おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第617話

 イリスの強運によってポイント集めが大幅に短縮された次の日、トリアルとは比べ物にならないぐらい豊富なクエストの中から幾つか良さそうなヤツを受注した俺達は防寒具と装備をシッカリと着込んで王都の外に来た……までは良かったんだが……

「うぅ……まさか今日に限ってこんなに雪が降りやがるとは……おいイリス、あんま俺から離れすぎんなよ。はぐれたりしたら大変だからな。」

「はい、分かりました。」

「……だからってピッタリ密着しても良いとは言ってなんだけどなぁ……」

 強風が吹いてる訳じゃ無いから吹雪って程のもんでもないが、王都の中が短時間で真っ白に染まっちまうぐらいの勢いで大量に降り続けている雪を見上げながら静かにため息を吐き出して周囲を見渡した。

「ったく、こんな事になるんならクエストに来るのは明日にしとけば良かったな……こんなに寒かったらお目当てのモンスターも出て来やしないだろうし……」

「いえ、そんな事も無いみたいですよ。ほら、あっちの方を見て下さい。」

「え?……おいおい、マジかよ……あいつ等、ちょっとぐらい空気を読めよ……」

 鋭い牙と殺気を剥き出しにしながら群れになっている白銀の狼系モンスターの姿を見つけてしまった俺は、サッとバカでかい斧を構えてこっちに視線を送って来ているイリスと視線を交わした。

「九条さん、体を温めに行きましょうか。」

「ったく、どうせだったらもっと別の方法で温まりたかったんだけどなぁ……あぁ、討伐クエストを片付けるとすっか。」

 ニヤリと笑いながらブレードを鞘から引き抜いて真正面を見据えた俺は、イリスと一緒にこっちへ突っ走って来ているモンスター達の方に向かって走り始めた!

「オラァ!!」

「フッ!」

 流石は王都周辺に出現するモンスター、何時も戦っている様なザコモンスターとは危険度も凶暴さも段違いだ!

 しかも足場が悪いから下手すりゃ一瞬で喉元を食い破られる……!けどまぁ、俺もイリスもこいつ等に殺される程ヤワじゃあねぇんだよなっ!

「九条さん!」

「分かってる!そっちも後ろに注意しろ!」

 目の前から襲い掛かって来る数匹に気を取られていると今度は雪を利用して奇襲を仕掛けられたりするので、俺達がお互いをカバーしながら次々とモンスター達を討伐していった!

 ……そしてどれだけ時間が経ったのか分からなくなった頃、ブレードの刃に付いた真っ赤な血を振り払って武器を鞘に納めた俺は荒くなってる呼吸を整えながら周囲をゆっくりと見渡した。

「ふぅ、モンスターの気配は無し……これで討伐クエストは達成だな?」

「えぇ、そうですね。九条さん、お疲れ様でした。」

「あぁ、そっちもお疲れさん。いやぁ、それにしても……中々に酷いなこりゃ。」

「うふふ、雪が鮮血に染まっていますね。」

「いやいや、笑い事じゃねぇだろっての……はぁ……とりあえず体が冷えちまう前に納品作業に取り掛かるか。」

 俺はそう言いながら腰にぶら下げているポーチから納品用のネットを取り出すと、目配せをしたイリスが小さく頷くのを見てから体を動かし始めるのだった。

それから十数分後、雪の冷たさのせいで少しだけ痛くなってきた両手を息で温めつつ上体を起こした俺はネットを仕舞うと同じく作業を終えたイリスと合流した。

「九条さん、今日の所はこれぐらいにしてもう戻りましょうか。」

「そうだな……収集クエスト用の素材もモンスターと戦う前に何とか集められたし、もしかしたら50ポイント達成してるかもしれないからな。」

「うふふ、楽しみですね。それでは行きましょうか。」

「おう……」

「……あれ、何も言わないんですか?」

「……あぁ、寒いから特別にそのままでも良いよ……」

「そうですか?なら、お言葉に甘えさせて貰いますね。うふふふ。」

 ……俺なんかの何処が良いのか分からないが、嬉しそうに腕を絡めてきたイリスを見て自然と笑みを零しながら雪原を歩いて王都へと戻って行くのだった。

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