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おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第384話

 ……薄ぼんやりとした明かりから隠れる様にして曲がり角に身を潜めていた俺は、廊下の先にある扉から出て来たやつれている男女を見ながら聞き耳を立てていた。

「カレン……大丈夫か?もうしばらく寝ていないんだろう?」

「うふふ……それはエリオさんもじゃないですか……」

「……バレていたのか。」

「えぇ……貴方の妻ですもの………それに、もう良いんです……明日にはもう……」

「そうか……」

「エリオさん……私とロイドちゃんが居なくなっても……この街の為に……」

「……いいや、そうはいかないさ。私も、最期まで一緒に居るよ。」

「……う、うぅ………うぅぅ……どうして……あの子がこんな目に……」

「あぁ………そうだな………さぁ、今日はもう部屋に戻ろう……」

 涙を零すカレンさんと彼女に寄り添うようにして歩き出したエリオさんが見えなくなるまでその場にジッと隠れていた俺は、周囲を見渡して誰も居ない事を確認するとさっき2人が出て来た部屋の前に向かって行き扉を数回ノックした。

「……誰じゃ?」

 そんな返事が聞こえてきてからドアノブをゆっくり回した俺は、片手を上げながら部屋の中に足を踏み入れて行った。

「よぉ、しばらくぶりだなレミ。」

「お主……今まで何をしておったんじゃ?この1週間、ほとんど見舞いにも来ず屋敷にも立ち寄らんかったじゃろう。」

「あぁ、色々とやる事があってな……それよりも、ロイドの容体はどんな感じだ?」

「……見ての通りじゃよ。わしも全力を尽くし呪いを抑え込んでおったが、このままでは明日の日暮れと共にロイドは……」

「……そう、か……」

 悲痛な面持ちでそう告げられた俺は噛みしめる様にして返事をすると、レミの横に置かれていた椅子に腰を下ろしてベッドの上で浅い呼吸を繰り返しながら眠り続けている生気が失われてしまったロイドの姿を目に焼き付ける様にしてジッと見つめた。

「……それで九条、先ほども聞いたがお主は何をしておったんじゃ?ずっと見舞いに来ぬからマホが怒っておったぞ。」

「ははっ、そうか……俺が何をしてたのか教えてやっても良いんだが、その前に……レミ、お前に1つだけ聞きたい事がある。正直に答えてもらっても良いか。」

「ん?いきなりどうしたんじゃ?」

 眉をひそめながら小首を傾げているレミにそう尋ねられた俺は、真正面から彼女と目を合わせると………

「お前……ロイドに掛けられた呪いについて、俺達に隠してる事があるだろ。」

「…………何を、根拠にしてそう思うんじゃ。」

「……切っ掛けになったのはロイドが倒れたあの日、お前がマホにどうにかする事は出来ませんかと聞かれていた時だ。」

「………」

「お前、呪いを弱めて時間を稼ぐって言ったその後に妙な間があったよな。その時は何とも思わなかったが、しばらく経ってから少しだけ疑問に思ったんだよ。それで、どうしてなのか考えてちょっとした仮説を立ててみたんだ。」

「……その仮説とは?」

「お前が口ごもったのは、ロイドの呪いをどうにか出来る方法を持っているから……だがそれは、根本的な解決に繋がる様なものではなくて……呪いを他者に移し替えるっていう方法なんじゃないか……だからお前は俺達に伝えなかったって考えに至った訳なんだが……どうだ?この仮説は間違ってるか?それとも……」

 俺の話を最後まで聞いたレミは目を閉じてため息を吐き出すと、額を押さえながら呆れた感じの瞳で俺の事を見てきた。

「はぁ……妙な所でばかり勘の働く奴じゃのう……まさかそれだけの事で隠していた事がバレてしまうとは……」

「まぁまぁ、そんなに落ち込むなって……そんな事よりもさ、お前に相談したい……って言うか、頼みたい事があるんだが………」

「……ロイドの呪いをお主に移し替えろ……そう言いたいんじゃろ?」

「おぉ、レミも中々に勘が良いじゃねぇか。よく分かったな。」

「アホめ、ここまできたら誰でも分かるわ。まだ半年ぐらいの付き合いではあるが、それでもお主の事は理解してきているつもりじゃからな。」

「……ふっ、そりゃどうも。」

 それならそれで話は早い……って、そんなはず無いか……レミの顔、どう見たって俺の意見に賛成しているってもんじゃないからな……

「……九条よ、理解しておるのか?ロイドの呪いをお主に移し替えるという事は……最悪、数日もしない内に命を落とすという事じゃ……お主、恐ろしくは無いのか?」

「ははっ……怖いに決まってんだろ……?こうしようと決めた日からさ……少しでも気を抜いちまうと………ほら、こんな風に……手が震えてきちまうんだよ………」

「……それならば、何故?」

「……ぶっちゃけて言うとさ、俺だってこんな事はしたくねぇよ。隠されてた能力がある訳でも、真の力が眠っている訳でもねぇからな……目の前に救世主みたいな奴が現れてくれたら、泣いて、縋《すが》って、ロイドを助けてくれと頼み込みたいさ……でも、現実にそんな都合の良い展開は起こらない……だから……俺がやるんだよ。」

「……他の者にやらせようとは思わんのか?」

「そりゃそうだろよ……相手は世界を支配しようとした死神だぞ?そんな奴の相手を誰かに押し付けるなんて、小心者の俺には絶対に無理だからな。」

「……全く、顔を引きつらせておっては笑みを浮かべても格好がつかんぞ。」

「うっさい、言われなくても分かっとるわい………それよりもレミ……俺の頼み……聞いてくれるのか?」

「…………本当に、覚悟は出来ておるのか?お主には言っておらんかったが、呪いを移し替える技が使えるのは一度きりじゃ……それでも……良いのか?」

「あぁ……そんな事だろうとも予想してたしな……だから、やってくれ。」

「……………」

 レミは苦々しい表情を浮かべて俺から目線を逸らすとベッドで眠っているロイドをチラッと見つめて……急にポケットの中に手を入れるとソコから透明な液体が入っている小型のビンみたいな物を取り出して俺に手渡してきた……?

「えっと……コレは?」

「……わしが精製した高濃度の聖水じゃ。それを飲めば、呪いの力をある程度抑える事が出来るじゃろう……まぁ、効果は数時間ぐらいのもんじゃがな。」

「ふーん、なるほどね……こんな物を渡して来たって事は、俺の頼みを聞いてくれる気になったって意味だよな?」

「……心の底から了承した訳ではないがな。マホやソフィの事を考えると、この事を2人に伝えてお主を止めるべきじゃとも思っておる……じゃが、そんな事をしたとてお主は止まらぬじゃろう。なればこそ、ここはお主の願いを聞くしかあるまいよ。」

「おう、ありがとさん。それじゃあ早速……」

「待て、それを飲む前に幾つか確認しておきたい事がある。聖水を飲むのはその後にしてもらおうかのう。」

「ん?何だよ、確認したい事って言うのは。」

「うむ、まず最初に聞いておきたいんじゃが……お主、呪いを自分に移した後はどうするつもりなんじゃ?依然として、悪しき神の居場所は分かっておらぬぞ。」

「あぁ、それについてなんだが……レミ、それについて力を借りる事は出来ないか?もしかしたらって場所は特定してあるんだが、確証が無くてな……」

「……何とか出来ない事も無い。しかし、それをするには………」

「呪いの力を強める必要がある……そんな感じか?」

「……その通りじゃ。悪しき神の居場所を探ろうとすればそうしなければならぬ……じゃが、そんな事をすればどれだけの苦痛に襲われるか分らん……それでも、やると言うのか?」

「ふっ、当たり前だろ?……だからさ……お前の力、貸してくれ。」

「……分かった。お主が覚悟を決めておると言うのなら、もう何も言うまい。」

「……ありがとうな。」

「礼を言われる事ではないわ……それよりも九条、2つ目の質問になるんじゃが……まさかとは思うがお主……1人で悪しき神の所に乗り込むつもりではなかろうな?」

「……いや、勝手だとは承知しているが俺は1人で行く。」

「……本気か?相手がどれだけ危険か分かっておるのか?ここは1人ではなく大勢、もしくは実力者であるソフィやカームを連れて行くべきだとは思わんのか?」

「思わない……って言ったら嘘になるが……大勢で行った場合も、身近な奴に全てを打ち明けて一緒に行った場合も、どっちにしたって最悪な展開が待ち受けているって可能性があるんだよ。」

「むっ、なんじゃそれは?」

「うーん、例えばそうだな……大勢で行った場合、これは勝率が最も高いんだろうが死傷者の数も一番多くなる可能性が高い。そうなりゃ、ロイドは私のせいでっつって自分の事を責めるだろ……そんな展開、俺は耐えられそうも無いからこれは無し。」

「……では、身近な者に伝える方はどうなんじゃ?」

「そっちはそうだなぁ……2番目に勝率が高いって言えるとは思うけど……こっちはこっちで最悪の展開を迎える可能性がそれなりにあるんだよなぁ。例えば、目の前で殺されかけている仲間の為に誰かが身代わりになっちまう展開とかな……それもまたロイドが自分を責めるだろうし……何より、俺はそんな場面を絶対に見たくない。」

「……だから、1人で行くと言うのか?勝率が最も低く、命を落としてしまう確率が最も高いと言うのに……」

「あぁ……一番大事なのは、俺がロイドの悲しむ姿を見ないで済むって所だしさ。」

「……お主の考えはよく分かった……しかし、お主が戻らなかったその時もまた……ロイドは自分を責めると思うぞ。それにマホやソフィもな……」

「……その時はその時だよ。大丈夫、きっとあいつ等なら何とかなるさ。それに……この世界には希望が満ち溢れてるからな。俺が何も出来ないまま殺されたとしても、きっと主人公みたいな奴が颯爽と現れて何とかしてくれるはずだしな。」

「……バカ者め……そんな顔で笑うでないわ……」

「……悪い……」

 あーあ……俺の命に掛けて護ってやる!とか言うキャラクターの事を今までは何て無責任な奴なんだとかって思っていたはずなのに、まさか自分がその立場になるとは考えた事も無かったな……でも……うん、ようやく……少しだけ理解出来たな。

「さてと……それじゃあレミ、もうそろそろ始めてくれるか?」

「………本当に良いのか?」

「おう……いい加減に……この地獄を終わらせたいからな。」

「………了解した、それでは聖水を飲み干すのじゃ。」

「分かった……っ……ぷはぁ……うん、ただの水だな。本当に聖水なのかコレ?」

「失敬な、何を疑っておるんじゃ!……まぁ良い、かなりツラいとは思うがしばらくジッとしておれよ。」

 レミはそう言うと左手をロイドの首元にあるネックレスに、右手を俺の首元に向けながらゆっくりと目を閉じて………っ!?

「うっ……ぐっ……!」

「クソっ……!これが……呪いってやつか……!」

「九条、もうしばらく耐えるんじゃ!」

 心臓を貫かれる様な痛みに歯を食いしばって拳を強く握りしめながらしばらく辛抱していると、いつの間にか首元にネックレスが存在していて……

「はぁ……はぁ……はぁ………」

「大丈夫か、九条。気分はどうじゃ?」

「良い……とは言えないな、こりゃ……それで、ロイドの方は……?」

「安心せい、もう呪いの影響は受けぬじゃろう。」

「そ、そりゃ良かった……それじゃあレミ、早速で悪いが……」

「待つんじゃ九条……悪しき神の所、わしもついて行くからな。」

「はっ?お前、いきなり何を……?」

「わしの可愛い信者が死地へ赴こうとしているというのに、それを黙って見送る様な薄情な神に成り下がるつもりは無いからのう。もしわしを置いて行こうとすれば……ここでの事を皆に全て打ち明けるからそのつもりでな。」

「あ、あのなぁ……って言いたい所だが、お前に相談しようって決めた時点でこんな事になるんじゃないかと思ってたよ……」

「ふっふっふ、それはつまり……?」

「……一緒に行くぞ、ふざけた神様をぶった斬りにな。」

「うむ、そうこなくてはな!それでは悪しき神の所在を探るが……覚悟は良いな?」

「……あぁ、やってくれ。」

「分かった………ふっ!」

「うぐっ!がっ!はぁ……はぁ……はぁっ…‥‥!」

 全身を引き裂かれそうな痛みに襲われながらしばらく耐えていると、マホが首元にあるネックレスから手を放して俺の顔を心配そうに覗き込んで来た。

「九条、平気か?」

「……何とかな……それよりも、分かったのか?」

「うむ、お主のおかげでな……しかし、これは……」

「……思いのほか、近くに居やがったか?」

「っ!?九条、まさか……」

「さっきも言ったと思うが……ある程度の場所までは特定してあるからな……でも、お前のおかげでようやく確信に変わったよ……ありがとうな。」

「礼を言うにはまだ早いわ。それで、もう出発するのか?」

「あぁ……だがその前に…………レミ、これをロイドの首元に掛けてくれるか。」

「ん?……これは……!お主、どうしてこんな物を?」

 驚きの表情を浮かべているレミの手には、俺の首元にある物と見た目がそっくりなネックレスが握られていた……まぁ、俺が渡したんだけどな。

「決まってんだろ……契約の証とも言えるネックレスが無くなってたら、あいつ等に俺達の行動がバレちまう可能性があるからだよ……そうならない様に、代わりとなる物を用意しておいたって事だ……」

「はぁ……なるほどのう……」

「理解したか?それじゃあ、ロイドの首に……」

「いや、断る。」

「……はい?」

「ネックレスは、お主が自分の手で付けてやれば良い。」

「い、いやいや!それは流石にマズいだろうが!?もし誰かにその場面を見られでもしたら、俺がロイドを襲っているって誤解されちまうかもしれないだろ!」

「そうなったら、お主が覚悟を決めれば良いだけの話じゃ!ともかく、コレはお主が付けてやるんじゃな!」

「え、えぇ……こちとら呪いのせいでかなりキツイ状態なんですが……」

「それならさっさとせい!ほれ!」

「ちょっ、背中を押すなって!……ったく、どうして俺が……」

 ただでさえしんどいってのに、美少女であるロイドを至近距離で見ないといけないとかどんな拷問だよ……!

 ってな事を考えながらロイドに覆いかぶさる様にして近づいて行った俺は、生きた心地がしないながらも何とかネックレスを付ける事に成功して……!?

「…ぅ……くじょう………さん………」

「ロ、ロイド!?いや、あの、これは………え?」

 首の後ろに回していた手を引いて離れようとした瞬間、ロイドが弱々しい力で俺の手をそっと握ってきたが……どうやら意識がハッキリとしている訳じゃなくて……

「……おねがい………そばに………ひとりは………いや…………」

 うわ言の様にそんな事を繰り返し呟き続けているロイドの目からは涙がポロポロと溢れだしてきていて……俺は……そんな彼女の手をそっと握り返して……

「……大丈夫だロイド。俺は……俺達は何処にも行かないよ。最後まで……ずっと、お前の傍に居る……だから、今は安心して眠れ……な。」

「……………………」

 俺の言葉が届いたのかは分からないがロイドの全身から力が抜けていき……俺は、彼女の手をベッドの中に戻すとその場からゆっくり離れて行くのだった。

「……九条、すぐ破る約束はするものではないぞ。」

「ふっ、俺は悪い大人だから別に良いんだよ……そんじゃあ、行くとするか。」

「……うむ。それで、どうやって屋敷を抜け出すつもりなんじゃ?」

「いや、抜け出すつもりは無い。そんな事をしたら、あいつ等にバレて最悪な結末に繋がっちまう可能性があるからな。」

「……何じゃと?ソレでは一体どうするつもりなんじゃ?何か策があるのか?」

「あぁ、勿論。」

 ニヤッと口元に笑みを浮かべながらレミと目を合わせた俺は、全てに決着を付ける為に腹を括ると行動を始めるのだった。

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