異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

プライドなんて捨ててやる

「ありがとうございます!娘を連れてきていただいて!いつの間にか外に出てしまっていたらしくて!」
迷子だった女の子の母親がペコペコと何度も頭を下げている。
「いいですよ。見つかって良かったです!」
「じゃあ俺達はこれで....」
「お待ちください!何かお礼を....」
その言葉を待ってましたとばかりに土下座をする。
「なら、泊めていただけませんかぁ!!寝る場所もお金も無いんです!お願いしまぁぁすっ!!」
「あ、ああ、あの!頭を上げてください!」
焦る母親にも言質を取るまで体勢を変えるつもりは無いと亀のように体を丸めていく。
「あ、あの....ユウトさん、プライドとか....無いんですか...?」
「んなもん、野宿に比べたらいくらでも捨ててやるわぁ!どうしても野宿だけはしたくない!お願いします!泊めてくださいぃ!」
女の子もリンカもドン引きしているがどうでもいい。
俺はとにかく屋根のある、そして柔らかい布団で寝たい。
恥ずかしいと思うならお前だけ野宿してこい。
「わ、分かりました!ぜ、是非うちで泊まっていってください!だから玄関先で土下座は止めてくださいー!」
「ありがとうございまぁぁすっ!」
言質取ってやった。やったぜ。
リンカさん、そんな目で見ないでください。
どうやらリンカの中の俺のランクが下がったようだが致し方ないだろう。


ーー「食事ってされましたか?まだならお作りしますけど」
「まだです。お願いします」
「ユ、ユウトさん.....」
俺に若干あきれているリンカの腹が鳴る。
「お前だって腹へってんじゃねえか」
「うぅ....恥ずかしい.....」
赤面しているが、お前の恥ずかしいエピソード他にもあるからな?
「少しお待ちくださいね」
台所に向かう、うしろ姿を見て麻袋を持ち上げ、母親...シトリーさんが包丁を使い、調理しているまな板の横に置く。
「これ、キノコなんですけど良かったら」
「いいんですか?」
「はい。無理言って泊めて貰いますし」
ただ単に俺やリンカが料理するより、有効活用して貰えそうだからだが。
「いだだだだだだ!!髪引っ張らないで~!」
「ひゅ~~!!お馬さんしつけごっこ~!」
どんな遊びしてんの?あの子、将来有望すぎる。


◇◇◇


「これ、美味しいですね!ユウトさん!」
「ほんとだな。このキノコのスープ。それと山菜炒めも。」
シトリーさんの料理はかなり美味しくてついつい箸がのびる。
「ふふ....喜んで貰えて良かったです。そういえばお二人はお仕事は何を?」
「私達は冒険者をやってるんですよ!これ見てください!今日から始めたんです!ピカピカの新品ですよ!」
スカートのポケットから冒険者カードを取り出し、シトリーさんに見せびらかし始めた。
「冒険者....ですか.....はは、凄いですね」
どうもおかしいな。
シトリーさんの顔色が沈んだ気がする。
気のせいだろうか....
「パパと一緒だね」
「こ、こら!すいません!この子ったら!何でもないので忘れてください....」
「え?ええ....分かりました....?」
気にはなるが、今日はじめて会ったばかりだと言うのにそれ以上聞くのは躊躇われ、食事に集中することにした。
「唐辛子爆弾!」
「ふおおおおおっ!目があああ!」
「ひゃああ!粉末が鼻に!くしゅん!くしゅん!いたたたた!鼻がぁ!」
「シトロンちゃん!あああ!ユウトさん、リンカさんご無事ですか!?こらっ、駄目でしょ!?」
唐辛子をスープで捏ねた凶器を目に投げつけられ、俺は悶絶した。




◇◇◇


「この部屋をお使いください。ここにあるものなら好きに使ってくれて構いませんから。あと、先程は娘がとんだ粗相を...」
「いや、まあ子供のやることだし?まあ多少は目をつぶっても....一生瞑ることになりかけたけども」
ちょっと意地悪しようと思っただけなのに、何度も頭を下げるシトリーさんに大変申し訳なく思う。すいません...でもほんと痛かったから。
瞳が唐辛子色になるくらいには。
「では着替え持ってきますので、寛いでいてくい」
それだけ言い残し、スリッパをパタパタさせながら小走りで去っていった。
ブレザーを脱ぎ、椅子に掛けてふと頭を過る。
「何でこんな服着てるのに変に思われないんだ?」
そういえば、ギルド前や、ギルドでもチラチラ見られはしたものの特に問われることも無かったな。
「まあ....いいや........あれ?これは写真立てか?」
ベッドに腰掛け部屋を見渡していると、ベッドのヘッドボードの上に写真立てが伏せられているのが気になり、つい見てしまった。
「これは.....シトリーさんと....男の人?」
今より少し若いシトリーさんの隣に筋肉質な男性が写っていた。
「旦那さんとか?......今は居ないのはなんで....」
「あの人はもう亡くなりましたから....」
いきなり声をかけられびくっと肩を震えさせながら振り替えると、お風呂用品と着替えを抱えているシトリーさんが、憂いを帯びた表情で、開きっぱなしだった扉から顔を覗かせていた。



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