第587話

　密着取材、美術品泥棒、異世界忍者とメチャクチャ盛り沢山だったイベントを乗り越えてから数週間後、トリアルを包み込んでいた季節は空からちらほらと降ってきた雪のせいで少しずつ秋から冬へと変わってきていた。

　そんなある日の事、怪我も完治して傷１つ無い綺麗な体を取り戻した俺はジーナに呼び出されて加工屋まで足を運んでいたんだが……

「こんな事になるんだったら、家で大人しくしてりゃ良かった……！」

「まぁまぁ、そう言わずに九条さんも一緒にこの雑誌を読もうよ！だって表紙だよ？表紙！しかもこんなに格好良いんだからさ！そんなに恥ずかしがる事も無くない？」

「そ、そんなもん無理に決まってんだろうがっ！そもそも格好つけた自分の姿なんて見たくねぇんだよ！つーか、どうしてお前がその本を持ってるんだ！？」

「ふふーん、そんなの私が本屋で買ってきたから以外に無いでしょ？いやぁ、コレを初めて見た時は自分の目を疑ったよね！だって表紙が九条さんなんだもん！しかも、普段とは違ってすっごいお洒落な姿でさ！それはもう、買うしかないよね？」

　当然でしょ？みたいな顔つきでこっちを見て来やがったジーナと、その隣で何とも言えない表情を浮かべている親方の姿を交互に見た俺は顔をヒクつかせると……

「あぁそうかい、じゃあ買うまでは何も言わねぇさ……だけどな、わざわざ俺の事を呼び出してその本を見せつける必要は無かったんじゃないんですかねぇ！？」

「そこはほら！購入者として本人の口から色々と聞きたいと思ったから！」

「だったら！そこはロイドがソフィで良かったんじゃねぇのか？！あいつ等だって、その中にある冬服の特集ページに写真が載ってるだろうが！それなのにどうして俺を選んだんだ！？一体何の為に？！」

「あー……それは……九条さんの方が、イジッたら面白そうだったから！」

「こ、このっ……！隠す気ゼロかよ！？」

「うん！それよりも知らなかったよ！九条さん、こういった本に載れちゃうぐらいのお洒落さんだったんだね！何時も同じ様な服ばっかりだったから驚いっちゃった！」

「うぐぅっ！」

「……アレ？どうしたの九条さん？そんな所にうずくまったりして？」

「な……何でもない……何でも無いから気にするな……！」

「そう？ならそうするね！」

　無邪気という名の刃で心に深いダメージを負わせてきたジーナを手で制止した後、ギリギリの精神状態で何とか立ち上がった俺は気まずそうにしている親方の方に目を向けた。

「す、すみません……店内で大騒ぎしてしまって……」

「いや……まぁ、その……なんと言うか……こちらこそすみません……」

「ん？何を２人して謝り合ってるの？って、そんな事よりも九条さん！知ってた！？この雑誌、実は王都の方でも取り扱ってるんだって！」

「……はっ？えっ、じょ、冗談……だよな？そんな話、俺は一言も……！」

「あれ、知らなかった？この雑誌社が出してる本、今回だけ王都の方にある本屋でも発売したんだって！何でも売れそうなヤツと一緒に売り出しちゃおうって感じで。」

「…………あぁ…………」

「く、九条さん！？おい、しっかり！」

　……魂が抜け落ちた……みたいな表現を現す感じで再び膝から崩れ落ちた俺は……親方に肩を揺すられながら……ただ……天井を見つめ続ける事しか出来なかった……