3Rの魔法師〜魔力零の異端児は今日も誰かの魔力を糧にする〜

松尾からすけ

第104話 ヴォルフの助け

 一心不乱で目的地へと駆けていく。ここ数日、ずっと雨が降っていたおかげか今日は久しぶりの快晴だ。だからといって俺の気持ちが晴れるわけじゃねぇけど、走るには持って来いの天候ってわけだ。

「はっ……ここんとこ運動なんかしてなかったから、結構きついっての……!!」

 クリムトから山賊が現れたっていうマーリエまでは結構離れてる。猛虎隊の山賊達あいつらが根城にしている旧ファシールの村ほどじゃないが、この道もかなりの山道だ。慣れない連中だとかなりの時間がかかるはず。

「……とはいうものの、騎士団の奴らがいつ頃町を出たのかわからないんだけどな」

 今の時刻は午後三時くらい。やつらが朝方マーリエに向かったのであれば流石に間に合わねぇ。まぁ、宿を飛び出しちまった時点で俺には行くって選択肢しかないんだけどな。

「山賊を追っていたのは第六騎士団……零騎士の次に相手をしたくねぇ騎士団だって話だよ」

 第六騎士団。'はやぶさの剣'と呼ばれるほどの剣の腕を持つジルベール・バーデンが率いる精強な部隊。他の騎士団とは一線をかくする実力を有しているのは間違いない。問題はただの山賊狩りにどこまでの人材を割いているか、だ。
 他の騎士団であれば容易に推測できるんだけどな。山賊相手に第三席、四席といった役席を送り込むことなんてまずない。だが、第六騎士団あの連中は別だ。ジルベールが優秀な男であるがゆえ、誰が山賊狩りに乗り出しているかまったく予想がつかない。

「こんな事ならクリムトに来ている騎士団の情報をあさっておくんだったぜ……!!」

 走りながらギリッと奥歯を噛む。現実逃避して酒浸りになっていた結果がこれだよ。自業自得といわれりゃ何も言い返せない。

「最悪、第三席のあの美人ちゃんがいるかもしれねぇな……。たくっ……そうだとしたらやりづれぇ」

 第六騎士団の三番手、第三席の座についているのはハプスブルク家の天才。緑色の長髪をたなびかせ、'翡翠ひすい薔薇ばら'と称されるほどの美しさを持つベアトリス・ハプスブルク。だが、奇麗な薔薇には棘があるとはよくいったもの。その強さは第三席の枠に当てはまらないことで有名だ。夜のお相手なら喜んでするが、戦うとなると厄介この上ないっての。

「……出たとこ勝負って事か。まっ、いつもの事だな」

 村が近くなってきたことを感じ、お面を顔につける。喧騒が聞こえてきたのがいい証拠だ。そして、なにより間に合ったっていう証でもある。……いや、間に合ったって言っていいかは微妙なところか。
 とりあえず白銀に紺色のラインが入った鎧を着ている騎士に今にも斬りかかられそうな山賊を助けておく。

「なに!?」

「え? ……お、お前は!?」

 剣を蹴り飛ばされた騎士も、斬られることを身構えていた山賊も、驚きに目を見開きながら俺の事を見てきた。

「バカ。さっさと逃げやがれ」

 バカ面下げている山賊のけつに蹴りを入れ、そのまま騎士の腹に膝を叩き込む。

「ぐっ……!!」

 嗚咽を漏らしながら膝をつく騎士を傍目はために村の中へと入っていった。まさに大乱闘って感じだな。そこかしこで山賊と騎士が火花散らしてやがる。そのおかげで俺の方に注目する奴がいなくて助かってんだけどな。

「見た感じ、一兵卒しかいねぇな」

 これは警戒しすぎたか? 流石のジルベールも山賊如きに有能な部下を派遣しなかったか。それならまだ何とでもなるかもしれねぇ。
 そんな事を考えながら走っていると、大勢の騎士に囲まれている見慣れた巨漢と、虎のタトゥーを腕に入れた男の姿が目に入った。俺は躊躇ちゅうちょすることなく騎士の輪の中へと入っていく。

「はぁ!?」

「ヴォ……兄貴!!」

 巨大ななたを構えたハリマオは目を丸くして俺の事を見てきた。一方、クマの方はお面を付けた意味を察してか、途中で名前を呼ぶのを止める。よかったよかった。もし、この場で名前を呼ぶようなポンコツなら肩パン五発じゃ済まなかったからな。

「何だお前は!?」

「変な身なりをしやがって……山賊の仲間か!?」

 突然俺が登場したことにより呆気にとられていた騎士達が武器を構えなおし警戒心をあらわにする。変な身なりって言われても、顔を隠せるもんがこれしかなかったんだから仕方ねぇだろ。

「あー……俺は通りすがりの正義の味方だ」

「正義の味方だぁ!? ならば、なぜ山賊の味方をする!?」

「別にこいつらの味方をしているわけじゃない。俺は争いごとを止めにやって来たのだ」

「なっ!? 何を意味の分からないことを言ってんだ!!」

 やばい、正論で返された。俺自身適当なことを言っている自負があるから困る。って、俺は騎士達とお話ししに来たわけじゃねぇ。

「ハリマオ、クマ。さっさとあいつら連れて退散しろ」

 二人だけに聞こえるくらいの小声で話しかける。

「あ、兄貴……?」

「は? ……お前はどうすんだよ?」

「俺一人なら何とでもなる。お前らが逃げたのを見届けたら適当に暴れてずらかるから心配すんな」

 じりじりと騎士達が迫ってくるので早口でまくし立てた。何か言いたげなクマを一睨みで黙らせる。俺をじっと見ていたハリマオは諦めたように小さくため息を吐いた。

「……行くぞ、クマ」

「ハリマオの旦那!?」

「一度決めたらこいつはてこでも動かねぇ……それくらいお前もわかってんだろ?」

 ……流石は付き合いが長いだけはある。困り顔のクマの肩をポンポンと叩くと、ハリマオは俺を見ながら真剣な顔で頷いた。

「……行くぞ!!」

 その言葉とともに俺は騎士の群れに突進していく。それに合わせて、ハリマオとクマは左右に分かれ、仲間達を拾いに行った。

「くっ!! 散ったぞ!! 追え!!」

「そんな余裕あるのか?」

「なに!? ぐはっ!!」

 クマたちを追おうとした騎士をとりあえず殴り飛ばしておく。とにかく注意を俺の方に向けねぇとな。この辺にいる奴らをのしてけば自然とこっちに集まってくるだろ。
 一人一人確実に戦闘不能にさせていく。多少鍛えられているとはいえ、レイやノーチェに比べればわけない連中だ。ハリマオやクマでも楽に勝てるだろ。ただ、あいつらは殺す術を知ってても倒す術は知らない。だからこそ、てこずってたんだろうな。騎士を手にかけるのはまずいって事をあいつらは知ってるから。本気で向かって来る相手を最低限の攻撃で無力化するには、俺が零騎士で習ったような特別な技術が必要なんだよ。

「油断するな! 強いぞ!」

「応援を呼べ!」

 続々と騎士達が俺の所に集まってくる。狙い通りだな。このまま暴れ続ければ、ハリマオ達も逃げ切れるだろう。つーか、全員のしちまった方が早いか?

 ピシャンッ!!

 暢気のんきにそんな事を考えていたら、突然周囲に雷鳴がとどろいた。咄嗟に横へと跳躍すると、今までいた場所に雷が走り、地面を黒く焦がした。

「──村民を安全な場所へと避難させて戻って来てみれば、新手のお出ましか?」

 襲い掛かっていた騎士達の動きが止まる。俺は背中に冷たいものが流れるのを感じながら、声のした方へと恐る恐る顔を向けた。

「おかしなお面に金髪……聞いていた情報と一致するな。つまり、うちの部隊を壊滅させたのは貴様か?」

 俺の金髪よりも暗いダークゴールドの髪。整った顔立ちにぴったりな碧眼。隣にいるのは緑髪の美女。こんな特徴を持つ騎士なんて、一人しかいない。その人物を見て、俺は思わず笑ってしまった。

 なるほど、うちのカシラがあの男を見て呟く気持ちが今わかったわ。

 最悪だよ、くそったれ。

 

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