異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

ラッキースケベはラブコメにつきものだが実際は痴漢行為

「あの人も....冒険者だったんです...でも半年前、魔王の幹部の一人と戦って....」
「......そうなんですか....大変でしたね....」
ってことは、シトロンちゃんを一人で育ててるのか....大変だな。....とはいえ何も出来ないんだけど。
「いえ....今では仕方のないことだと諦めました。幸いあの子も余り覚えていませんから.....これ、良かったら使ってください」
「どうも.....うわ、ちゃんと村人っぽい服」
ようやくここで異世界っぽい服が出てきた。
にしても元旦那が冒険者か。晩飯の時の表情の意味がようやく理解出来た。
「すみません....こんなつまらない話を....」
「いえ....こっちこそ勝手に写真を....」
「それこそ構いませんよ。....あら?この服やっぱり」
シトリーさんが椅子に掛けておいた、ブレザーを広げまじまじと物珍しそうに見ている。
やっぱり気になるよな、普通。
「ずっと気になってましたけど、これって、あの流浪の裁縫師。リリコさんの作品ですよね?」
「は?流浪の...裁縫師?」
なにそれ、知らない、聞いたことない。
「あれ?違うんですか?てっきりそうかと....」
「あ、ああ!それね!実は知り合いから貰ってさ!誰の作品かは知らなかったんだよね!」
「ふふ、そうでしたか。.....あら、もうこんな時間。あの子を寝かしつけないと....私はこれでお暇しますので、ごゆっくりなさってください」
シトリーさんは会釈をし、扉を閉めて出ていった。
....それにしても流浪の裁縫師、リリコか。
俺やリンカの制服に作品が似ているのも、その名前も絶対に日本人だからだよな。一度会って話をしてみたいもんだ。


◇◇◇


「もうこんな時間か....意外と面白かったな、この本。スッキリしたし...」
本棚から適当に抜き取った小説を読み終わった頃には夜が更け、月も一番高い位置に達していた。
意外にもこの官能小説『貴族の娘を分からせたい』が思いの外面白く一気読みしてしまった。
何がスッキリしたのかは男性諸君ならお気づきの事と思う。
「そろそろ風呂入るか」
そう思い立ち、シトリーさんが持ってきた、風呂桶と石鹸、タオルには遠く及ばない粗雑な布を手に風呂場へと足を動かした。


ーー異世界の風呂ってどんなだろうかと、不安九割、期待一割を込め脱衣所の扉を開けると事件が巻き起こる。
「え......」
「あ.......」
やらかした。どうやら風呂から出るその時に鉢合わせしてしまったらしく、乳房は丸見え、ショーツを太ももまで持っていっている状態のえっちいリンカとかち合ってしまった。
この場合、ラブコメならラッキースケベで済むが、現実はただの覗き魔である。
よってこの場合リンカの。
「っ!きゃ.....!」
自衛のため叫ぼうとするのは至極当然だろう。
だがそうなったら俺は一方的に変態扱いされてしまう...なので脱衣所に入り、急いで扉を閉める。
「な....ななななな!」
「.....おいおい、落ち着けよ、リンカ。俺はただ風呂に入りに来ただけだぜ?」
と、自分でも思うほど最低な責任逃れを並べ服を脱ぐ。
「なっ!なっ!何してるんですかぁ!?」
「だから言っただろ。風呂にはいるんだよ。なんなら一緒に入るか?」
「っっっ!」
これでいい。これでいいんだ。
「いやああああ!」
「ぐぼあっ!?」
リンカが俺を腹パンし、風呂場まで殴り飛ばした後、急いで服を抱えて全力で逃げていった。
覗きと露出という罪を結果的に背負ったが、リンカもまた暴力という咎を負わせることに成功した。
クズと言われようと、俺は勝ち取ったのだ、自由を。
この生死をさまよっている腹を犠牲に....な....



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