3Rの魔法師〜魔力零の異端児は今日も誰かの魔力を糧にする〜

松尾からすけ

第91話 小競り合い

 自分達が恐れる若頭の見たこともないような姿に、唖然とする山賊達。まぁ、無理もねぇか。こんな強面こわもての男が俺にしがみついて、ガキみたいにピーピー泣いてんだからな。

「……クマ、とりあえず離れろ。暑苦しい」

「す、すいやせん!! つい懐かしくて……!!」

 クマはズズーと鼻を鳴らし、涙をぬぐいながら抱きつくのを止めた。俺は苦笑いを浮かべつつ昔の舎弟に目をやる。

「元気してたか?」

「はい! 兄貴と別れてから色々ありやしたが、一応こうやって生きてます!」

「そうか。お前の身の上話を聞いてやりたいところではあるが……」

 俺はちらりと周りに目を向ける。なんともソワソワして落ち着かない雰囲気。ここに来た時も俺に構ってる暇はないみたいなこと言ってたし、なにか不測の事態でも起こってるんだろう。

「色々と立て込んでんだろ?」

「へぇ……実は面倒なことになっちまいやして」

 クマがバツの悪そうな顔で頭を掻いた。

「何があった? 話してみろよ」

「いやいや! 兄貴の手を借りるほどのことじゃありやせん!!」

 慌てて身体の前で両手をブンブンと振るクマを、俺は何も言わずにジーっと見つめる。目を左右に泳がせながらどうしたらいいのか迷っていたクマだったが、観念した様に肩を落とし、ため息を吐いた。

「……実はうちのバカ共が森の中で小競り合いをしているって報告が入りやして」

「小競り合い……相手は?」

「……王国騎士団です」

 ……なるほど。それはかなりの面倒事だ。山賊同士のショバ争いとはわけが違う。対処の仕方を間違えれば、下手したら国が本腰入れて山賊退治に乗り出す危険性だってある。

「……バカ共が揉めてる場所を教えろ。あとなにか顔を隠せるものも」

「あ、兄貴……!?」

 クマが困惑した顔で俺を見てきた。仕方ねぇだろ。俺が色々と調べる前に騎士団が介入してくると厄介なんだよ。……まぁ、もう手遅れかもしれねぇが。

「早くしろ」

「へ、へい!!」

 ビクッと身体を震わせたクマは駆け足で廃屋へと走っていき、すぐに汗だくで戻ってきた。

「こ、こんなもんしか……!!」

 その手にあるのは縁日で子供がつけるような、なにかのヒーローを模したお面。なんでこいつはこんなもの持ってんだよ。つーか、もっとましなものあっただろ。俺はため息を吐きつつ、クマの手から面を取り、顔に付けた。

「場所はクイエートの村の付近です!!」

 クイエート……隣村か。あんな静かな村の近くで揉めてるとか、こいつら一体何を企んでいるんだ?

「わかった。お前らはここで待機していろ」

「へ、へい!!」

 背筋を伸ばして返事をするクマを尻目に、俺はファシールの村跡地を後にした。



 雨に打たれながら森の中を疾走する。山賊の中にクマがいたのは不幸中の幸いかもしれない。あいつは俺に従順だ。その上嘘が下手でもある。俺が問いただせば全部洗いざらい話してくれるだろうよ。……その前に厄介ごとを片付けねぇとな。
 俺の耳に鉄がかち合う音が届く。俺はさらに速度を上げ、音のした方へと急いだ。そして、見慣れた銀色の鎧を視界にとらえたところで、躊躇なくその場に飛び込んだ。

「な、なんだ!?」

「誰だ貴様は!?」

 突然、争いの場にの中心に表れた俺を見て、山賊側からも騎士団側からも驚きの声が上がる。俺はそれを無視して、騎士団の鎧に目を向けた。しっかりと磨かれ光沢のある銀に走る紺色のライン。はぁ……そうだよな。第六騎士団だよな。

「おいおい、どういう事だ? 正義の騎士団様が何の罪もないただの村人相手に暴力とは……王国始まって以来の大不祥事じゃねぇか、これ?」

「なっ……変なお面を付けていきなりしゃしゃり出てきたと思えば、何を言ってるんだお前は!!」

「貴様らはただの村人じゃなくて山賊だろ!」

 いきり立つ騎士団を見ながら、俺はこれ見よがしに首を振る。

「やれやれ……何を証拠に俺達を山賊呼ばわりするのか、理解に苦しむな」

「お前らが名乗ったんだろ! 俺達は泣く子も黙る猛虎隊だって!!」

 ……うん、そう名乗った奴今すぐ俺の前に出てこい。肩パン十発で許してやる。あっ、やっぱり変なお面をつけている腹いせに十五発で。これはごまかすのは厳しそうだな。

「あー……バレちまってんなら仕方ねぇか」

 こうなったら軽く痛めつけてお帰り願うしかねぇな。殺したらまずいが、痛めつける程度なら国にいる本隊が来ない可能性も僅かばかりあるはずだ。
 俺はスイッチを切り替え、一番前にいた騎士のもとまで瞬時に移動する。そして、その腹目掛けて容赦なく膝を叩き込んだ。

「ごぉ……!!」

 なんの気構えもなく俺の膝をまともに受けた騎士は白目をむいて膝から崩れ落ちる。ちなみに膝はめちゃくちゃ痛い。つなぎ目の柔い場所を狙ったっていうのに、なんつー硬さだよ。俺達の鎧とは段違いだわ。

「なにっ!?」

 驚いたのは一瞬、六騎士の連中は即座に臨戦態勢に入った。流石は雷帝の旦那に鍛えられているだけはある。ぽかんと口を開けてこっちを見ている山賊達ボンクラ共とはまるで違うな。だが、まぁ……下っ端騎士に負ける俺じゃねぇ。
 倒れた騎士から剣を奪い、騎士達の中へと駆けていく。もう素手であの鎧を攻撃すんのはこりごりだ。剣で斬っても鎧越しなら死なねぇだろ。とにかく無力化することを念頭に、ただひたすら剣を騎士に叩きつけていった。

「な、なんだこいつは!?」

「と、止めろ!!」

「隊を乱すな!! 全員でかかれ!!」

 へぇー……奇襲を受けてもまだ冷静に対応しようとしてくるか。ジルベールもシアンもいないってのに、本当この部隊はしっかりと訓練されている。だけど、相手が悪かったな。

 必死に俺に食らいつこうとする騎士達を、俺はばったばったとなぎ倒していった。気づけば立っているのは最後の一人。目に怯えの色は浮かぶものの、決して俺から目をそらそうとしない。……いい騎士だ。

「たぁぁぁぁぁ!!」

 叫び声を上げながら斬りかかってくる騎士をひらりと躱し、持っていた剣を思いっきりその男の兜に叩きつける。根元から剣が折れるのと同時に、騎士の男は力なくその場に横たわった。

「ふぅ……こんなところか」

 俺は柄だけになった剣を投げ捨て、足に根が生えたようにその場に立ち尽くす山賊達に向き直る。それまでボケーっとしていた山賊達は我に返ると、震える手で持っている武器を構えた。

「あ、あんたは一体……?」

「俺はお前らの若頭に遣わされた者だ」

「……ってことは仲間なのか?」

「まぁ、別にその解釈で構わねぇよ」

「そ、そうか……!!」

 山賊達がホッと安堵の息を吐く。俺はどうでもよさそうにそれを一瞥し、奴らに背を向けた。

「お、おい……!?」

「とにかく詳しい話は後だ。さっさと村に帰るぞ」

「わ、わかった」

 俺の言葉に山賊達が素直に頷く。こいつらの中にも見知った顔はいない。さっき村で見た奴らの中にもだ。ってことは新しく募った奴らを従えて山賊をしているってことだな。……ったく、何考えてんだよあいつは。直接話を聞いてみたいとダメみたいだな、こりゃ。

 面倒なことになっている気配を感じた俺は舌打ちをしつつ、元来た道を戻っていった。

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