おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第492話

 まさかの事態に頭の中が完全にフリーズしてしまい身動きが取れずにいると、俺の隣を通り過ぎる様にして部屋の中に足を踏み入れたヤン子が両手の指を鳴らしながらこっちを見ながら穏やかに笑っている学園長を睨みつけ始めた……!

「まさか、アンタがこの騒動を引き起こしてる犯人だったとはなぁ……オイ、覚悟は出来てるんだろうな?」

「おや?何やら怒っているようですが……えぇと、私が何かしましたかな?」

「とぼけんじゃねぇ!人形共を使ってオレ達に攻撃を仕掛けて来やがっただろうが!まさかとは思うが、身に覚えがねぇとか言うんじゃねぇだろうな!」

「こ、攻撃ですと……?確かに戦闘訓練用のダミー人形の仕組みを操作して学園内を動き回らせていた事は認めますが、その様な危険な行為をする設定には……」

「ハッ!そんな言い訳を聞くつもりはねぇんだよ!このオレに喧嘩を吹っ掛けた事、あの世で後悔しやがれッ!」

「ま、待て待て!落ち着けフィオ!な、何だか話の流れがおかしいぞ!?」

「アァ!?おかしいのはテメェだろうが!オレ達を襲って来た敵が目の前に居るのにどうして止めやがるんだ!オラ離しやがれ!すぐにぶっ飛ばしてやる!」

「だ、だから少し冷静になれって!ルゥナさん!固まってないで手伝って下さい!」

「……はっ!あっ、わ、分かりました!」

「……いやはや……これは一体……どういう事ですかな?」

 首を傾げた学園長が戸惑いの表情を浮かべている中、俺とルゥナさんは臨戦態勢になってしまったヤン子を必死に引き留めるのだった!

 ……それからしばらくして、どうにかこうにか話し合いが出来る状態まで持ってくことが出来た俺は警戒心は抱きながら学園長と改めて向かい合うのだった。

「えっと……いまいち状況が呑み込めてないので幾つか確認させて欲しいんですが、人形を動かしていたのは……学園長で間違いは無いんですよね?」

「は、はい……」

「……分かりました。それじゃあ次の質問ですが、人形を使って俺達を襲って来てた訳では………無いんですよね?」

「えぇ、勿論です。大切な生徒、先生、そしてお客人を危険な目に遭わせるだなんてそんな事をするつもりは私にはありません。」

「そう、ですか……」

「オイ、騙されてんじゃねぇよ!コイツが人形共を使ってオレ達を襲って来やがった事は間違い様の無い事実じゃねぇか!」

「そ、それは誤解です!私はただ、ダミー人形を使用して皆さんを驚かせて欲しいと頼まれただけでして……」

「た、頼まれた……ですか?あの、誰がそんな事をお頼みになったんですか?」

 困惑した様子のルゥナさんがそう尋ねると学園長はふむぅ……と、唸り声をあげてしばらく口を閉ざしてしまい………

 ってか、マジで今回のイベントは何なんだ……?ボス戦が始まる様な気配も無い、だからってそれに代わる戦闘も起こりそうに無いし……まさかとは思うけど、今回のイベントって……

「……分かりました。ここに至っては皆さんにきちんと説明しておいた方が良いかもしれませんね……オレットさんには申し訳ありませんが。」

「オ……オレット……さん?」

「ど、どうしてそこで彼女の名前が……?」

「……あっ。」

 学園長がオレットさんの名前を告げてから数秒後、俺の頭の中にこの騒動の真相が少しずつ形となり始めて……!

「事の発端は数日程前……オレットさんが私を訪ねて来た所から始まります。彼女は王立学園にあると言われる七不思議を更に面白くする為、幾つか協力して欲しい事があると私に告げてきました。それが……」

「人形共を……動かすって事だってのか……?」

「……えぇ、その他にも七不思議に関わる場所にそれらしい事が起きる様に仕掛けを作りたいから手伝って欲しいと言ってきました。」

「普通にやったら……おかしな現象なんて起きるはずも無いからか……!」

「そういう事でしょうね……何も起きなければ記事として成り立たないと……彼女はそれはもう必死に頼み込んできました……その熱意に負け、私はこの日の為に色々と手を貸す事にしたのです。」

「……それってつまり、俺達以外の皆にも何かしらに巻き込まれていると?」

「はい、そうだと思いますよ。近寄ると鳴り始める楽器や瞳の動く人物画……その他にも様々な細工をしておきましたので。」

「う、嘘だろ……?つーか、たった数日でそんだけ仕掛けを施したってのか?」

「……こういう場合……流石と言うべきなのか……才能の無駄遣いと言うべきなのか悩みますね……」

「……私としては、2つめの意見に賛同してしまいます……」

「すみません……どうやら想定していた以上に驚かせてしまったみたいですね……」

「お、驚いたってか……マジで命の危険を感じましたよ……」

「ルゥナ先生に関してはマジで気を失っちまってたからな……」

「うぅ……学園長ぉ………」

「あぁ、本当に申し訳ありません……あの人形は学園内を徘徊して、動いている物を見つけると追跡して決して当たらない様に攻撃をする設定にしてあったんです……」

「……なるほど、だからあんなに動きが鈍かったのか。」

「……出来る事なら追跡ぐらいで止めといて欲しかったですね……すぐ近くの壁に、人形の腕がぶつかった瞬間はマジで心臓が止まるかと思いました……って、そうだ!学園長、人形の事は分かりましたけどこの部屋って一体何なんですか?」

「あっ!そう言えばそうですよね……どうして学園の中にこんな場所が隠される様に存在しているんですか?これもオレットさんに頼まれて……?」

「いえいえ!ここは私が学園長となった頃に作った私用の研究室ですよ。あの当時、私は学園の経営をしながら様々な研究を王国から依頼されていましてね……なるべく移動等の無駄を減らしたかったので極秘に準備したんです。」

「そ、そうだったんですか……けど、それがどうして七不思議の1つに?」

「ほっほっほ、それがはるか昔に鏡の仕掛けを解いた所を生徒の誰かに目撃をされてしまったらしくて……幸いな事にこの場所が見つかる事態にはなりませんでしたが、どうやら不可思議な噂として広まってしまったみたいですな。」

「はぁ……それが最終的に七不思議となった訳ですか……」

「えぇ、その様ですね。仕掛け自体は単純な物なので何時かは暴かれてしまうかもと思っていたのですが、それがまさか今日だとは……ほっほっほ。」

「もう、笑い事じゃありませんよ……」

「おっと、申し訳ございません。」

「……そう言えば学園長、もう1つだけ聞かせて欲しいんですけどさっきから魔法が使えないのはどうして……?」

「あぁ、それは私が作動させた妨害装置のせいですね。」

「ぼ、妨害装置だと?」

「はい。学園内で魔法を使われて教室や廊下が壊されてしまっては大変ですからね。ちょっと待って下さい………はい、解除致しましたよ。」

 学園長は椅子から立ち上がってすぐ真後ろの壁にあったスイッチをパチッと押してこっちに振り返って来た……その姿を見てすぐ後、俺は恐る恐る人差し指を口の中に入れて……おっ、魔法の水が出たっ!?

(ご、ご主人様!聞こえますか!私の声が届いてますか!!)

(うおっ!?い、いきなり大きな声を出すんじゃねぇよ!ビックリすんじゃねぇか!)

(ご、ご主人様!!よ、よかっだぁ~!!)

(九条さん!今は何処に居るんだ!)

(助けに行く、場所を教えて……!)

(い、いやそんなに慌てなくても大丈夫だから!少し落ち着けって!なっ!)

(お、おちづける訳が無いじゃないですかぁ~!ず、ずっと声を掛けてるのに返事がなぐっで……ほんどうにじんばいじだんですからぁ~!!)

(あぁもう、そんなに泣くなっての!すぐに戻るからちょっと待ってろ!)

(絶対ですよ!絶対すぐに戻って来て下さいよ!!)

(はいはい分かったよ!……ロイド、ソフィ、そっちにオレットさんは居るか?)

(あぁ、居るけど……それがどうしたんだい?)

(よしっ、そんじゃあ逃げない様に縛り上げておいてくれ。何ならドクターに任せて好き放題させちまっても構わない。)

(えっ、何故そんな事を……?)

(事情は後で説明する。とりあえず今は逃げない様に注意しておいてくれ。)

(……了解した。言われた通りにしておく早く戻って来てくれるかい。)

(……待ってる。)

(はいよ、また後でな。)

 脳内で皆と会話をしている間にルゥナさんとヤン子も色々と聞き終わったらしく、部屋の中にゆるやか~な空気が漂い始めた。

「さて、それではそろそろお戻りになった方がよろしいのではないですか。」

「えぇ、すみませんがそうさせてもらいます。」

「………」

「フィオさん、分かってますよね。」

「……あぁ、一緒に保健室へ行けば良いんだろ。」

「はい、その通りです。それでは学園長、私達はこれで失礼させて頂きますけど……あの、人形の方はどうした良いでしょうか?」

「ほっほっほ、心配には及びませんよ。皆さんがこの場所へ入った瞬間に元の場所へ戻る様にしてありますからね。」

「そうですか……学園長、生徒の為とは言えもうこういった事はしないで下さいね。私、本当に驚いてしまったんですから。」

「えぇ、そうします。それでは皆さん、本日はお疲れ様でした。」

 こうして俺達はにこやかに微笑んでいる学園長に見送られながら、秘密の研究室を後にして保健室まで戻って行くのだった……

「あっ!いや!ご、ごめんなさい!決して悪気があった訳では無いんです!これには海よりもふか~い事情があって……お、おたすけえええええ!!!!!!」

 ……オレットさん?うん、まぁ……とりあえずドクターの所に一晩預けるって事で今回の件は勘弁してあげる事にした。いやぁ、俺達って優しいな!

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