おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第551話

 翌日、大通りに向かっている途中でロイドと別れた俺達はその足で斡旋所に行って幾つかのクエストを受注すると今となっては倒し慣れてしまっているモンスター達を討伐する為に街を離れて少し歩いた所にある平原まで来ていた。

「よっと!……ふぅ、とりあえずこれで一通りのクエストは達成できたな。ソフィ、もうそろそろ満足してくれたか?」

「うん、今日の所はこれぐらいで大丈夫。」

「……その言い方は微妙に引っ掛かるが、そういう事ならさっさと帰るとするか。」

(ご主人様!その前にスマホ!私の新機能が解放されているかもしれないですから、しっかり確認して下さい!)

「はいはい、分かりましたよ……おっ、どうやら上手くいったみたいだぞ。」

 ポーチに入れてたスマホを取り出して久しぶりにスリープ機能を解除してみると、バックライトに照らされた画面にデカデカと新機能追加の文字が表示されていた。

「本当ですか!ちょっとよく見せて下さい!」

「うおっと!おいマホ!こんな所で出て来るんじゃねぇよ!誰かに見られでもしたらどうするんだよ!」

「何を言ってるんですかご主人様!こんな所に居るのは私達ぐらいのもんですよっ!それよりも早く次の画面にいって下さい!」

「……私も気になる。よく見せて。」

「だぁもう!2人して引っ付いて来るなっての!ちゃんと見せてやるから、ほら。」

 どれぐらいぶりか分からない妖精姿のマホとソフィに合わせて少しだけ膝を曲げた俺は、スマホに表示された新機能の文字をタッチして次の画面を表示させた。

「えっと、どれどれ………お、おぉっ!凄いですよご主人様!いよいよ私にも魔法を使える時がやってきましたよ!」

「あぁ、どうやらそうみたいだな……」

 マホに追加された新機能……それはスマホに補充されている魔力を使ってサポート妖精であるマホが魔法を扱う事が出来るという内容だった。

 ……って言うか、こういうのってデフォルトで備わってないとおかしくねぇかな?なんて野暮は事を喜びまくっているマホに伝えられる訳もなく、俺はその言葉を心の中にグッと仕舞い込むのだった。

「マホ、試しに何かやってみせて。」

「えっ!い、良いんですか?」

「いや、良いも何も確かめるなら今しか無くないか?それに魔法を使ったらどの程度スマホにある魔力が減るのかも調べないといけないからな。」

「あっ、そうですよね!分かりました。それじゃあいきますよぉ~……えいっ!」

 マホが掛け声と共に両手を目の前に付き出した次の瞬間、小さな魔方陣が出現してそこからちょっとだけ勢いの良い水が発射されていった。

「こ、これが……私の新たなる力……!」

「お~い、どこぞの患者みたいな台詞を言ってるんじゃないぞ~……って、それより魔力の方は………なるほど、そこまで大きく減少してないみたいだな。」

「はい!私としてもそこまで力を失った感覚はありませんっ!……ただ、体を大きくしている時に使うとどうなるのかは気になりますね……」

「あぁ、けどそれについては調べなくても問題無いだろ。どうせ危ない戦闘にお前を参加させるつもりはないからな。」

「うん、マホの事は私達が護ってみせる。」

「えへへ……ありがとうございます!でも、このまま新しい機能を埋もれさせるのは勿体ない気がしちゃうんですよねぇ。」

「……そんなに期待した視線を向けられても困るんだが……まぁ、その妖精時の体で魔法が使えるんなら何かしらの有効活用は出来るだろ。」

「そうですよね!それにこれからは魔力を使って遊ぶ事が出来る物も扱える様になるはずですから、今後の旅行がとっても楽しみです!」

「良かったね、マホ。」

「はい!っと、そろそろ私はスマホの中に戻りますね!ご主人様、ソフィさん!帰る時も油断せずに気を付けて下さいね!」

 マホは満面の笑みを浮かべながらそう言い残すと、ひらひらと飛び回った後に俺が手にしているスマホに吸い込まれる様にして入っていくのだった。

 その様子を確認してからスマホをポーチに仕舞い込んだ俺は、こっちをジッと見てきているソフィと視線を合わせた。

「さてと、そんじゃあ俺達も街に帰るとするか?」

「うん、このまま外壁をぐるっと回って帰ろう。」

「……あの、それだとかなり遠回りになるんですけど……あぁはい、分かりました。黙ってついて行かせてもらいます……」

 颯爽と歩き始めたソフィの背中を追いかけながらそっとため息を零した俺は、半周以上ある道のりで遭遇するであろうモンスターの事を思い浮かべながらガクッと肩を落とすのだった……

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