3Rの魔法師〜魔力零の異端児は今日も誰かの魔力を糧にする〜
第46話 同族嫌悪
「……とまぁ、こんな感じですね」
事の顛末を一気に話し終えたファラが一息つく。
「なるほどね……'雷帝'の旦那が帰ってきちまったってわけか。まぁ、カシラが荒れる理由としては百点満点だな」
ヴォルフは双子の間を歩きながら苦笑いを浮かべた。
「なーんであんなに仲が悪いのかねー。他の騎士みたいに第零騎士団が嫌いっていうならわかるんだけど、あたしらは別に嫌われてないしー」
「そうですね。何度か話したことがありますけど、不快な思いは一度もしたことがありません。むしろ、他の騎士の方達のように侮蔑することなく、丁寧に接してくれました」
「んー……そうだろうな。俺と話す時もそんな感じだし」
「だから、なおさらわかりません。ヴォルフ兄さんが嫌われていないのに、ボスが嫌われるなんてありえないですから」
「……ファラってホント俺に辛辣だよな」
少しだけ傷ついた様子のヴォルフだが、ファラの方はいたって涼しい顔をしている。ヴォルフはため息を吐くと、胸ポケットから煙草を取り出し、口に咥えた。
「確か、雷帝の旦那とカシラは同い年だったよな?」
「シアンさんがセントガルゴ学院を卒業したのが2年前ですから、そうなりますね」
「だったら尚更だな」
「尚更?」
ファルが首をかしげてヴォルフを見るも、彼は笑っているだけ。ファラの方も眼鏡の奥では訝しそうな目をしていた。
「誰だってそういう奴の一人や二人いるもんなのさ。全くそりが合わない奴……いや、あの二人の場合は同族嫌悪って方が近いかな?」
「同族……ですか?」
そう言われてもファラにはいまいちピンとこない。性格も容姿も違いすぎて、共通点と言われたら強いという事しか思い浮かばなかった。だが、ファルの方は違うようだ。
「あー……確かに。あの二人は同じ匂いがするよねー」
理屈よりも感覚で動く彼女はそれをなんとなく肌で感じていた。ヴォルフが笑いながら頷く。
「似ているものっていうのは気に食わないんだよ。まるで自分を見ているようでイライラさせられるってもんだ」
「そういうものなんですかねぇ……よくわかりません。私達は似ていますが……」
「全然イライラしないよね」
「お前らが似ているのは容姿だけだ」
顔を見合わせてそう言った双子にヴォルフはあっけらかんと言い放った。
「まぁ、とにかくだ! 雷帝の旦那がアルトロワに戻ってきたからって別に接する機会なんてないんだから気にすることないだろ?」
「それもそうですね。彼らは表の騎士団、私達は裏の騎士団ですから」
「うん、そうだ! この話は終わりだ! とにかくあたしはお腹がすいたからご飯が食べたい! ヴォル兄! ちゃんと美味しいところに連れて行ってくれるんだよね!?」
飢え切った獣のような目でこちらを見てくるファルに、ヴォルフはナイスガイな笑みを浮かべながらビシッと親指を立てる。
「まかせておけって! これから行くのは知る人ぞ知る名店だぜ? 飯も美味い、酒も美味い、おまけになんつたって安い!! まさに知る人ぞ知る名店ってわけだ!」
「……安いってところにヴォル兄らしさを感じるよ」
「それにお酒が美味しくても私達は飲めません」
「あれ?双子ちゃん達、十六歳じゃなかったっけ?」
「今年でそうなります。それまではボスが絶対に許してくれません」
「……カシラは本当に過保護だよなぁ」
ヴォルフは口に手を当ててククッと笑った。
「まっ、酒が飲めなくても大丈夫だ。ちゃんと飯も美味いからよ。お子様二人にも満足していただけると思うぜ?」
「お子様呼ばわりが非常に気に入らないですが、美味しいというなら楽しみですね」
「うんうん! 楽しみだよー!!」
これから出てくる料理を想像するとよだれが垂れそうになるのを必死に堪えながらファルは元気のいい声を上げる。
「ほら、見えてきたぞ」
王都のメイン通りとは少し外れた裏通り。ヴォルフの指さした先には木造の見るからに怪しいお店があった。おそらく、何の情報もなく一人で来たら絶対に中には入らないだろう。かなりの大きさがあるのだが、薄暗い裏通りのイメージにぴったりの雰囲気を醸し出している。普通の女の子であれば恐怖を感じ、隣にいる男の腕に縋りついたりもするのだが、生憎ここには普通の女子などいない。
「なんだか歴史を感じるお店ですね」
「うへー……味は大丈夫なの?」
闇取引でもしていそうな建物を前にしても、双子に変わった様子はない。大体予想通りの反応に満足しながら、ヴォルフは店の扉に手をかけた。
「見た目は古臭いが、味は保証するぜ。おーい! 大将! 夜の貴公子がやって来た……」
勢いよく扉を開けたヴォルフは、そのままいつものように馴染みの店長に声をかけたが、その言葉は途中で止まる。遅れて店の中を覗き込んだ双子も、彼の言葉が止まった理由をすぐに理解した。
「ん? ……なんだ、あんた達もこの店を知っていたのか」
そこにいたのは先ほどまで絶賛話題の人であった金髪碧眼のハンサム騎士とその仲間達であった。
事の顛末を一気に話し終えたファラが一息つく。
「なるほどね……'雷帝'の旦那が帰ってきちまったってわけか。まぁ、カシラが荒れる理由としては百点満点だな」
ヴォルフは双子の間を歩きながら苦笑いを浮かべた。
「なーんであんなに仲が悪いのかねー。他の騎士みたいに第零騎士団が嫌いっていうならわかるんだけど、あたしらは別に嫌われてないしー」
「そうですね。何度か話したことがありますけど、不快な思いは一度もしたことがありません。むしろ、他の騎士の方達のように侮蔑することなく、丁寧に接してくれました」
「んー……そうだろうな。俺と話す時もそんな感じだし」
「だから、なおさらわかりません。ヴォルフ兄さんが嫌われていないのに、ボスが嫌われるなんてありえないですから」
「……ファラってホント俺に辛辣だよな」
少しだけ傷ついた様子のヴォルフだが、ファラの方はいたって涼しい顔をしている。ヴォルフはため息を吐くと、胸ポケットから煙草を取り出し、口に咥えた。
「確か、雷帝の旦那とカシラは同い年だったよな?」
「シアンさんがセントガルゴ学院を卒業したのが2年前ですから、そうなりますね」
「だったら尚更だな」
「尚更?」
ファルが首をかしげてヴォルフを見るも、彼は笑っているだけ。ファラの方も眼鏡の奥では訝しそうな目をしていた。
「誰だってそういう奴の一人や二人いるもんなのさ。全くそりが合わない奴……いや、あの二人の場合は同族嫌悪って方が近いかな?」
「同族……ですか?」
そう言われてもファラにはいまいちピンとこない。性格も容姿も違いすぎて、共通点と言われたら強いという事しか思い浮かばなかった。だが、ファルの方は違うようだ。
「あー……確かに。あの二人は同じ匂いがするよねー」
理屈よりも感覚で動く彼女はそれをなんとなく肌で感じていた。ヴォルフが笑いながら頷く。
「似ているものっていうのは気に食わないんだよ。まるで自分を見ているようでイライラさせられるってもんだ」
「そういうものなんですかねぇ……よくわかりません。私達は似ていますが……」
「全然イライラしないよね」
「お前らが似ているのは容姿だけだ」
顔を見合わせてそう言った双子にヴォルフはあっけらかんと言い放った。
「まぁ、とにかくだ! 雷帝の旦那がアルトロワに戻ってきたからって別に接する機会なんてないんだから気にすることないだろ?」
「それもそうですね。彼らは表の騎士団、私達は裏の騎士団ですから」
「うん、そうだ! この話は終わりだ! とにかくあたしはお腹がすいたからご飯が食べたい! ヴォル兄! ちゃんと美味しいところに連れて行ってくれるんだよね!?」
飢え切った獣のような目でこちらを見てくるファルに、ヴォルフはナイスガイな笑みを浮かべながらビシッと親指を立てる。
「まかせておけって! これから行くのは知る人ぞ知る名店だぜ? 飯も美味い、酒も美味い、おまけになんつたって安い!! まさに知る人ぞ知る名店ってわけだ!」
「……安いってところにヴォル兄らしさを感じるよ」
「それにお酒が美味しくても私達は飲めません」
「あれ?双子ちゃん達、十六歳じゃなかったっけ?」
「今年でそうなります。それまではボスが絶対に許してくれません」
「……カシラは本当に過保護だよなぁ」
ヴォルフは口に手を当ててククッと笑った。
「まっ、酒が飲めなくても大丈夫だ。ちゃんと飯も美味いからよ。お子様二人にも満足していただけると思うぜ?」
「お子様呼ばわりが非常に気に入らないですが、美味しいというなら楽しみですね」
「うんうん! 楽しみだよー!!」
これから出てくる料理を想像するとよだれが垂れそうになるのを必死に堪えながらファルは元気のいい声を上げる。
「ほら、見えてきたぞ」
王都のメイン通りとは少し外れた裏通り。ヴォルフの指さした先には木造の見るからに怪しいお店があった。おそらく、何の情報もなく一人で来たら絶対に中には入らないだろう。かなりの大きさがあるのだが、薄暗い裏通りのイメージにぴったりの雰囲気を醸し出している。普通の女の子であれば恐怖を感じ、隣にいる男の腕に縋りついたりもするのだが、生憎ここには普通の女子などいない。
「なんだか歴史を感じるお店ですね」
「うへー……味は大丈夫なの?」
闇取引でもしていそうな建物を前にしても、双子に変わった様子はない。大体予想通りの反応に満足しながら、ヴォルフは店の扉に手をかけた。
「見た目は古臭いが、味は保証するぜ。おーい! 大将! 夜の貴公子がやって来た……」
勢いよく扉を開けたヴォルフは、そのままいつものように馴染みの店長に声をかけたが、その言葉は途中で止まる。遅れて店の中を覗き込んだ双子も、彼の言葉が止まった理由をすぐに理解した。
「ん? ……なんだ、あんた達もこの店を知っていたのか」
そこにいたのは先ほどまで絶賛話題の人であった金髪碧眼のハンサム騎士とその仲間達であった。
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