3Rの魔法師〜魔力零の異端児は今日も誰かの魔力を糧にする〜

松尾からすけ

第34話 双子のクラスメート

 時間は少し遡る。

 王都アルトロワの街の中を進んでいく一つの集団があった。先頭を歩くのは四十代くらいの男で、その後ろについてくるのはまだ大人になりかけの少年、少女達。全員が名門セントガルゴ学院の制服を着用しているが、それもまだまだ真新しかった。その事から彼らが学院に入学してからまだ日が浅いことがうかがい知れる。

「社会科見学、どこに行くのか楽しみだねー!」

 その集団の最後列にいる茶髪でショートカットの女の子がワクワクを抑えきれない声で言った。

「今日は気合を入れてオシャレしてきたのだー!」

「オシャレって……みんな同じ制服着てるじゃないですか」

 はしゃぐ双子の妹を見て、こちらも全く同じ髪色をしたサラサラロングヘアーの少女が、かけている銀縁眼鏡をくいっと上にあげながら、呆れたように息を吐く。

「ちっちっち。ファラは本当にわかってないんだから」

 ファルが人差し指を左右に振って、自分の頭を指さした。そこには小さな蝶をあしらった可愛いヘアピンがついている。

「ファルちゃんのそれめんこいね!」

 双子と一緒にいる黄緑色の髪をした女の子が少し訛りのある口調で言った。それを聞いて、ファルが得意げに胸をそる。

「さっすがはフランっち! よくわかってるー!」

「フランさん。ファルはすぐに調子に乗るから、あまり褒めすぎない方がいいですよ?」

「ううん! 本当にめんこいで思ったんだ! それにファラちゃんが胸さ着けてる蝶のブローチもうんとめんこいよ!」

 フランが太陽のような眩しい笑顔を向けた。この少女が二人と同じクラスの友人。農村出身のせいか少し変わった話し方をするが、純粋無垢を絵にかいたような女の子。おかっぱに近い髪形が素朴さをさらに引き立てている。

「そのブローチはねぇ……ファラが大切な人からもらったものなんだよー」

「ちょ、ちょっとファルっ!」

「えぇー! 大切な人!?」

 からかうような口調で言ったファルを慌てて睨みつけるファラだったが、フランの方は興味津々といった様子でキラキラとした瞳を二人に向けている。

「あなたのヘアピンも一緒にボスからもらったモノでしょう!?」

「そうだよ~! あたしにとっても大切な人だからファラにとってもそうでしょ~?」

 あっさりと言ってのけたファルに、ファラは思わず口ごもった。だが、自分の大切とファルの大切では少し意味合いが違ってくる。

「二人の大切な人っていうのはいつも話すてぐれる人の事け?」

「そうそう! あたし達の保護者みたいな人~! とは言っても、あたしは肉親みたいに感じているけど、ファラはどうやら違うみたいだねぇ~」

「えぇー!!」

 意味ありげな笑みを浮かべながらうりうりと肘を押してて来るファルに反論しようとしたファラだったが、フランが『恋バナ大好き女の子』の顔になってしまったので何も言えなくなってしまう。

「ファラちゃんみたいにめんこかったら、きっと両想いなんだべなぁ……」

「それがそういうわけにもいかなくてさー」

「そうなんか? 意外だべ!」

「二人共、いい加減に……」

「やれやれ……やはり平民というのは暢気なものだな」

 ファラが二人の会話を断ち切ろうとした瞬間、小馬鹿にしたような声が聞こえた。フランはビクッと身体を震わせ、恐る恐る声のした方に振り返ったが、ファルとファラはつまらなさそうに視線を向ける。
 そこにはイケメンと言っても過言ではないほど顔立ちが整っている少年が、三人を見ながら得意げな笑みを浮かべていた。その男を見た途端、ファルが盛大にため息を吐く。

「はぁ……懲りないねぇ、クリスっちも」

「お、お前! 無礼すぎるといつも言っているだろうが! 俺は上級貴族として名を馳せるあのラウザー家なのだぞ!?」

 顔を真っ赤にさせて声を荒げるも、ファルとファラは全く効果なし。

「あたしとファラがぼっこぼこにした男子の中で、未だにちょっかい出してくるのは君ぐらいだよ」

「ふっ……あんなの負けた内に入らん!」

 さらりと髪をかき上げながらクリスが自信満々に告げる。その見た目に加え、入学式における『自分達に勝ったら好きにしていい』発言から双子に言い寄る男子が後を絶えなかった。クリスもそのうちの一人であり、完膚なきまでに叩きのめされたのだが、なぜかことあるごとにちょっかいをかけてくる。

「俺はレベルⅣの魔法師、クリス・ラウザー! 平民ごときに負けるはずがない!!」

 右手に刻まれた『Ⅳ』の文字を見せつけながら突然大きな声を上げたクリスにフランが少し怯えていたので、ファラは彼女の手をそっと握ると優しく微笑みかけた。そして、表情から笑みを消すとクリスに冷たい視線をぶつける。

「クリスさん。あなたがうるさいからフランさんが怖がってしまったんですけど?」

「あっ……ごめんなさい」

 ファラと話した瞬間、耳まで赤くしたクリスが素直に頭を下げた。だが、ファラは無表情のまま首を左右に振る。

「謝る相手が違います」

「そ、そうだな。農民の小娘よ、悪かっ」

「農民の小娘?」

「フ、フランよ! 悪かった」

「悪かった?」

「ごめんなさい、フランさん!」

 針のように鋭いファラの声に、半ばべそをかきながら謝るクリスを見てファルがぐっと笑いをこらえていた。謝られた張本人はどうしたらいいのかわからずあたふたしている。

「あ、頭を上げでくんせぇ! 上級貴族様が平民のわだすなんかに謝るなんて……滅相もござらねぇ!」

「気にすることはありませんよ、フランさん。学生のうちは皆さん平等です……ねぇ?」

 ファラが氷のような微笑を向けると、クリスが半分赤面、半分蒼白といった器用な顔色をしながらコクコクと何度もうなずいた。

「フ、ファラの言う通りだ! 俺に対してそんな丁寧な話し方をする必要はないぞ?」

 ちらちらとファラの方を見ながら、クリスがぎこちない笑みを向ける。それを聞いてフランは目を丸くしていた。

「あれまぁ……なんだがクリス様は他の貴族様どは違うみだいだべ。優しいお方だ」

「ふんっ! 様もいらん!」

 ぶっきらぼうに言うと、クリスは照れたように顔をそむける。そんな彼にファルがニヤニヤと笑いながら肩を組んだ。そして、耳元でそっと呟く。

「相変わらずファラに弱いんだねぇ……惚れた弱みってやつですかい、旦那?」

「っ!?」

 クリスが声にならない悲鳴を上げた。咄嗟に何かを言おうとしたが、口がパクパクと動いただけで声は何も出てこなかった。ファルは軽く笑みを浮かべながら、労うようにポンポンとその肩を叩く。

「まっ、頑張りなさいな! 君は平民を馬鹿にする節があるけど、根性あるみたいだし、結構いい奴だから嫌いじゃないよ? あたしが陰ながら応援してあげる!」

「なっ……なっ……!!」

 羞恥のせいか、プルプルと小刻みに身体が震えているクリスにファルがなおも言葉を続ける。

「だけど、ファラを選ぶとなると修羅の道だねぇ……あの子には強大な壁が立ちはだかっているから半端な覚悟じゃ落とせないよ、うん」

「う、うるさい!」

 クリスは肩にかけられたファルの腕を払いのけ、距離を取る。

「だ、誰が平民の女などにうつつを抜かすか!! 俺は上級貴族だぞ!? そんなことあってたまるか!!」

 そして、捨て台詞を残してどこかへと走り去ってしまった。その後ろ姿を見てファルはくっくっく、と心底楽しそうに笑う。

「クリスっちはからかい甲斐があっていいねぇ~!」

「まったく……いつもいつもなぜ私達に絡んでくるんでしょうかね?」

「さ~? でも、そんなに嫌いじゃないでしょ?」

 ファルが意味ありげな視線を向けると、ファラは小さくため息を吐いた。

「他の貴族の人達より大分ましですからね。でも、貴族ならジェラールさんの方が話しやすいです」

 きっぱり言い切ったファラにファルは微妙な表情を向ける。

「いやー……ジェラさんは特殊というか……あれはあれでやりづらいところあるっていうか……」

「そうですか? 私は全くそうは思いませんが?」

「計算高い者同士だからだよ。あたしは断然ニックちんの方が話が合うね!」

「ニックさんはあまり話しかけてくれません……嫌われているのでしょうか?」

「あはは……」

 首をかしげるファラに、ファルは乾いた笑みを浮かべる。そんな二人をフランが尊敬のまなざしで見つめていた。

「上級貴族相手さ一歩も引がねぇなんて、二人どもやっぱりすごい!」

 なんの穢れもないピュアな瞳を前に、二人は何となく気まずくなって顔を見合わせる。

「そろそろ到着するぞー!!」

 ちょうどその時、先頭を行く担任の教師がみなに聞こえるよう声を張り上げ、目的地に着いたことを告げたのであった。

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