おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第596話

「皆さん、本日は貴重なお話をして下さってありがとうございました。残念ですが、暗くなってきてしまったので本日はこの辺りにして続きは明日でお願いします。」

「分かりました……あの、本当にこんな感じで良かったんでしょうか?俺達、ずっと思い出話をしていただけなんですけども……」

「うふふ、それで充分ですよ。それよりもすみませんでした。こんな時間になるまで皆さんの事をお引き留めしてしまって……」

「いえいえ、別に構いませんよ。私達も時間が経つのを忘れていましたからね。」

「うん、話に集中しすぎた。」

「えへへ、私もです!あの頃は皆さんと仲良くなってこんな風に思い出を振り返れるとは思ってなかったですから、話をしていたらついつい楽しくなっちゃいました!」

「ふふっ、そうだね。九条さんは私の事を最初は嫌っていたらしいから、こうやってギルドを組めたのは奇跡みたいなものだよね。」

「い、いや!だからそれはだな……」

 依頼が始まってから数時間が過ぎてすっかり日も落ちてきた頃、話の流れで思わずロイドと出会った時に思っていた事をポロっと口にしてしまった俺は、今となっちゃ黒歴史とも言える事を指摘されて気まずさを感じてしまっていた訳で……

「うふふ、そんな感情を抱いていたのに今は一緒に暮らせる程の仲間なんですよね。素晴らしい関係じゃないですか、僕からしたら羨ましい限りです。」

「あ、あはは……そうか、まぁイリスもそんな仲になれる奴が見つかると思うぞ。」

「そうですか?では、その時が来るのを楽しみに待っていますね。」

「お…おう……」

 ご両親が同じ部屋に居るにも関わらず真っすぐ俺の事を見ながらそんな事を言ってのけたイリスにどう反応したら良いのか困っていると、リビングの壁に飾られていた振り子時計の鐘が急にボーンボーンと鳴り響き始めた。

「おっと、そろそろ夕食を作り始めないとダメな時間ですね。皆さん、もし良ければ夕食をご馳走させてはもらえませんか?」

「えっ?いやいや、それは流石に悪いですよ!」

「いえ、そう仰らずにいかがですか?こんな時間になるまでお引き留めしてしまったのはこちらですから、ご遠慮なさらずに。」

「そ、そう言われましても……どうする?」

「うーん、私としてはお言葉に甘えるのも良いかなーとは思いますけど……」

「私もマホと同意見かな。この時間帯ではどの店もそれなりに混み始めているだろうから、ここでご馳走になるのも悪くないんじゃないかな。それに私達がギルドを結成してから初めて遭遇した事件についても話す事が出来るだろうからね。」

「……おなかすいた。」

「……すみません、それじゃあご馳走になっても……構いませんか?」

「えぇ、すぐに用意しますので少々お待ち下さい。イリスさん、夕食作りを手伝ってくれますね。」

「うん、九条さんに食べて貰うなら何時もより頑張って作るよ。」

「……それではお願いします。皆さん、失礼します。」

「あ、はい……」

 い、胃がキリキリする様な感覚に襲われつつリビングを去って行く2人を見送ったその直後、アシェンさんが俺達の話を書き留めた用紙を手に取ってソファーから立ち上がった。

「皆さん、私は料理が出来るまでに聞かせて頂いたお話を纏めさせてもらいますね。その間、棚にある本をお読みになって時間をお潰しになって下さい。」

「あぁ、それではそうさせて頂こうかな。そう言えば幻惑図書の本のこの棚に?」

「えぇ、そちらに並べてありますよ。」

「ありがとう。では、料理を楽しみにしながら読書を楽しむとしようか。」

「……そうだな。」

 アシェンさんがどんな本を書いているのか気になりつつ、俺達は料理が出来上がるまで幻惑図書という作家の物語に目を通してみる事にするのだった。

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