おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第497話

 暗雲に覆われた空を見上げて雨が降り出さないか不安に思いながら予定されていた時刻通りに到着した馬車から降りて行ったその直後、急いで家に帰ろうと考えていた俺達の方に久しぶりに顔を見た少女がゆっくりと歩み寄って来た。

「皆様、お帰りなさいませ。王都でのクエスト活動お疲れ様でございました。」

「おや、リリアじゃないか。どうしたんだい、こんな時間にこんな所で?もしかして私達の帰りを待っていてくれたのかな?」

「……はい、実はロイド様に少々ご相談したい事がございまして……お疲れだという事は充分に理解しておりますが、私にお時間を頂けないでしょうか?」

「あぁ、別に構わないよ。だがすまない、見ての通り荷物を抱えていてね。話を聞くのは家に戻ってからという事で大丈夫かな?」

「えぇ、勿論ですわ。それでは私もご一緒に……」

「ロイド、荷物なら俺が運んでおくからリリアさんの話を聞いて来いよ。」

「おや、良いのかい?」

「おう、そのついでに晩飯でも食ってきたらどうだ?今なら丁度良い時間だろ。」

「ふむ……それもそうだね。分かった、荷物の方は任せるよ。」

「九条様、お気遣い感謝致します。」

「いやいや、これぐらいお礼を言われる事じゃないって。それよりもほら、さっさと行かないと雨が降り出すかもしれないぞ。」

「はい、そうですわね。それではロイド様、こちらへ。」

「うん。皆、また後でね。」

「はいよ。」

 ロイドの荷物を預かって大通りの方に向かって歩いて行った2人の後姿をしばらく見送っていると、マホがピョコピョコっと目の前にやって来た。

「おじさん、リリアさんのお話って何でしょうかね?」

「さぁな……ロイドだけに相談したいって事だったから、家絡みの事じゃないか?」

「うーん……あっ、もしかしてお見合い話が来ているって相談でしょうか!それで、どうしたら良いのか悩んでいるとか!」

「いやぁ、ロイド一筋のリリアさんがそんな事で悩むと思うか?どう考えても、断るのが結果として見えてるじゃねぇか。」

「……まぁ、やっぱりそうですよね。だとしたら他に考えられる相談内容は……」

「マホ、余計な詮索はしないでよろしい。それよりも雨が降り出す前にさっさと家に帰るぞ……っと、そう言えば晩飯の材料って残ってたっけ?」

「どうでしたかねぇ……とりあえず見てみて無かったら買い出しですね。」

「……だな。あー……腹減った……」

 こんな事なら俺達も大通りに行って晩飯を済ませれば良かったな……そんな、今更すぎる後悔をしながら荷物を持ち直した俺は家路を歩き始めるのだった。

 ……俺はそれと同時にリリアさんの相談事が次なるイベントに繋がる事が無い様に知り合いの神様の顔を思い浮かべながら静かに祈り続けていた。

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