少女と魔物の物語

KAZ.

少女と魔物の物語

 淋しがりの少女。誰か構ってほしくって森をさまよっていた。
 長い棒を持った少女は虚空を突っつきながら歩く。
「誰かいませんかぁ?」
 やがてその手に何か手応え。
 木々をかきわけそっと覗くと、頬に棒の刺さった魔物がいた。
「あら、こんにちは魔物さん」
 魔物はギロリと少女を睨みつけると、威嚇するように大きく吼えた。
 しかし少女は動じることなく、
「うふふ」
 と微笑む。
 魔物は言った。
「お前は俺が怖くないのか?」
 すると少女は言った。
「体が大きくて、毛むくじゃらで、声が大きくて、でもそれだけで怖いだなんて酷い話ね」
 魔物は続ける。
「だが俺は人間を喰うぞ?」
 少女は言う。
「そうね。それなら私はあなたと同じ森に棲む動物たちを食べてきたわ」
 魔物はぐぅと言葉を詰まらせると、相手にできんとばかりにその場を去ろうとした。
「あ、待って」
 少女が前に立ちはだかる。
「ねぇ、私を食べてくださらない?」
 魔物は思わずきょとんとした。
 やはりこいつは関わらない方がいいとばかりにその場を後にする魔物。
「ねぇ、ねぇってば」
 どこまでもついてくる少女。
 普段ならすぐにでも喰ってやるところだったが、魔物は知っていた。

 『孤独』は『不味い』ということを。

 その証拠に獲物を見つけた時に光る頭の角がまったく光らない。
 やがて棲み処にまで戻ってきてしまった魔物に少女は言った。
「あなたが食べてくださるまで私ここに住むわ」
 魔物は大きくため息を吐き、無視することに決めた。
 魔物と少女の奇妙な共同生活が始まった。
 
 それからどれだけの月日が経ったのだろう。
 その日は突然やってきた。
 寝ていた魔物はぴくりと体を揺らし起き上がった。頭の角が光っている。
 獲物が近い。
 しかしどこを見渡しても人間の姿はない。いるのは傍らですやすやと眠る少女だけ。
 それを見て魔物は気づいた。
 少女は孤独ではなくなっていた。
 今ならきっとうまいはず。
 ずしりずしりと近づく魔物。
 そして眠る少女に向かって大きく手を広げ……





 そっと毛布をかけてやった。

コメント

コメントを書く

「童話」の人気作品

書籍化作品