第588話

「ふぅ、あの雑誌の影響力は予想していた以上だね。ファンの子達が顔を合わせると必ずその話題を振ってくるから少し困ってしまうよ。」

「私も、知らない女の子から声を掛けられた。」

「えへへ、こんな事は初めてだから何だかちょっと照れちゃいますね！」

「……お前達は凄ぇな……あの雑誌、王都でも発売されてるって言うのにさ……少しぐらい恥ずかしいとか思ったり……する訳ねぇか。」

　そもそもこいつ等のメンタルって俺の数十倍ぐらい強いからなぁ……特にロイドは自分にファンが居る事を認知してる程だし……比べる意味が無さすぎるか……

「ふふっ、九条さんだって恥ずかしがる必要は無いだろう？あんなにも素敵な格好で表紙を飾っているんだからね。それに聞いた話では、あの表紙を目にして思わず手に取ってしまったという女の子も少なくないみたいだよ？」

「……えっ？そ、そんな……冗談だろ？」

「いやいや、本当の話だよ。」

「へ、へぇ………よ、世の中には変わった趣味の子が居たもんだな！」

「……ご主人様、分かりやすく上機嫌になりすぎでは？」

「な、何を言ってんだよ！別に上機嫌になんかなってねぇって！」

　か、顔見知りに弄られると何とも言えない微妙な気持ちになっちまうけど、名前も知らない子にそんな噂をされる分には……構わねぇかな！うんうん！

「……まぁ、ご主人様がそれで良いなら構いませんけどねぇ……ってそんな事よりも明日のクエストについてなんですが、どうしましょうか？天気、悪くなりそうな気がしませんか？」

「あー言われてみれば確かにそうかもしれねぇな。」

「うん、夜になってから雪の勢いが増してきたからね。多分、明日の朝にはかなりの量が積もっているはずだよ。」

「だよなぁ……よしっ、ここは様子見って事で家で大人しく……」

「……………」

「……分かってる。ちゃんと行くからそんな悲しそうな目で俺を見るんじゃねぇ……ったく、たまには家でのんびりしようって発想はねぇのかよ……」

「ない。明日は普段よりも強いモンスターと戦える気がする。」

「やれやれ、お前のその予感はかなり当たるから嫌なんだよなぁ……ただでさえ寒いのが苦手だってのに、雪が積もると足場が悪くなって動きにくくなるし……」

「うん、そこを狙ってモンスターが襲い掛かって来る。楽しみ。」

「おぉ、流石はソフィさんですね！頼りになります！……うーん、私も魔法が使える様になりましたし戦闘に参加するのもアリかもしれませんねぇ……」

「アホ、そんもん却下に決まってるだろうが。そういうのはもっと体が大きくなった時に言いやがれってんだ。それまではシッカリ俺達に護られてろ。分かったな？」

「……えへへ、はい！全くもう、ご主人様は私の事を大切に思い過ぎて困ってしまいますね！」

「バッ！そ、そういう事じゃなくてだなっ！」

「はいはい、照れなくても良いですよご主人様！えいっ！」

「うごっ！？おまっ、いきなり抱き着いてくるんじゃねぇよ！」

「おやおや、もしかして私達もこの流れに乗った方が良いのかな？」

「……ロイドに合わせる。」

「ふふっ、了解。」

「ちょっ、待てお前ら！？どうしてゆっくりこっちの方へ……マ、マホっ！頼むから今すぐ退いて……！！」

　……その後、天国とも地獄とも言える様な経験をした俺は加工屋での事も合わせてドッと体力を奪われてしまい何時もより早い時間に眠りにつくのだった。