席まで引きずり込んだ。
「いたいいたい!いたいよお!ごめんなさい!手伝うからぁっ!」
「手伝うんじゃなくてお前がメインで頑張るんじゃい!」
「あわわわわわ」
今から不安でしかないが、やらなければ餓死してしまう。
何とかこなすしかない。


◇◇◇


「お待たせしました!アイスクリーム....ぐぼあっ!」
「きゃああああ!あんた、何すんのよ!私の一張羅がぁ!」
「あの....やめて....ください.....仕事できない....です。......呪います」
「ふひひ、いいじゃないかあ、お嬢ちゃん。ちょっと膝に乗るだけで....ぎゃあああ!」
やっぱりこいつらには無理だったか。
リンカはこけて、お客さんの服を汚すわ、ぶつかって吹っ飛ばすし。
ルカミディアはロリコンに絡まれては呪いを放ち、無関係の人を巻き込んでいた。
「かあーー.....ま、じ、か.....」
「すいませーん!このフェアリーパウダーのチーズパスタくださーい。」
「かしこまりました。よろしければそちらのメニューに載っています、リバイアサンのヒレスープはいかがですか?美容に良いそうですよ?」
俺のスキル、売買優遇スキルの派生スキル。
接待スキルの効果がバイトが始まってすぐに発現し、今に至る。
このスキル、物凄く有用で、勝手に口や手が動く。
確かにこのスキルがあればギルドのお姉さんが言うように町の中でなら引く手あまたかもしれない。
「じゃあそれくださーい。」
「かしこまりました。出来上がるまで少々お待ちください」
客に会釈をし、厨房前のカウンターまで行くといかしたオカマの店長が複雑な表情をしていた。
「店長?オーダー入りましたが?」
「あら、ごめんなさいね。あの子達見てたら溜め息が....はあ....」
いや、本当に申し訳ない。これなら俺一人で働きに来た方がましだったかも。
あー、でも目を離すのも怖いよなあ。
「す、すいません。あいつら....」
「良いのよ....来てくれただけでも助かるもの」
「すいません!この女、いい加減にして貰えませんか!?これから彼氏と出掛けるのに、ミートソースかけられたんですけど!?弁償してもらえますよね!?」
「「...........申し訳ございません!」」
あいつら、マジでいい加減にしろよ。
そろそろ俺もキレるぞ。


◇◇◇


「ごめんなさいね、ユウトちゃん。あなただけなら雇いたいんだけど....無理なのよね?」
「こいつらを放っておいたら何をしでかすか、分かったもんじゃないですけど」
「そ、そうよね。それは思い知ったわ。頑張ってね?」
残念そうに店長さんが店内に戻っていくのを申し訳なく眺めていると背後から呻き声が聞こえてきた。
「うぅ~!いたいよお~」
「いたい....です」
「もっとしっかりしろよ、お前ら。次やらかしたら...分かってるな」
先程、げんこつを落としたのが効いているのか、二人して首がもげそうなぐらい縦に振っている。
「にしても、もう夕方だぞ。寝床どうするかな」
「なんだ兄貴、家無いのかよ?....です」
「そうなんだよね。私達着の身着のままこのせか....」
言い終わる前にげんこつをもう一発。
「ふみゅ!いひゃいよぉ!何すんのぉ?」
「あほか、お前は。噂が出回ったりしたらどんな奴が接触してくるかわからんだろが!」
「......はっ!ほんとだ!」
こいつ、本当にあほだな。脳ミソ入ってんのか?
小声で話しているとルカミディアが不思議そうに俺とリンカを交互に見渡し。
「せか?よくわかんねえけど、家がねえんならうちに来いよ!......部屋、あるですよ?」
「「........マジで?」」
最高の提案をしてくれた。
初めてこの呪い師を仲間にして良かったと思えた瞬間だった。



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