おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第487話

「ハッ、そんな子供騙しにもならない話を確かめる為だけに学園に侵入して来るとかマジでバカなんじゃねぇのか?」

「だ、だから侵入して来た訳じゃなくて許可は取ってあるって言ってんだろ!いや、それよりも……そっちこそどうしてこんな時間にこんな所に居るんだよ!?」

「っせぇな、テメェには関係ねぇだろうが!」

「……フィオさん、九条さんに関係なくとも先生には報告する義務がありますよね。こんな夜も更けた時間に学園に居る理由……きちんと説明して下さい。」

「……そ、れは……」

 さっきまで恐怖で呆然としていた人物とは思えないぐらい真剣な表情を浮かべてるルゥナさんにジッと見つめられたヤン子は、言葉を詰まらせて気まずそうに俺達から視線を逸らすとそのまま黙り込んでしまった。

「……言いたくありませんか?」

「そういう訳じゃ……ねぇけど………」

「……あぁ、はいはい。邪魔者は話が聞こえない様に廊下に行ってますよ。」

 チラッとこっちを見てきたヤン子の表情で大体の事を察した俺は、軽く手を振って2人に背を向けるとさっき通って来た扉に手を掛け教室の外に出て行った。

 ……不気味な雨音が鳴り響く廊下で1人っきりになった事を後悔してから数分後、ランタンの明かりを頼りにビビりながら周囲を警戒しているとルゥナさんとヤン子が一緒になって俺の目の前に姿を現した。

「九条さん、お気遣いして頂いてありがとうございました。」

「いえいえ……それで、どうしてここに居たのか理由は聞けましたか?」

「はい、九条さんにお話する事は出来ませんけれど彼女がどうしてここに居るのかはきちんと教えて貰いました。」

「そうですか……」

「……何だよ。」

「いや、別に……さてと、それじゃあこれからどうしましょうか?」

「うーん……このまま彼女を連れて七不思議の調査を続ける訳にもいきませんので、すみませんが保健室に戻ってもよろしいでしょうか?」

「なぁルゥナ先生、さっきも言ったがオレの事なら別にほっといてくれても……」

「いいえ、そういう訳にはいきません。フィオさんは私達と違って許可を得てここに居る訳ではないんですから、これ以上は勝手に行動させる事は出来ません。」

「……ハァ……分かったよ。一緒に保健室に行けば良いんだろ。」

「はい、分かってくれて嬉しいです。どうもありがとうございます。」

「チッ、どうしてルゥナ先生がお礼を言うんだよ……」

「うふふ、フィオさんが心の優しい子でとっても嬉しいからですよ。」

「は、はぁ!?いきなり何言ってんだよ!そんな事あるはずねぇだろ!」

「そうでしょうか?私はずぅっと思っていましたよ。」

「~っ!!」

 おぉ!ルゥナさん、マジですげぇな!たった一言でヤン子を照れさせやがったぞ!メチャクチャ絡まれた俺からしたらちょっと意味が分からないけど……うん!まぁ、とりあえず話が一段落したみたいだから良しとしておこう!

「さて、それでは急いで保健室に戻りましょうか。」

「えぇ、そうですね……ただ、任されていたもう1つの七不思議は結局調べられずに終わってしまいそうですね。」

「はい……それについてはオレットさんに謝るしかありませんね。」

「ですね……」

 困った様に微笑むオレットさんに合わせて肩をすくめて一瞬だけヤン子の方を見た俺は、ここまで上がって来た階段のある方に向かってゆっくり歩き始めて……すぐに足を止めてしまうのだった……

「九条さん?急に立ち止まったりしてどうかなさったんですか?」

「………何か………聞こえませんか?」

「えっ?またまたぁ、そんな冗談ばっかり言って私の事を怖がらせようとしても無駄ですからね。ほら、そんな事ばかり言ってないで早く保健室に行きます……よ……」

 コツ……ゴッ、コツ………カラカラカラ………硬い物がぶつかる音……金属の様な物が引きずられている音………その音が間違いなく廊下に響き渡った次の瞬間、俺のすぐ隣に来たルゥナさんは足を止めて……ヤン子も俺達の背後で立ち止まった……

「……オイ、この音は何なんだ?一緒に来てる連中が何かしてやがるのか。」

「わ、分かんねぇよ!そもそもこの階の近くには誰も居ないはずだし……」

「ふ、2人共……お、音が少しずつ近づいて来ていますよ……!」

 声を震わせて今にも泣き出してしまいそうなルゥナさんに腕を掴まれながら視線の先に広がる薄暗い闇をジッと見つめていると、不気味に鳴り響いていた音がどんどん大きくなってきて……

「っ!?」

「ひぅっ!」

「……どうして……アレがここに……?」

 頼りにならないランタンの明かりに照らし出され俺達の目の前に姿を現した物……それは……等身大サイズの……人形……だった?

「な、何なんだよアレは……」

「……戦闘訓練用のダミー人形だ……」

「はっ?なんじゃそりゃって……うおっ!?ちょ、ちょっとルゥナさん!?」

「…………」

「チッ、どうやら気絶しちまったみたいだな。」

「うぇえええええっ!?こ、こんな状況で気絶ってマジかよ!?」

「オイ、どさくさに紛れてルゥナ先生に何かしやがったら……!」

「そんな事しないわ!つーか、今はそれ所じゃねぇだろうが!あ、あの戦闘訓練用のダミー人形とか言うやつ!どうしてこんな所に居やがるんだよ!?」

「そんなのオレが知る訳ねぇだろうが。そもそも、アレは訓練所に置いてあるはずの代物で勝手に動くはずもねぇ代物なんだからよ。」

「は、はぁ!?そ、それじゃあ何で……」

「だから知らねぇよ。ただ……どうやらあっちはヤル気みたいだぞ。」

「ヤ、ヤル気?って……おいおい……冗談だろ……?」

 金属が引きずられている音……その正体がダミー人形の手にあるブレードだと理解したその直後、俺の後ろに居たヤン子が勢いよく前方に飛び出しやがった!?

「先手必勝だオラァッ!!」

 豪快な叫び声をあげたヤン子に思いっきり殴り飛ばされたダミー人形はバラバラになりながら廊下の奥に転がって行くと、そのまま姿が見えなくなってしまった。

「え、えぇ………」

「……チッ、何時までそこでボーっとしてんだよ。さっさと保健室に行くぞ。」

「い、いやいやいや!ア、アレは?あの人形はどうすんだよ!」

「ハッ、そんなの俺の知ったこっちゃねぇよ。」

「お、おうふぅ………」

 あまりにも潔い台詞に思わず息を漏らす事しか出来なかった俺は、こっちを睨んできているヤン子と目を合わせない様に彼女の背後に視線をっ!?

「まさか……冗談だろ……!?」

「アッ?……っ!?」

 バラバラにされたパーツを無理やり元に戻したかの様な人形……だけならまだしも更に数体の人形が様々な武器を持って闇の向こう側から姿を現したのを目の当たりにした俺は、ルゥナさんを担ぎ上げるとヤン子の方を見た!

「おい、逃げるぞ!」

「ハァッ!?逃げるって……あんな奴ら一気に蹴散らして!」

「アホか!あっちは武器持ちでこっちは何も持って無いんだぞ!それにルゥナさんを危険な目に遭わせる訳にいかないだろうが!」

「……チッ!分かったよ!」

 何処かのホラーゲームに登場しそうな動きをしながらゆっくり近づいて来る人形に背を向けて走り出した俺達は、逃げ場所を求めてひたすら走り続けるのだった……!

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