おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第666話

 ………し………………………………わ…………て……………………

「……なんだ……今の夢は……」

 自分の姿さえ見えない暗くて深い闇の中で不気味な声らしき音を聞いた瞬間に目を覚ました俺は、微妙な気だるさを感じながらベッドを抜け出すと洗面所に向かう為に自室の外に出た。

「あっ、おはようございます!おじさん、ようやく起きてくれたんですね……って、何だか顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」

「……ほんの少しだけ夢見が悪かっただけだから気にすんな。それよりもマホ、何でおじさん呼びなんだ?誰か来てるのか?」

「はい!実はついさっきビックリするお客さんがやって来たんです!」

「へぇ、そりゃ誰なんだ?」

「えへへ、リビングに行けば分かりますよ!でもでも、その前に洗面所へ行って顔を洗ってきて下さいね!そんなだらしない姿では会わせる訳にはいきませんから!」

「へいへい、最初からそのつもりだよっと……」

 何故だか興奮状態になっているマホに背を向けて洗面所に向かった俺は、言われた通り顔を洗ってぼんやりとしていた頭をシャキッとさせると楽し気な会話が聞こえてくるリビングに入って行った……するとそこで待っていたのは……

「ふんっ、こんな時間まで寝ているとは情けない奴だな。」

「クリフ、失礼だよ。すみません九条さん、朝からお邪魔しています。」

「あはっ!おはようございまーす!それとお久しぶりですね、お元気でしたか?」

「………はっ………?」

 腕を組みながら偉そうにしてるクリフ、申し訳なさそうに頭を下げてきたエルア、そして満面の笑みを浮かべながら声を掛けてきたオレットさんが我が家のリビングに居る状況を目の当たりにした俺は………一瞬にして脳内が真っ白になっていた……

「ふふっ、どうやら寝起きの九条さんには刺激が強かったみたいだね。」

「うん、固まっちゃった。」

「はぁ、仕方ありませんね。ほらおじさん、こっちに来て下さい。どうして皆さんがここに居るのか説明してあげますから。」

 やれやれといった感じのマホに手を引かれて何時も座っている席に腰を下ろされたその後、俺は3人から事の次第を聞かしてもらう事になった。

「………つまり、お前らは学園を卒業して……冒険者になった……と?」

「はい。正確には僕とクリフは、ですね。オレットはお姉さんと同じ雑誌社で仕事をする事になっています。」

「お姉ちゃんのコネを利用させて貰いました!ビシッ!」

「自慢する事ではないと思うが……まぁ、そういう事だ。冒険者としての経験を積む為に、しばらくこの街で厄介になるつもりだ。そのついでに貴様達に挨拶をしようとエルアが言い出してな。だからこうして来てやったという事だ!感謝するが良い!」

「いや、挨拶に来たのはついでじゃないからね。全くもう。」

「あはっ!まぁまぁ良いじゃん!これでこそクリフ君って感じなんだからさ!むしろ礼儀正しくしていた方が不気味がられちゃうんじゃないかな?」

「……それもそうだな。にしても、お前達が冒険者かぁ……」

「……何だ?もしかして先輩面でもしようと思っているのか?」

「いや、そもそもとして先輩ではあるんだがそうじゃなくてだな……何と言うか……随分と成長したもんだなと思ってちょっと感動してた所だ。」

 初めて会った頃は精神的にも肉体的にもまだ子供で色々と不安定な奴らだなーとか感じてたのに、それがこんなに頼もしくなるとはねぇ……時の流れってのは侮れないもんだなぁ……ちょっとショック。

「ふんっ、まるで年寄りみたいな発言だな九条透。おっと、もう既にそういう年齢という事を忘れていた。失敬。」

「あ?んだと?調子に乗ってると痛い目に遭わせんぞコラ!?」

「面白い!やれるものならやってみるがいい!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて下さいよ!こんな所で喧嘩しないで下さい!」

「あーもう……どうして何時もこうなっちゃうのかな……」

「ふふっ、これも1つの仲の良さなんだろう。」

「気にするだけ時間の無駄。」

「えぇ、やっぱり九条さんとクリフ君はこうでなくては!っと、そうでした!2人共喧嘩をするのは後にして下さい!それよりも今は私のお願い……いえ、依頼を聞いて下さい!」

「……は?」

「依頼……だと?」

 勢いよく横から割り込んで来たオレットさんの方に揃って視線を向けたその直後、彼女はニコっと微笑みながら大きく頷いてみせた。

「はいっ!実は皆さん、それとエルアちゃんとクリフ君に私の記者としての初仕事を手伝って欲しいんですよね!」

「……初仕事?オレット、そんな話があるなんて聞いてなかったんだが……」

「ごめんね、こうして皆さんが揃ってから伝えようって思っていたんだ。」

「そ、そうだったのかい?……皆さん、良いですか?」

「あぁ、別に構わないよ。」

「私も大丈夫。」

「……まぁ、とりあえず聞くだけならな。」

「ありがとうございます!それでは説明させて頂きますね!実は……」

 オレットさんは懐から勢いよく取り出した革の手帳を手に持って広げると、俺達に依頼したい仕事の内容を教えてくれたんだが……こりゃまた面倒な……!

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