おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第528話

「花火大会……ですか?」

「はい、それで着ていく浴衣を買おうかって話になったんですけどやっぱりこっちで勝手に選ぶのもどうかと思いまして……」

 別荘に戻って晩飯を食べ終えてからしばらくした後、俺はエルアやイリスと会った後の流れをルゥナさんに説明しながらリビングに集まっている皆に聞かせていた。

「そうだったんですか……すみません、お気を遣わせてしまったみたいで……」

「いえ、別に謝られる事じゃありませんよ。それよりも花火大会の件なんですが……どうでしょうか?開催されるのもクアウォートを去る前日で丁度良いですし、旅行の思い出作りとして参加してみませんか?」

「えぇ、それについては賛成なんですけど……浴衣ですか……」

「あー……あんまり着たくない感じですかね?」

「い、いえ!そういう訳ではないんすけど……その……やはり自分好みの物を探すとなると時間的な事もありますし、それに予算的な問題も……」

「まぁ、昨日のクエストで稼いだ我らとは違って先生や他の皆は当初の予算しか持ち合わせていないだろうからな。浴衣となるとそれなりに値も張るだろうから、予算を不安に思うのも無理あるまい。」

「それに妥協して着たくもない浴衣を買いたくもないからねぇ。ってなると、開催日までの間に目当てとなる物が見つけられるかどうかが問題になってくるわよね。」

「うむ、わしらの分は九条が買ってくれるから良しとするが……」

「オイ、どうしてそこで俺の名前が出て来るんだ。」

「保護者として当然の責務じゃろうが。そんな事よりもじゃ……ルゥナやオレット、ジーナの分の浴衣についてはどうするつもりなんじゃ?」

「いや、どうするも何も……」

 レミの問いかけに言葉を濁した俺はチラッと3人の方へと視線を向けたんだが……うん、分かりやすく気まずそうな表情をしているな……

「あ、あはは……旅行の為にそれなりにお小遣いを持ってはきていたんですけど……旅行の魔力と言いますか……興味を惹かれる物が多かったと言いますか……」

「確かにオレットの荷物は日に日に増えていたんだっけ……あっ、でもジーナさんは九条さん達とクエストに行ったからお金には余裕がありますよね?」

「え、えへへへ……実はその……街をぶらぶら~っと歩いてたら滅多に手に入らないレア物の素材がとんでもないお手頃価格で売ってたものですから……ね?」

「ね?ってまさか……もう無くなったって言うのか……?あんだけ稼いだのに……」

「ぜ、全部は使ってないよ!うん、5割……な、なな……わり?」

「うふふ、それはほぼ使い切ったと言っても問題ないと思いますよ。」

「うぅ……私は悪くないもん……」

「はぁ……それじゃあえっと……ルゥナさんは……?」

「わ、私は無駄遣いはしていませんからね!ただその……クアウォートの旅行雑誌に載っていたお料理屋さんを巡っていたら結構な額を使ってしまっていて……」

「……要するに予算的にかなり厳しいと……」

「す、すみません……」

「いえ、折角の旅行なんですからご自分のやりたい事の為にお金を使うのは全然悪くないんですけど……そうなると、やっぱり浴衣を買うのは難しそうですよね。」

「はい……」

「そうですよねぇ……さて、どうしたもんか……」

 流石に3人分……じゃなくて、5人分の浴衣を用意するには昨日稼いだ分だけじゃ絶対に足りないしなぁ……まぁ、金があったとしてもルゥナさんが何の遠慮もせずに浴衣を受け取るとはどうしても思えねぇし……

 なんて事を考えながら沈黙の流れるリビングで静かに唸り声を上げていると、急にフィオがニヤッと微笑みだしてわざとらしくため息を零し始めた?

「ハッ、別に悩む事なんて1つもねぇだろうが。要は浴衣を買う金を手に入れりゃあ良いんだろ?しかも早い内に。」

「そうだけど……何だ、良い案でもあるって言うのかよ?」

「あぁ、とびっきり良い案があるぜ。金も稼げし経験値まで稼げちまうとびっきりの案がなぁ……」

「えっ?フィオさん、まさかそれって……」

「おっ、分かっちまったか先生?そうだ、手っ取り早く稼ぐならそれが一番だろ?」

 その一言でフィオの考えを理解してしまった俺は、テーブル上で頬杖を突きながらこの後の流れに乗っかるべきかどうかについて考え始めていた。

「ダ、ダメですよ!そんな……花火大会に着ていく浴衣を購入する為にダンジョンに挑むだなんて危険すぎます!」

「いや、そうは言うけど金を稼ぐんならダンジョンが一番だと思うぜ。クエストだと報酬額も安定しねぇし、目当てのモンスターを討伐出来るかも分かんねぇしな。」

「そ、それはそうですけど……でも、ダンジョンも既に他の冒険者の方に荒らされた後かもしれませんよ!」

「あぁ、それについては問題ねぇよ。今日、斡旋所に寄って色々と聞いてきたが内部構造が変化した後にダンジョンに挑んだ冒険者は居ないらしいぜ。」

「おっ、それならば中にあるお宝も取られていない可能性がありますね!」

「うんうん!それにダンジョン内に出現するモンスターは外に居る奴よりも手に入る素材の質が良いからね!かなり高値で売れると思うよ!」

「オレットさん!それにジーナさんもフィオさんの話に乗り気にならないで下さい!誰も挑んでいないという事は沢山の危険が残っているという事なんですよ!」

「ふーん、それだったら丁度良い奴が居るじゃないの。現役の冒険者で何度も危険なダンジョンに挑んでいる奴がね。そうでしょ、九条。」

「……まぁ、そうだな。」

「く、九条さん?!まさか貴方もダンジョンに行く気になっているんじゃ……?」

「……時間的な事を考えると、明日すぐにでも挑んだ方が良さそうだな。」

「な、なっ!?」

「ヘッ、分かってんじゃねぇか!よしっ、そうと決まれば早速……」

「ま、待って下さい!勝手に話を進めないで……あぁ、もう!」

 その後、ダンジョン行きを必死に止めようとしてくるルゥナさんを受け流しながら俺達は具体的な作戦を決めて行く事にするのだった。

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