3Rの魔法師〜魔力零の異端児は今日も誰かの魔力を糧にする〜

松尾からすけ

第62話 人気者

 翌日、いつも通り登校した僕の前に意外な人物が現れた。校門をくぐった定位置に藍色の髪をシニヨンにまとめた美少女が立っているのは最早テンプレになってきているので驚きはしないが、その隣に金髪ツインテールの女の子がいるのは初めてである。

「おはよう」

 おそらく昨日の事だろう。僕は話の内容を予測し、それにどう答えるかを考えながら二人に挨拶をした。

「おはよう」

「おはよう、レイ。昨日はありがとうね」

「いやいや、僕なんかがお役にたてられたんなら嬉しいよ」

 適当に返事をしながら教室へ向かって歩いていく。もちろん二人も一緒についてきた。彼女だけじゃなくエステルも一緒か……またクラスの男子達からのヘイトが溜まっていきそうだな。いや、もう今更か。

「昨日の男……冒険者のザイン。あの後、彼はきっちり私達が騎士団へと連れて行ったわ。受付嬢に襲い掛かったという事でしばらく牢屋に入れられるらしいの」

「そうなんだ。それは良かった」

 予想通りの内容。僕はホッとした顔でエステルに笑いかけた。彼女も笑い返してきたが、すぐに怪訝な表情を浮かべる。

「それにしてもザインはひどく取り乱していたわ。レイ、あなたいったい何をしたの?」

 これも想定の範囲内。この問いに対する答えも用意している。

「何ってよく覚えてないよ。あの時はアリサさんを守ることで必死だったからね。多分、僕じゃなくてエステルさんに怯えていたんじゃないかな?あのとび膝蹴りは見事だったもの」

「我ながら奇麗に決まったわ! でも、それだけじゃない気がするんだけど……」

「なら、彼女が原因じゃないかな?あの人は冒険者なんでしょ? だったら'氷の女王アイスクイーン'を知っていると思うし」

「そっか、そうよね。グレイスを見たら大抵の冒険者は震えあがっちゃうもんね」

 エステルがグレイスの方を見てパチッとウインクをした。うん、もうこれでこの話題に触れることはないだろう。後はアリサが余計な事を言わなければ大丈夫なんだけど、彼女は冒険者ギルドの受付嬢。個人情報を漏らすようなことはしないと思う。二人だけの秘密だって軽く念を押しておいたしね。
 ふぅ……とりあえず突飛な発言が飛び出してこなくてよかったよ。エステルにまで正体を怪しまれたら更に学園生活を送りにくくなるからね。予想していた話を素直にしてくれた彼女に感謝を……。

「そういえば、アリサがあなたを冒険者に勧誘しようとしているわよ」

 ……それは予想外の発言だ。僕は僅かに顔を引き攣らせながら、ニコニコと笑っているグレイスを見た。

「そうそう! なんだかすごく熱心に誘おうとしていたわね! なぜかしら?」

「さぁ? 守ってもらった時に何か感じるものがあったんじゃない?」

「……守ったって言っても、ただ一緒にいただけだよ?」

 心底楽しそうに笑っているグレイスにジト目を向ける。楽しそうっていうか絶対にこの状況を楽しんでいる。

「もしかしたら冒険者ギルドも人材不足なのかもしれないわね。良い機会じゃない! レイも冒険者になったらいいわ!」

「……考えておくよ」

 ガッツポーズを向けてくるエステルに僕は力ない笑顔で答えた。なんで僕が冒険者にならなくちゃいけないんだ。魔物退治も要人警護も飽き飽きするくらいにやってるって。

「人気者は辛いわね」

「君達には負けるよ」

 二人に視線を向けている男子達を見ながらつまらなさそうに告げる。

「あなたにご執心な様子だったわよ。女の子の心を手玉に取るなんて悪い人ね」

「そんなつもりはないよ。僕は君に頼まれた依頼をしっかりこなしただけさ」

「確かにそうね。でも、依頼をきっちりこなす人であれば冒険者に向いているんじゃないかしら?」

 僕の正体を知っていれば冒険者なんてなるわけないってわかっているはずなのに。完全にからかいにきているな。なんとか一矢報いてやりたいけど、エステルがいる手前下手なことは言えない。

「僕に冒険者なんて無理に決まっているでしょ」

「それはどうかしら? この学園に通っていれば必要最低限度の護身術は身につけているはずよ。だからこそ、昨日もザイルの凶刃に慌てる事なく対処できたのでしょ?」

 くっ……ここで否定することはできない。それをしてしまえばまたエステルが話をぶり返す可能性がある。

「……気が向いたらね」

「えぇ、楽しみにしているわ」

 憎たらしいくらいに晴れやかな笑みを向けてきたグレイスを僕は苦虫を噛み潰したような顔で睨む。そんな僕達を見ていたエステルが何とも言えない表情を浮かべた。

「……もう聞いても無駄だってことはわかっているのだけど、やっぱりあなた達の関係って腑に落ちないのよね」

 そう小声で呟くと、彼女は小さくため息を吐く。僕達の関係ってただのクラスメートでしょうが。何を悩む必要があるんだろう。

 そんな事を言おうとした僕だったが、教室の前に立っている見覚えのある姿を見てその口を閉じた。あちらも僕達に気がついたようで銀色のツインドリルを揺らしながら自信に満ち溢れた顔を向けてくる。

「待っていましたわ'氷の女王アイスクイーン'! さぁ、このソフィア・ビスマルクといざ尋常に勝負いたしましょう!!」

 腕を組みながら仁王立ちするソフィアを一瞥し、グレイスにニヤリと笑いかけた。

「人気者は辛いね」

「……あなたには負けるわ」

 グレイスは頭に手を添え軽く左右に振ると、盛大にため息をつく。なるほど。言われる立場だとイラっとするけど言う立場だと中々に気持ちがいいね。

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