おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第449話

 前日から引き続き雨が降っている中、街外れの湿地帯までやって来た俺達は何度か戦闘を行って斡旋所で受注した厄介なモンスターの討伐クエストを軽々と達成すると最終工程である納品作業に手を付け始めたんだが……

「はぁ……まさかぬかるんだ地面に足を取られて転んじまうとは……最悪だ……」

「ふふっ、とりあえず大きな怪我を負ったりはしなかったんだからそんなに落ち込む必要は無いと思うよ。」

「うん、雨具はボロボロになったけど大丈夫。」

「いや、俺にとってはそれが一番の問題なんだが……」

 たった1日でこの惨状は流石にマズすぎるだろ……家に帰ってマホに見られたら、絶対に怒られる……あぁもう、だからクエストを受けるんなら晴れた日にしようって言ったのにさぁ……なーんて言い訳した所で自業自得な事に変わりは無いんだが……

「九条さん。ため息を零したくなる気持ちは分かるけれど、早くしなければ討伐したモンスターの体が雨に流されて消えてしまうよ。」

「ヤバッ、そう言えばそうだった!悪い、さっさと取り掛かっちまおう!」

「了解。」

 ロイドの指摘を聞いてハッと顔を上げた俺は、せめて雨具の代金分ぐらいは回収をしようと考えて溶け出しているモンスターの体を急いで納品していった!

 つーか倒された瞬間から脆くなりすぎじゃないですかね?!俺に向かってあんなに頑丈な泥だんごをぶつけてきやがった癖にマジでどんな仕組みになってんだよ!?

 何て事を心の中で愚痴りながらしばらく作業に没頭した後、俺は泥だらけになって濡れた上に冷たくなった尻を軽く叩きつつ腰を伸ばして2人が居る方に振り返った。

「ふぅ……こっちは何とか終わったぞ。そっちはどんな感じだ?」

「あぁ、少しばかり雨に流されてしまった所もあるがこっちも終わったよ。」

「同じく。」

「そうか。よしっ、そんじゃあ新手が出現しちまう前にさっさと街に帰るとする……って、そんな不服そうな顔をしながらこっちを見てきてもダメだからなソフィ。」

「……九条さん、折角ここまで来たんだからもう少し頑張ろう。」

「うんうん、やる気があるのは良い事だ……でも、お前のもう少しに付き合ってると陽が暮れちまうから却下だ!それに俺は早く泥を洗い流して風呂に入りたい!だから今日は諦めて帰るぞ!」

「……むぅ……それなら明日もクエストをやりたい。」

「あ、明日?……分かった、雨が降ってなかったら考えといてやるよ。」

「……約束。」

「はいはい……約束してやるからもう行くぞ……」

「うん。」

「ふふっ、九条さんは本当に私達に甘いよね。」

「……うっさい、ニヤニヤしながら余計な事を言うんじゃねぇ。」

「おっと、ごめんごめん。」

 こっちを向いてニコっと微笑みかけて来てから少し前を歩いているソフィと並んだロイドの後姿を見ながらため息を零した俺は、明日の天気が今日よりもマシになっている事を祈りながら街に戻って行くのだった。

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