おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第575話

「……よっと!」

「ふっ!」

「がはっ……」

「な、なに……が………うぅ………」

「ふぅ……そんじゃあ、こいつ等もそこら辺の部屋に運び入れるぞ。」

「あぁ。」

 少しだけ時間は掛かりはしたが何とか騒ぎを起こさずに建物の中と外に居た連中の意識を奪う事に成功した俺達は、最後に気絶させた連中をすぐ近くにある空き部屋に引きずって行くと着ている服を脱がせるとソレを使って手足を縛り上げていった。

「うん、とりあえずこんなもんか……悪いな2人共、変なもん見せちまって。」

「いや、気にしないでくれ。そんな事よりも九条さん、ひとまずの安全は確保出来たはずだから急いでポーラが捕まっている部屋に急いで向かおうか。」

「あぁ……さっきも言ったと思うが、焦って突っ走ったりするんじゃねぇぞ。下手に動けばポーラを人質に取られちまう可能性があるからな。」

「了解、仕掛けるタイミングは九条さんが考えてくれた作戦通り……だろう?」

「おう……上手くいくかどうかは運次第の所もあるんだが……ソフィ、そっちの方はもう準備に取り掛かってくれるか?」

「分かった、合図は頭の中に送って。」

「はいよ。そんじゃあ最後の仕上げといきますか。」

 ポーラを救出する為に思いついたちょっとした作戦を実行に移す為に悪人共を放り込んだ部屋の前でソフィと別れた俺とロイドは、周囲を警戒しながら室内灯が灯った部屋がある方へと向かって行った。

「……九条さん、どうやら見張りは居ないみたいだよ。」

「そうみたいだな……多分、気絶させた連中のどれかが見張り番だったんだろ。」

「ふふっ、運良く扉の護りを交代する瞬間を狙えたって事なのかな?」

「分からん……だが、この幸運を利用しない訳にはいかねぇよな。」

「うん、行ってみよう。」

 目的地である部屋を護っている奴らが居ないのを良い事に光が漏れ出している扉の前までロイドと一緒に近寄ってみると……

「………最後に聞かせて下さい、どうして美術品を盗み出したりしたんですか?」

「っ、この声は……!」

「ポーラの声で間違いねぇな……誰かと話をしてるみたいだが……」

「ふんっ、そんなの決まっているではありませんか……美しく価値のある美術品は、その価値を真に理解している者の手元にあってこそ!だから奪い取ったまでですわ。その事に一体何の問題がありまして?」

「……なるほど、どうやら話し相手はポーラが探し求めていた相手らしいね。」

「ったく、まさかここまで予想通りの展開になっちまうとは……ん?おいロイド……ここにある亀裂から中を覗き込めそうだぞ。」

「えっ?どれどれ……」

 ロイドと一緒になって扉に下側に入った小さな亀裂から室内を覗き込んでみると、そこにはバカみたいに派手な格好をした厚化粧のおば……妙齢な女性と縄で縛られた状態で床の上に座り込んでいるポーラが向かい合っていた。

「さぁ、話はこれでお終いよ。そろそろ返事を聞かせて頂けるかしら?私達に協力をして美術品を持つ貴族達の情報を集めるのか……それともここで若い命を散らす事になるのか……どちらか賢明な判断なのか、わざわざ言うまでもないわよね?」

「……そうですねぇ……えぇ、確かに仰って頂く必要もありません。」

「そう、ならこれからよろしく」

「お断りします。」

「ね……?お嬢ちゃん?私の危機間違いかしら……今、何て言ったの?」

「あれ、聞こえませんでしたか?お断りしますって言ったんですよ。」

「おいおいおいおい……これまでにどんな流れがあったのかは知らねぇが、アイツはどうしてあんなに強気なんだよ……?!」

「九条さん、このままではポーラが……!」

「わ、分かってる!だが、今は連中とポーラの距離が近すぎてどうにも……!」

 まさかの展開にあたふたしながら部屋の中の様子を窺っていると、厚化粧をしてる妙齢の女性が顔をひくつかせながらポーラの事を睨みつける様に見下ろし始めて……

「……面白いわね。この状況で私の頼みを断るなんてどういうつもりかしら?」

「どういうつもりも何も、私は貴女の事が嫌いなんです。いえ、嫌いになったという表現の方が正しいでしょうか?好き勝手に人の大切にしている物を奪い取り、自分の為に相手を脅すその姿が……とっても気に入りません。ですので、お断りします。」

「き、きぃいいいい!!!クソ生意気な小娘だ事!良いわ、そこまで言うのならもう貴女に協力は頼まない!お前達、このお嬢ちゃんは好きにしていいわ!さっさと私の前から消し去ってちょうだい!」

「へいっ!へっへっへ、この状況で威勢のいい奴だな……テメェのその態度、俺達がどこまで持つか確かめてやるよ!オラ、来い!」

「うおおおおっ!ちょ、ちょっこっちに来るぞ!」

「九条さん!やるなら今だよ……!」

「くっ、マジかよ……!」

 ポーラの腕を掴んで引きずる様にしてこっちに向かって来る男の姿を亀裂から確認した俺は、頭の中でソフィに声を掛けた!

(ソフィ!作戦開始だ!やれ!)

(了解。) 

 ソフィの返事か聞こえてきたのと同時にスッと立ち上がった直後、扉がガチャッと開いて武装した男と目が合った。

「うおおおおおっ!?お、おまっ、なにも」

「どっせいっ!!」

「うごぼぁ!!!!」

「きゃああああああ?!??!!!」

「な、何だ!?」

「一体これは?!」

 渾身の力を込めて目の前にあった悪人の顔面を殴って部屋の中に吹き飛ばした俺はすぐさま縛られていたポーラを担ぎ上げると、後ろに下がって勢いよく扉を閉めた!

「ロイド!」

「分かってる!」

 不敵に微笑んだロイドは扉に触れながら魔方陣を展開させると網目状の柱を木枠に沿って次々と出現させていった!

「皆さん!助けに来てくれるって信じてましたよ!」

「喜ぶのはまだ早いっての!」

「な、何が起こってやがるんだ!?」

「おい!変な木に窓が潰されちまったぞ!?」

「ち、ちきしょう!そこに居やがるのは誰だ?!?!!」

「よしっ、ソフィの方も上手くやったみたいだな!」

「うん、これで時間は稼げるはずだ!今のうちに!」

「えっ?!ちょっと待って下さい!その前に状況の説明を!」

「はいはい!そんなのは後でしてやるからさっさと逃げるぞ!」

 ロイドの実家で襲撃者達と戦った時と似た様な魔法を使って連中を部屋の中に閉じ込める事に成功した俺達は、脱兎の如く屋敷の外へと向かって行くのだった!

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