第463話

「うふふ、私の顔を見るなり逃げ出すだなんて……九条さんったらそんなに恥ずかしがらなくても良いじゃない。私達の仲なんだ・か・ら。」

「ちょっ！？体を擦り寄せて来ないで下さいお願いですから！つーか、どうしてこの場所にドクターが居るんですか？！」

「うーん、それには色々と事情があってね…‥まぁ、そんな事よりも今は私達２人が出会えた奇跡に乾杯しましょ？」

「ド、ドクターさん！学園内でお酒はダメでひぅっ！？」

「はぁ～……やっぱりルゥナちゃんの抱きしめ心地は最高ねぇ……特にこの柔らかい所の何とも言えない感触が……たまらないわねっ！」

「ひゃ、ひゃめてくだひゃ～い！」

　脱兎のごとく走り出してから数秒後、ソフィに呆気なく捕まってしまった俺は皆と一緒にまさかの人物が待ち受けていた保健室に足を踏み入れたんだが……本当に……何でドクターが保健室で先生なんてやってんだよ！？

「ふぅ……ありがとうねルゥナちゃん、貴女のおかげで溜まっていた疲れが何処かへ吹き飛んで行ったわ。」

「う、うぅ～……疲れをどうにかするのなら他の方法にして下さいよぉ……」

　思いっきり抱きしめられて体中をまさぐられていたルゥナさんが床の上に座り込みながらそう告げると、ドクターはうふっと笑みを浮かべて彼女の事を見下ろして……

「考えておくわ。」

「もう、そう言って何度目ですかぁ……」

「うふふ、ごめんなさい。はい、お水をどうぞ。」

「あぁ、ありがとうございます……」

「どういたしまして。それじゃあ改めて……今学期から王立学園で保健医をしているドクターです。ミアちゃんとナインティアの皆さん、よろしくお願いしますね。」

「はい、よろしくお願い致します。それにしても驚きましたよ、新しく赴任してきた保健室の先生と皆さんがお知り合いだったなんて。」

「ふふっ、それは私達もだよ。まさか王立学園でドクターとまた会えるなんて思いもしていなかったからね。」

「そうですよね……ドクターさん、ファントリアスの方は大丈夫なんですか？」

「えぇ、あの街には私以外にもお医者さんはいるからね。それに……ここに来たのは私の意志でもあるのよ。」

「そりゃまた……一体どんな目的が？まさか、運命の人を探す為……みたいな事じゃないでしょうね……」

「うふふ、その必要は無いわよ。だって運命の人なら……ね？」

「いや、ね？って言われても困るんですが……つーか、それならどうして……」

「そうねぇ、１から話すと長くなるから簡単に要約しちゃうけど……私が王立学園に来た目的は魔人種と言う種族をもっと身近に感じてもらう為……かしらね。」

「……魔人種？それは確か、先程マホさんが仰っていたファントリアスに数多く居るという……あの？」

「えぇ、ミアちゃんの言う通りよ。私はね、その彼らがこの世界にもっと認められて安心して暮らせる世界を作ってみたいの。その為には彼らについて今まで以上に皆に知ってもらう必要があると思ったから、手始めとしてここに来たって訳ね。」

「……ドクターさん……」

「ふふっ、やはり貴女は凄い人ですね。素直に尊敬しますよ。」

「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ。」

　……色々とハチャメチャな人ではあるが誰かの為に行動する事が出来るドクターを少しだけ尊敬した……と……さっきまでは思ってたんだがなぁ……！

「は、離れて……下さい……！」

「もう、イジワルしないでちょうだいよぉ！折角、こうして運命の再会を果たせたんだからもっと私達の仲を深めていきましょう？ねっ？」

「ドクターの仲の深め方は急すぎるんですよっ！あぁもう、さっきまで真面目だったのにどうしてすぐにこうなるんですか！？」

「だってぇ、最近はずっと仕事続きで心の潤いが足りてなかったのよ！ほらほらぁ、ルゥナちゃんも一緒にどう？九条さん、ガッシリとしていてたくましいわよ？」

「な、何を言ってるんですか！？そ、そんなエッチな事は出来ませんよ！」

「うふふ、顔を真っ赤にしちゃって可愛いわねぇ～それじゃあ次は……」

「ひぅっ！あ、あのあの！私はこれでしちゅれいしまぁ！」

「ダ～メ、逃がさないわよ～！」

「だぁっは！俺に抱き着いたままルゥナさんを引き寄せないで下さいマジでっ！」

「ひゃわぁ～！」

「……これ、どう収集を付けたら良いのでしょうか？」

「ふふっ、とりあえず落ち着くまで見ているとしようじゃないか。」

「……楽しそう。」

「ソフィさん、ダメですからね……！」

　ファントリアスで会った時以上にぶっ飛んでいるドクターにしばらく翻弄されたりしながら保健室を後にした俺は、とてつもない疲労感を抱きながら学園長室に向かう為に長ったらしい階段を上がって行くのだった……