3Rの魔法師〜魔力零の異端児は今日も誰かの魔力を糧にする〜
第103話 山賊狩り
ハリマオとクマに会ってから数日が経った。その間、俺はこの治安が悪い街で特に何をするわけでもなく、無駄な日々を過ごしている。
俺がここに来た理由……クリムトの町周辺で暴れている山賊の正体を確かめること。そして、そいつらが俺の知っている奴らであったら、俺の手で引導を渡してやる、とそう思っていた。結論から言えば、俺の予想通りだったわけなんだけどな。だが、奴らが山賊に戻った理由を聞いた俺は手を下すことができなかった。
とはいえ、このまま零騎士の屋敷にのこのこ戻るってわけにもいかねぇよな。こんな所まで来といて、俺は何もやっていない。でも、何をすればいいのかまったくわからねぇ。そうなると、惰性で時間を潰すことしか俺にはできねぇんだよ。
もはや住み慣れたと言っても過言じゃない部屋から出て宿を後にする。何日も滞在してるから宿の人とも顔見知りになっちまった。素性もよくわからん俺に優しくしてくれるいい所だ。惜しむべきは若い娘が働いていないってことくらいかな? ……ぶっちゃけ、いたところでそんな気分には毛頭なれないだろうけどよ。
宿を出た俺は小銭を巻き上げているチンピラを横目に見ながら薄暗い路地裏を進んでいく。この町では日常の光景だ。むしろ、血が流れていないだけ平和だと言えるな。
このままこの胡散臭い道を歩いていけば、最近通い詰めているしみったれた酒場がある。別に飯が美味いわけでも、酒が豊富なわけでもない。ただ、居心地がいいんだ。世の理から外れた奴らが飲みに来る店で、馬鹿みたいに騒いだり絡んでくることもない。今は何も考えずに酒を飲みたい俺にはピッタリの店だ。
「おんやぁー? 最近この辺でよく見かける色男じゃねぇか?」
耳障りな声に俺は足を止め、緩慢な動きでそちらに目を向ける。頭の悪そうな男が五人、下卑た笑みを浮かべながらこちらに向かって歩いてきていた。思わずため息が出る。
「……先に言っておくぞ。今の俺は虫の居所が悪い。かなりな」
面倒くさいので短い言葉で俺に構うなってことを伝えてみた。一瞬、ポカンとした表情を見せた男達だったが、すぐにゲラゲラと笑い始めた。まぁ、そうだよな。あれで引いてくれるようなかしこいお頭を持ってる連中だったら、そもそもこんな所にいやしねぇか。
「お兄さん怖いねぇー。そんな険しい顔してたらせっかくのイケメンが台無しだよー? 女の子、寄ってこないでしょ?」
「……大きなお世話だ。女には困ってねぇよ」
「またまたー! こんな所をいつも一人で歩いてんのがいい証拠っしょ! 顔がいいだけじゃ女はこないもんねー」
「心もイケメンじゃねぇとな! 器のでかい男に女は惚れるんだよ!」
「そうそう! ……つーわけで、懐の広い所見せてくんない?」
ニヤリと意地の悪い笑みを見せながら、一人の男が懐に忍ばせた光物を見せびらかせるように取り出す。はぁ……こういうバカ共に今まで出くわさなかったから、この道を選んだっていうのによ。
「いやぁ……偶にはビールとステーキにありつきたくてよ? おごってくれよ、兄ちゃん」
「別にいいだろ? いいおべべを着ているみたいだし、今持ってる小銭を可哀想な俺らに恵んでくれても痛くもかゆくもないって!」
「他にも荷物が重かったら俺らがもらってやってもいいんだぜ?」
「…………」
……ちっ。面倒くせぇな。
「もしもーし。聞こえてますかー?」
「だんまり決め込んでんじゃねぇよ! もしかしたら頭が悪くて俺らが言っていることがわからなかったか!?」
「殺されたくなかったら有り金全部寄こせって言ってんだよ!」
「殺っちまうぞ!? さっさとぐふぇっ!!」
ナイフをちらつかせながら近づいてきた男の喉を掴み、そのまま壁に押し付ける。
「……言ったろ? 虫の居所が悪いって」
俺の手を必死にはがそうともがいているナイフの男を見ながら冷たい声で告げた。突然の事に呆気にとられた男達が慌てて武器を取り出そうとする。俺はナイフの男の首を掴んだまま一番近くにいた男を回し蹴りを喰らわせた。無様に壁にめり込んだ仲間の姿を見て、一瞬で血の気が引いていく男達。
「なんだ? 来ないのか?」
あえて軽い調子で尋ねてみるも、奴らが向かってくる気配はない。俺はため息を吐きつつ、震えあがっているバカ達を睨みつけた。
「社会の屑であるお前達に長生きをする秘訣を一つ……噛み付いていい相手はしっかりと見極めることだな」
それが裏の世界で生きていくってことだ。とは言っても、こいつらはその世界の入口近くでキャンキャン吠えているだけの子犬にすぎない。だから、飢えている狼にも平気でちょっかい出しちまう。
「あっ……あっ……!!」
「お、おい! もうやめろよ! 本当に死んじまうぞ!?」
口から泡を吹き始めた男を見て、焦りを隠せない奴らにどうでもよさそうな感じで目をやるが、別に力を緩めたりはしない。
「何言ってんだ? 殺そうとしてるんだから当たり前だろ?」
「なっ……!?」
俺さも当然とばかりに言うと、男達は口を噤み、その場で後ずさりした。こいつら……よく今まで生きてこれたな。ここは悪が蔓延るクリムトだぞ? あまりに小物過ぎて、相手にされなかったのか? ……だったら、俺がきちっと裏の世界の厳しさってやつを、その身に教え込んでやらねぇとな。
「や、やべぇ……!! こいつ本当に殺る気だぞ!!」
「ど、どうする!? こうなったら町に集まって来てた騎士団の奴らを呼ぶか!?」
「バカ!! 俺達が捕まっちまうだろうが!!」
「それにあの連中は山賊狩りに出かけてて今は町にいねぇよ!!」
ピクッ。
少しずつ腕に力を込めていた身体がピタリと止まる。こいつ……今、面白いこと言ってなかったか?
俺はピクピクと痙攣しながら失神している男を慌てふためくチンピラ達に向かって乱暴に投げた。いきなりの事に男達は目を白黒させながら俺の方を見る。
「おい。今の話、詳しく聞かせろ」
「は……? な、何を……!?」
失神した男が地面に落としたナイフを器用に蹴り上げた俺はそれを掴み、冷たい視線と共に男達に向けた。
「騎士団の話を聞かせろって言ってんだよ。死にてぇのか?」
「ひぃ!! く、詳しいことなんてわからねぇよ!! ただ、マーリエに出た山賊を狩りに騎士団の奴らがクリムトを離れたって話を聞いただけだ!!」
どすの利いた声で言うと、ブルブルと震えながらチンピラが答えた。マーリエの村……クリムトの周辺に数ある村の中でも、排他的で有名な村だ。そのため、どんな村なのか、どういう村人が住んでいるのか俺も全く知らない。そんな謎に包まれた村に山賊が現れ、騎士団がそいつらを狩りに出た。
「……行け」
「へっ?」
「さっさと消えろ。……俺の気が変わらないうちにな」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
情けない声と共に、気を失ってる男二人を担いでチンピラ達が逃げていく。何も言わずにそれを見送ると、俺は足早に宿へと戻っていった。
「ふぅ……」
部屋の扉を閉め、呼吸を整える。何を迷ってるんだ、俺は。静観を決め込むってクマにも言っただろうが。騎士団とあいつらが揉めることなんて初めからわかっていたことだ。俺は結果をありのままに受け止めればそれでいい。
「……そういう生き方ができれば、もっと楽なんだろうな」
ドアにもたれかかりながら思わず自嘲の笑みを浮かべる。たくよ……自分で自分が嫌になるっつーの。どうしてこう、面倒事に自分から首を突っ込んでいこうとするかねぇ。放っておけばいいってのによ。
まぁ……そういうわけにもいかねぇわな。
俺はテーブルの上に置いていたどこぞのヒーローのお面を手に取り、急いで宿から出ていった。
俺がここに来た理由……クリムトの町周辺で暴れている山賊の正体を確かめること。そして、そいつらが俺の知っている奴らであったら、俺の手で引導を渡してやる、とそう思っていた。結論から言えば、俺の予想通りだったわけなんだけどな。だが、奴らが山賊に戻った理由を聞いた俺は手を下すことができなかった。
とはいえ、このまま零騎士の屋敷にのこのこ戻るってわけにもいかねぇよな。こんな所まで来といて、俺は何もやっていない。でも、何をすればいいのかまったくわからねぇ。そうなると、惰性で時間を潰すことしか俺にはできねぇんだよ。
もはや住み慣れたと言っても過言じゃない部屋から出て宿を後にする。何日も滞在してるから宿の人とも顔見知りになっちまった。素性もよくわからん俺に優しくしてくれるいい所だ。惜しむべきは若い娘が働いていないってことくらいかな? ……ぶっちゃけ、いたところでそんな気分には毛頭なれないだろうけどよ。
宿を出た俺は小銭を巻き上げているチンピラを横目に見ながら薄暗い路地裏を進んでいく。この町では日常の光景だ。むしろ、血が流れていないだけ平和だと言えるな。
このままこの胡散臭い道を歩いていけば、最近通い詰めているしみったれた酒場がある。別に飯が美味いわけでも、酒が豊富なわけでもない。ただ、居心地がいいんだ。世の理から外れた奴らが飲みに来る店で、馬鹿みたいに騒いだり絡んでくることもない。今は何も考えずに酒を飲みたい俺にはピッタリの店だ。
「おんやぁー? 最近この辺でよく見かける色男じゃねぇか?」
耳障りな声に俺は足を止め、緩慢な動きでそちらに目を向ける。頭の悪そうな男が五人、下卑た笑みを浮かべながらこちらに向かって歩いてきていた。思わずため息が出る。
「……先に言っておくぞ。今の俺は虫の居所が悪い。かなりな」
面倒くさいので短い言葉で俺に構うなってことを伝えてみた。一瞬、ポカンとした表情を見せた男達だったが、すぐにゲラゲラと笑い始めた。まぁ、そうだよな。あれで引いてくれるようなかしこいお頭を持ってる連中だったら、そもそもこんな所にいやしねぇか。
「お兄さん怖いねぇー。そんな険しい顔してたらせっかくのイケメンが台無しだよー? 女の子、寄ってこないでしょ?」
「……大きなお世話だ。女には困ってねぇよ」
「またまたー! こんな所をいつも一人で歩いてんのがいい証拠っしょ! 顔がいいだけじゃ女はこないもんねー」
「心もイケメンじゃねぇとな! 器のでかい男に女は惚れるんだよ!」
「そうそう! ……つーわけで、懐の広い所見せてくんない?」
ニヤリと意地の悪い笑みを見せながら、一人の男が懐に忍ばせた光物を見せびらかせるように取り出す。はぁ……こういうバカ共に今まで出くわさなかったから、この道を選んだっていうのによ。
「いやぁ……偶にはビールとステーキにありつきたくてよ? おごってくれよ、兄ちゃん」
「別にいいだろ? いいおべべを着ているみたいだし、今持ってる小銭を可哀想な俺らに恵んでくれても痛くもかゆくもないって!」
「他にも荷物が重かったら俺らがもらってやってもいいんだぜ?」
「…………」
……ちっ。面倒くせぇな。
「もしもーし。聞こえてますかー?」
「だんまり決め込んでんじゃねぇよ! もしかしたら頭が悪くて俺らが言っていることがわからなかったか!?」
「殺されたくなかったら有り金全部寄こせって言ってんだよ!」
「殺っちまうぞ!? さっさとぐふぇっ!!」
ナイフをちらつかせながら近づいてきた男の喉を掴み、そのまま壁に押し付ける。
「……言ったろ? 虫の居所が悪いって」
俺の手を必死にはがそうともがいているナイフの男を見ながら冷たい声で告げた。突然の事に呆気にとられた男達が慌てて武器を取り出そうとする。俺はナイフの男の首を掴んだまま一番近くにいた男を回し蹴りを喰らわせた。無様に壁にめり込んだ仲間の姿を見て、一瞬で血の気が引いていく男達。
「なんだ? 来ないのか?」
あえて軽い調子で尋ねてみるも、奴らが向かってくる気配はない。俺はため息を吐きつつ、震えあがっているバカ達を睨みつけた。
「社会の屑であるお前達に長生きをする秘訣を一つ……噛み付いていい相手はしっかりと見極めることだな」
それが裏の世界で生きていくってことだ。とは言っても、こいつらはその世界の入口近くでキャンキャン吠えているだけの子犬にすぎない。だから、飢えている狼にも平気でちょっかい出しちまう。
「あっ……あっ……!!」
「お、おい! もうやめろよ! 本当に死んじまうぞ!?」
口から泡を吹き始めた男を見て、焦りを隠せない奴らにどうでもよさそうな感じで目をやるが、別に力を緩めたりはしない。
「何言ってんだ? 殺そうとしてるんだから当たり前だろ?」
「なっ……!?」
俺さも当然とばかりに言うと、男達は口を噤み、その場で後ずさりした。こいつら……よく今まで生きてこれたな。ここは悪が蔓延るクリムトだぞ? あまりに小物過ぎて、相手にされなかったのか? ……だったら、俺がきちっと裏の世界の厳しさってやつを、その身に教え込んでやらねぇとな。
「や、やべぇ……!! こいつ本当に殺る気だぞ!!」
「ど、どうする!? こうなったら町に集まって来てた騎士団の奴らを呼ぶか!?」
「バカ!! 俺達が捕まっちまうだろうが!!」
「それにあの連中は山賊狩りに出かけてて今は町にいねぇよ!!」
ピクッ。
少しずつ腕に力を込めていた身体がピタリと止まる。こいつ……今、面白いこと言ってなかったか?
俺はピクピクと痙攣しながら失神している男を慌てふためくチンピラ達に向かって乱暴に投げた。いきなりの事に男達は目を白黒させながら俺の方を見る。
「おい。今の話、詳しく聞かせろ」
「は……? な、何を……!?」
失神した男が地面に落としたナイフを器用に蹴り上げた俺はそれを掴み、冷たい視線と共に男達に向けた。
「騎士団の話を聞かせろって言ってんだよ。死にてぇのか?」
「ひぃ!! く、詳しいことなんてわからねぇよ!! ただ、マーリエに出た山賊を狩りに騎士団の奴らがクリムトを離れたって話を聞いただけだ!!」
どすの利いた声で言うと、ブルブルと震えながらチンピラが答えた。マーリエの村……クリムトの周辺に数ある村の中でも、排他的で有名な村だ。そのため、どんな村なのか、どういう村人が住んでいるのか俺も全く知らない。そんな謎に包まれた村に山賊が現れ、騎士団がそいつらを狩りに出た。
「……行け」
「へっ?」
「さっさと消えろ。……俺の気が変わらないうちにな」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
情けない声と共に、気を失ってる男二人を担いでチンピラ達が逃げていく。何も言わずにそれを見送ると、俺は足早に宿へと戻っていった。
「ふぅ……」
部屋の扉を閉め、呼吸を整える。何を迷ってるんだ、俺は。静観を決め込むってクマにも言っただろうが。騎士団とあいつらが揉めることなんて初めからわかっていたことだ。俺は結果をありのままに受け止めればそれでいい。
「……そういう生き方ができれば、もっと楽なんだろうな」
ドアにもたれかかりながら思わず自嘲の笑みを浮かべる。たくよ……自分で自分が嫌になるっつーの。どうしてこう、面倒事に自分から首を突っ込んでいこうとするかねぇ。放っておけばいいってのによ。
まぁ……そういうわけにもいかねぇわな。
俺はテーブルの上に置いていたどこぞのヒーローのお面を手に取り、急いで宿から出ていった。
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