おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第529話

 かなりの力技ではあるが浴衣代を稼ぐ目途を立てられた次の日、夏季用の軽装備を身に纏《まと》って別荘を後にした俺達は斡旋所で正式な手続きを踏んでから神鳴の洞前までやって来ては……いたんだが……

「あの、ルゥナさん……やっぱり貴女は別荘に残ってた方が良かったんじゃ……」

「い、いいえ!今朝も言いましたがそういう訳にはいきません!生徒達が危ない事をすると言うのに、教師である私だけが安全な場所で帰りを待っているなんて出来る訳ないじゃないですか!」

「そ、それはまぁ……お気持ちは分からなくもないんですが……」

 明らかに使い込んでないと分かる魔法使い用の大きな杖と新品同然に見える防具を装備した状態で声を震わせながらそう言われてもなぁ……それに問題なのは彼女だけじゃなくて、後ろに居るもう一人の非戦闘員でもあるし……

「オレット、今更だとは思うが本当に僕達と来るつもりなのかい?」

「うん、勿論だよ!私には皆の格好良い姿をカメラに収める義務があるからね!」

「いや、そんな義務は1つもないだろ……と言うか、せめて自分の身を護る為の武器ぐらい持ってくるべきじゃなかったのか?」

「もう、何を言ってるのさエルアちゃん!私の武器はこのカメラだけなんだからね!そもそも私……あんまり戦闘実技の成績が良くないし……」

「ハァ……テメェ、マジでバカなんじゃねぇのか?そんなんでダンジョンに入るとか死にに行く様なもんだぞ?」

「うっ!そう言われると反論出来ないけど……でも、きっと大丈夫だよ!ほら、私の事は皆が護ってくれるからね!」

「ふむ、要するに自分は役に立たないから面倒事は我らに押し付けるという事か。」

「ひ、人聞きが悪いなぁクリフ君!そういう訳じゃなくて、私は後方から皆の援護をするんだよ!魔法ならある程度は上手に扱えるからね!」

「チッ、ある程度ぐらいなら一緒に来ねぇでいてくれた方が助かるんだが……」

「はい!もう何も聞こえません!ついて行くと決めたからには絶対に離れないもん!ほらほら、浴衣を買うお金を稼ぐ為に皆でがんばろー!」

「うふふ、主に頑張る事になるのは僕達だけなんですけどね。」

「あー!あーー!きーこーえーまーせーんー!」

「……何をしてるんだあいつ等は……」

「ちょっと九条さん!私の話を聞いているんですか!」

「あぁ、はいはい聞いています……」

 両耳を塞ぎながらしゃがみ込んだオレットさんを呆れながら見つめていると、目の前に居たフィオさんが背伸びをする感じでグイッと近づいて来たので俺は両手を上げながら2,3歩後ろに下がって行った……

「何度も言いますが浴衣の為とは言えこんなに危険な事は止めるべきなんですよっ!それなのに冒険者である九条さんが率先して皆をダンジョンに誘うだなんて……!」

「いや、俺が率先してた訳では無い様な………はい、すみません………乗り気じゃあなかったとは言えませんよね……申し訳ない……」

「そうですよ!ダンジョンがどれだけ危険な場所のかは知っているはずですよね!?そこに生徒達を連れて行くだなんて……私は今でも反対なんですからね!ですが……皆がどうしてもと言うので仕方なく!仕方なく行くんですよ!分かってますか!」

「はい……それはもう身に染みて……」

「もう……九条さん、絶対に生徒達を傷付けたりはしないと約束して下さい!もし、誰か1人でも命の危機を感じる様な事があればその時は……許しませんからね!」

「えぇ、分かってます。必ず護り通してみせます。勿論、ルゥナさんの事も。」

「っ!わ、私の事は良いんですよ!もう!」

「いえ、そういう訳にはっとと!?」

「うふふ、九条さん。そういう事なら僕の事も護り通して下さいね。」

「そ、そういう台詞はバカでかい斧を担ぎながらいう事じゃねぇだろうが!ってか、頼むから腕を絡めて密着してくんなよ!その、肌が当たってるだろうが!」

「それが何か問題ですか?僕達は男同士なんですから、恥ずかしがる必要なんて何処にも無いじゃないですか。」

「あ、あるだろ!特にお前はその……分かるだろ!?」

「うーん、どうでしょうか。ハッキリと言ってくれないと分かりません………もう、そんなに強引に引き剥がさなくても良いじゃないですかエルア先輩。」

「ひ、引き剥がすに決まっているだろ!これからダンジョンに挑むんだから、もっと緊張感を持つんだ!気を抜いていると大怪我をする事になるんだからね!」

「うふふ、僕としてはそれもそれでアリかなって思いますけどね。そうなればきっと九条さんが付きっきりで看病してくれるでしょうから。」

「き、君って奴は……!」

「オイコラ、くだらねぇ事をくっちゃべってねぇでそろそろ気合を入れなおせよ。」

「うむ、これから先は戦場だ。何時までもお喋りをしている時間は無いだろう。」

「そ、それはそうかもしれないけど……フィオ、分かっているだろうね?」

「はぁい、気を付けます。」

「うんうん、皆が仲良くなったみたいでお姉さんは嬉しいですよ!」

「オレットさん……それはどういう立場の発言なんだよ……まぁ良いや、それよりもダンジョンに入る為に軽く隊列の確認をしておくぞ。まず先頭は俺と……」

「あいよ……理解しているとは思うがオレの邪魔だけはすんなよ?」

「そんな危ない真似をするつもりは最初からねぇよ……そんじゃあ次に後方で援護と護衛を担当する……」

「ふっ、我らの事だな。」

「うふふ、どんな相手でも真っ二つに斬り裂いてみせますよ。」

「任せて下さい!モンスターの攻撃は全て防ぎます!」

「おう、頼んだぞ。最後に真ん中で俺達に護られる……」

「皆さん!よろしくお願いしますね!」

「わ、私は護られる側ではなくて護る側です!そこを忘れないで下さい!」

「りょ、了解しました……それでは確認も終わった事ですし、ダンジョンの中に足を踏み入れるとしましょうか。」

 腰にぶら下げた鞘から紅黒いブレードを引き抜いて皆と視線を交わすと、鳴き声に似た何かが鳴り響く洞窟の中に入って行くのだった。

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