おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第638話

「お主達、久しぶりじゃな。元気にしておったか?」

「あぁ、ぼちぼちって感じだな。そっちも相変わらずそうで何よりだよ。」

 加工屋でリリアさんと顔を合わせてか早数日、まだ太陽も昇り切っていない時間に旅行用の荷物が入ったバッグを持って家を出た俺達はトリアルの広場で豪勢な馬車に乗って姿を現したレミと何て事ない挨拶を交わしていた。

「えへへ、おはようございますレミさん!しばらくの間、よろしくお願いします!」

「うむ、こちらこそよろしく頼むぞ。いやはや、それにしてもこうしてお主達とまだ出掛けられる日が訪れるとはのう。ユキの奴には感謝せんといかんな。」

「ふふっ、そうだね。っと、どうやら噂のご本人が到着したみたいだよ。」

 朝っぱらから爽やかな笑顔を浮かべているロイドの視線の先に目を向けてみると、これまた豪勢な装飾のされた馬車が広場に入ってくるのが見えて……

「ありがとう、後は大丈夫だから屋敷に戻ってちょうだい。」

「かしこまりました。それではレミ様、良い旅を。」

 手綱を握っている御者さんとそんなやり取りをした後、レミはパンパンに膨れてる大きなバッグを担いでゆっくりと俺達の方に歩み寄って来た。

「おはよ、アンタも遅れずに来てたみたいね。」

「うむ、遅刻をしたら容赦無く置いて行くと言われておったからのう!さてと、後は加工屋の職人一家が来るだけじゃが……おっ!こちらも噂をすれば何とやらじゃな!おーい、お主達ー!こっちじゃこっちー!」

 レミが大声で呼び掛けた先には何時もの職人らしいさ全開の服装では無くて普段着っぽい格好のジーナと親父さんが居て……そんな2人の間には……

「ふむ、もしかしてあの女性がアルザンさんの奥さんかな。」

「だ、だろうな……けど……えぇ……?」

 黒髪が腰の辺りまで真っすぐ伸びているあの綺麗な人が親父さんの奥さんって……どうしよう、失礼なのは重々承知だが驚きを隠しきれないんですけども……!

「おっはよー!って、もしかして私達が一番最後?」

「すみません。お待たせしてしましたか?」

「あっいえ!俺達も今さっき会ったばかりですし……それよりもあの、そちらに居る女性は親父さんの……?」

「えぇ、妻のルーシーです。」

「皆さん、初めまして。私の名前は『ルーシー・クラート』と言います。主人と娘が何時もお世話になっております。」

「いえいえ、お世話になっているのは私達の方です。ふふっ、それにしても驚かされました。アルザンさんの奥さんがこんなにお美しい方だとは。」

「うふふ、お世辞がお上手ですね。こんなおばさんを捕まえて。」

「そんな、お世辞ではありませんよ。私の本心をそのまま伝えたまでの事……おっと失礼、ご挨拶がまだでしたね。初めまして、ロイド・ウィスリムと申します。以後、お見知りおきを。」

「えぇ、よろしくお願いします。」

「……ロイド、凄いわね……」

「あぁ……アイツのこういう所はマジで尊敬するわ……」

 レミとひそひそ喋りながら人妻を口説き落とすかの様に挨拶を交わしてるロイドの姿を観察した後、俺達も順番に自己紹介をしていくのだった。

「えへへ、どうどう?私のお母さん!とっても綺麗でしょ!」

「もう、ジーナちゃんってば……そんな風に言われたら恥ずかしいわ。」

「照れる事は無いって!ね、お父さん!」

「ん?お、おぅ……まぁ……そう……だな……」

「ちょっとお父さん?もっとお店で出してるぐらいの大声を出してくれないと!」

「や、やかましい!こんな事を皆さんの前で言える訳ないだろうが!」

「えぇ~!?やれやれ、お父さんには困ったもんだねぇ。」

「ぐっ……!このぅ……!」

「アルザンさん、落ち着いて下さい。ジーナちゃんもいけませんよ、皆さんと旅行をするのが楽しみなのは分かるけど迷惑を掛けない様にしなくっちゃ……ね。」

「はーい、分かりました。」

「……むぅ……」

 母は強し……という言葉を実感させられる光景を見ながら苦笑いを浮かべていると馬車の出発時刻が迫っている事を告げる合図が広場に響き渡った。

「あ、あはは……それじゃあ、そろそろ行きますか。」

「えぇ、アンタ達。よろしく頼んだわよ。」

「ふふっ、了解。」

 今回の旅の目的を思い出させるようにそんな事を言ってきたレミとユキのバッグを何故か持たされながら馬車に乗り込んでいった後、俺達は今日の目的地である王都を目指してトリアルを離れていくのだった。

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