おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第578話

 太刀の様な形をした2本のブレードから繰り出される斬撃を何度も防ぎ続けてきた俺は、一瞬の隙を突いて後ろに大きく下ると即座に武器を構え直して風を纏うと目の前に居る忍者の方へ向かって一直線に斬り込んで行った!

「うおおおおおおおっらぁ!!」

「遅い!」

「っ!ぐっ!」

 確実に胴体を捉えたと思った斬撃が虚しくも空を斬ってしまった直後、俺の頭上を飛び越える様に攻撃を躱した忍者の奴が何処からか取り出したクナイみたいな武器を素早く投げつけてきた!

 突っ走っていた勢いそのままに地面に右手を突いて前転しながら体勢を立て直して忍者の着地点を見定めた俺はその地点に魔方陣を展開、そこから土で造られた巨大な拳を出現させて奴に叩き込もうとした!

「甘い!」

 忍者の野郎はそう言いながらさっきの俺と同じ魔法を使ったのか落下速度を一気に上昇させると、拳を滑る様にしながら地面に降りて来て今度はお返しとばかりに数を増やしてクナイを投げつけてきやがった!

「チィッ!」

 反射的に何本か弾き落とせはしたが体に幾つかの傷が出来てしまった俺は、痛みに耐えながら冷静にこっちを睨みつけている忍者と相対した。

「……面白い、まさかここまで出来るとは思ってもいなかったぞ。褒めてやろう。」

「はぁ……はぁ……テメェに褒められても嬉しかねぇんだよ……」

「フッ、そう言うな。もっと誇っても良いんだぞ?今まで俺の相手をしてきた連中は1分も持たずに死んでいったからな。」

 黒い布に覆われた口が笑っているのが目に見える様な感じでそんな事を言ってきた忍者と視線を合わせながら乱れた呼吸を整えた俺は、ブレードの持ち手部分を力強く握りしめた。

「そうかよ……じゃあ、もっと誇れる様にテメェは必ずぶっ倒す……!」

「ぶっ倒す……か。貴様にそんな時間が残っているのか?」

「……どういう事だ?」

「貴様が逃がしたあの者達。今頃、俺の部下達に捕らわれている頃だろう。」

「な、何だと!?」

「ふんっ、あのまま逃げ切れると思ったのか?それこそ甘い。この屋敷の周辺には、俺の部下達が隊を組んで待機している。不測の事態が起きた時の為にな。」

「…………」

「さぁ、どうする?すぐにでもあの者達を助けに行かなかればあの者達は命を奪われるか……それ以上の生き地獄を味わう事になるぞ?」

 両手を広げて悪意をたっぷり含ませた言葉を忍者が投げつけてきた……その直後、俺の中からとある感情がふつふつと沸き起こって来ていた……

「ふっ、ふふ……ふふふ……ははははは………」

「……何がおかしい?あまりの状況に絶望して壊れてしまったのか?」

「あぁいやいや、そうじゃなくて……アンタ、やっぱり卑怯者だなって思ってさ。」

「……何?」

「そうやって俺の気持ちを焦らせて隙だらけになった所を、グサッと仕留めるつもりだったのかもしれないが……残念だが、そうはなってやれないんだ。」

「……どういう事だ?貴様、何を言ってる?」

「まぁ、単純な話だよ。アンタがそうやって言い切ってくれたおかげで、あいつ等は絶対に大丈夫だって確信が持てたんだ。どうもありがとうよ。」

「貴様……やはり何処か壊れたのか?」

「ははっ、どうだろうな……まぁ、結果は最後まで戦えば分かると思うぜ。」

 忍者の奴が立ててくれたフラグのおかげで危機的状況には陥っているであろう皆がまだ何とか持ちこたえてくれているだろうという事を直感的に理解した俺は、武器を構えて目の前にいる倒すべき相手を真っすぐ見据えた。

「……良いだろう、そこまで言うのなら俺も本気でやらせてもらおう。」

「ハッ、今までは本気じゃなかったってのか?」

「その通りだ。さぁ、覚悟するがいい……ふんっ!」

「うおっ!何だ?!」

 懐から何かを取り出した忍者の野郎がソレを勢いよく地面に叩きつけた瞬間、俺の視界は真っ白でメチャクチャ濃い霧に覆われてしまっていた……!?

「この霧が晴れる頃……それが貴様の命が尽きる時だ!」

「チッ!こんなもん魔法でっ?!ぐああああああっ!!!!!」

 反響する様に聞こえてきた忍者の声を無視して風の魔法を使おうとしたその直後、霧の中からクナイが飛んで来たので俺はソレを反射的にブレードで弾き飛ばした!

 ……そのはずなのに、弾いたはずのクナイは空中で軌道を変えると俺の左腕に勢いよく突き刺さりやがった!?!!?!!

 その衝撃で体勢を崩してしまった俺は背中から倒れ込む様にして地面に倒れ込んでしまった!

「うぅ、ぐうっ……!い、今のは一体……!?」

「この技の名は投線術《とうせんじゅつ》。さぁ、貴様の命を刈り取らせて貰おうか。」

「っ!!」

 左腕を襲う激痛のせいで視界が明滅を繰り返す中、歯を食いしばって死に物狂いで走り出した俺は四方八方から飛んで来るクナイを何とか弾き続けた……しかし……!

「そんな事は無駄な抵抗だ。どれだけ逃げ回ろうと俺の技は確実に貴様を追い詰めて行く。」

「くっ……!」

 畜生っ!どうして奴のクナイはあんな動きをしやがるんだ!?投線術だと?つまり投げてる物を線みたいな物を使って操ってる事か?……そうか!つまり奴はアイツと同じ魔力の通りやすい鉄製の線を……!

「そこだっ!」

「なっ!?ぐううっ!!」

 恐らく正解であろう答えに辿り着けた次の瞬間、死角から飛んで来たクナイに右のふとももを刺されてしまった俺は前のめりになって地面に倒れ込んでしまった……!

「ハッハッハ!どうだ、絶望の味は?潔く諦めて死を選ぶと言うのなら苦しませずに殺してやるぞ?それとも無様に抗って醜く死に至るか?好きな方を選ばせてやる。」

「………………………」

 何処からともなく聞こえてくる奴の声を耳にしながら地面を真っすぐ見つめていた俺は、目の前に落ちてしまったブレードを拾い上げるとソレを杖代わりにしてグッと手足に力を込めながらゆっくりと立ち上がると静かに瞼《まぶた》を閉じた。

「ふんっ、どうやら答えは決まったようだな……では、この場で散り果てろ!!」

「………ハァッ!」

「なっ!何だと!?」

 驚きと戸惑いに満ちた奴の声……いや、今はそんな事どうでも良い……思い出せ、カームさんに教わった事を……そうすれば……きっと……!

「………すぅ………はぁ………すぅ………はぁ……………」

「ぐっ、何をしたのか知らんが……これで終わりだ!」

 動揺している奴の声を無視して意識を集中させた俺は、風を切る音が聞こえてくる方に向かって次々と斬撃を放っていった!

「……………」

「ど、どういう事だ……何故、俺の技がこんなにも完璧に……!?いや、それならば防ぎきれない程の投線術を仕掛けるだけの話だ!」

 奴は言葉通りに操っているクナイの数を増やして襲い掛かってきたが、俺は気配を察知する為に教わった事を思い出しながらそれらを次々と弾き落としていった。

「……ぐうっ……!」

「ハッ!致命傷となる攻撃は防いでいるみたいだが、それも時間の問題らしいな!」

 ……確かに奴の言っている事は間違っていない。戦闘のプロでもない俺が付け焼き刃で気配を察知しようとしても限界がある……

 それじゃあどうするか?……そんなのは決まってる……腹を括れば良いだけだ……奴をぶっ倒す為には……どんな事になっても構わねぇって言う覚悟を持ってなぁ!!

「おおおおおおおっ!!!!!」

 大声を出して気合を入れ直した後に前後左右から飛んで来ているクナイを連続して弾き落としていると、最後と思わしき攻撃の音が真正面から聞こえてきた。

「死ねぇ!!」

 霧の中に奴の声が響き渡ったその直後……ビシャビシャっという音と共に、顔中に生暖かい液体が当たり鉄臭い臭いがしてきて……左手に激痛が走った。

「……つーかまえーたー……!」

 左目に突き刺さるまで残り数センチといった所でクナイを握り締める事に成功した俺は、手の平と指の皮膚が切り裂かれる痛みを無視しながらニヤリと笑って掴んでる物ごと魔法を使って自分の左手から腕の辺りまでを石で覆っていった。

「き、貴様っ!何のつもりだ?!」

「はっはっは……さぁ、いい加減にご対面といこうじゃねぇか!!」

 両脚を使って動かない様に踏ん張りながらクナイに繋がっていた線を自分の方へと引っ張り込むと、濃霧に隠れていた卑怯者が驚きの表情を浮かべながら目の前に姿を現しやがったので俺は勢いそのままに左手で裏拳を食らわしてやった!!

「ぶへええええええええええええ!!!!」

「ど、どんなもんだ……この、クソ野郎……!」

 渾身の一撃を叩き込めた事に安堵したせいなのか分からないがガクッと全身の力が抜けて左手の石化が解けてしまった俺は、膝から崩れ落ちながらも魔法を発動させて周囲を覆っていた分厚い霧を風で吹き飛ばした……

「はぁ……はぁ……よ、ようやく……スッキリしたぜ………って……マジかよ……」

「ぐ、ぐぐぐ……!き、貴様ぁ……!!許さん……許さんぞ……殺してやる……絶対殺してやるぞおおおぉぉぉ……!!」

「おいおいおい……怒りで我を忘れちまったのか?出会った頃に見せていたクールなキャラは何処に置いて来ちまったんだよ……」

「うるさい……!覚悟しろ……貴様だけは……貴様だけはあああああ!!!!」

 血だらけになった顔の左部分を手で押さえながら太刀を手にして殺気立った視線を送って来ている忍者と目が合った俺は、辛うじて動かせる右手でブレードを手にして深手を負っていない左脚を軸にしながら奴と向かいあった。

「ふぅ……そんなに俺が憎いなら……ほら、来いよ。そろそろ決着を付けようぜ。」

「殺してやる……斬り刻んでただの肉の塊へ作り替えてやる……!」

「おぉ、怖っ……まぁ、やれるもんならやってみな?」

「っ!!!舐めるなあああああああ!!!!!!」

 雄叫びにも似た声をあげながら忍者の野郎が突っ込んで来たのと同時に走り出した俺は、ブレードを左腰の辺りに構えながら奴と真正面でぶつかり合う……訳がねぇ!

「フッ!」

「んなっ?!」

 もう少しでお互いの刃が相手に届くであろう領域に足を踏み入れた瞬間、その場で身を屈めるとクナイが頭上ギリギリの所を通り過ぎて行った!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」

「ぐぼああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 メキメキメキっと何かがへし折れる感覚がブレード越しに伝わって来るのも構わずブレードを薙ぎ払った次の瞬間、忍者の体は勢いよく吹き飛んでいきそのまま屋敷を囲っていた木々の一本にぶち当たった!

「ぁ……がっ……………‥」

「はぁ……はぁ……はぁ…………‥っしゃあ………あぁ………いっっってぇ………」

 グッタリとして動かなくなった忍者の姿を目にしてから数秒後、再び地面に倒れていった俺は全身に襲い掛かる痛いにマジ泣きしそうになっていた……

「あぁもう……またマホに怒られる……って、そんな事を言ってる場合じゃねぇ……さっさと皆を助けに行かねぇと……あっ、いや……その前にまずはアイツを……後になって目を覚まして第2回戦とか笑えねぇからなぁ……あー……しんどっ……」

 マホ……ソフィ……ポーラ……もうちょっとだけ頑張ってくれ……コイツを何とかしたら……すぐに助けに向かうからな……!

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