おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第382話

 エリオさん、カレンさん、ロイドから少し離れた後方の辺りで皆と横並びになってしばらく待っていると、奥の方から派手な見た目をした馬車がこっちに向かって来て噴水の近くで速度を落として停車をした。

 そのすぐ後に御者が運転席から降りて来て側面にある扉をゆっくり開いていくと、馬車の中から貴族然とした格好のリーパー・アレクシスが姿を現した。

 奴は御者と少し言葉を交わしてから俺達の方に視線を送ってくると、穏やかそうに見える笑みを浮かべながらゆっくり歩み寄って来て優雅にお辞儀をしてきた。

「皆様、お初にお目にかかります。私の名はリーパー・アレクシスと申します。以後お見知りおきを。」

「あぁ、よろしく。私はロイド・ウィスリムだ。そして……」

「ロイドの父、エリオ・ウィスリムです。」

「母のカレン・ウィスリムと言います。」

「ご丁寧なご挨拶ありがとうございます。それと……この度は、皆様に対して幾つも失礼な物言いをしてしまい本当に申し訳ございませんでした。」

「………は?」

 突然の謝罪に思わず声が漏れ出てしまってから数秒後、困惑した空気の中で一早く動き出したのは……

「ふむ、失礼な物言いとは何の事なのか聞いても良いだろうか。」

「はい……それは勿論、ロイドさんのご家族やお仲間を脅すかの様な発言をした事についてです。」

「……それはつまり、自覚があってそういう事をしたんだと認めているのかい。」

「その通りです。ロイドさんへの想いが行き過ぎてしまい、ついあの様な言動を……本当に申し訳ございませんでした!」

 声を張り上げて土下座でもしそうな勢いで頭を下げるリーパー・アレクシスの姿を目の当たりにして思わず戸惑っていると、ロイドが奴の方にそっと手を置いた。

「リーパーさん、そんなにも私の事を想っていてくれたなんて嬉しい限りだよ。だが今回の件は、シッカリと反省してほしいな。皆、私にとって大切な人達だからね。」

「……はい。」

「ふふっ、分かってくれたのなら良かった。それでは顔を上げてくれるかい。折角のお見合いだ、何時までもこうしていて時間を無駄にする訳にはいかないだろう?」

「……えぇ、ありがとうございます。」

「いや、礼はいらないよ。それよりも中庭の方にでも行って改めて互いの事を知るとしようじゃないか。」

「はい、よろしくお願いします。それではエリオ様、カレン様、失礼致します。」

「……うむ。」

「……行ってらっしゃい。」

 2人に見送られながら揃って歩き出したロイドとリーパー・アレクシスが少しだけ離れた直後、俺とマホとソフィは少しだけ前に出てから皆と視線を交わした。

「それじゃあ、俺達も様子を見ながら後を追います。」

「……はい、よろしくお願いします。」

「何かあったら私もすぐに駆け付けますので、その時は大声で呼んで下さい。」

「えぇ、頼りにしてます。それではまた後で。」

「わ、分かりました……」

 さっきのやり取りを見たせいで不安そうな表情を浮かべている2人をカームさんに任せてその場を後にした俺達は、つかず離れずの距離感を保ちながら色々な話をしているロイドとリーパー・アレクシスのしばらく追いかけ続けていた。すると……

(……ご主人様、あの人って本当に悪い人なんですか?)

(……いきなりどうしたんだ?)

(いえ、さっきから楽しそうに笑っているロイドさんを見ていたら少しだけ、そんな疑問を抱いてしまって……だってあの2人、知らない人が見たらとってもお似合いの恋人同士って思いませんか?)

(……まぁ、それについては否定しないさ。)

 確かに絵本から飛び出してきたお姫様と王子様って言われてもおかしくないぐらいお似合いのカップルに見えるさ……でも、例えそうだとしても初めて会ったあの時のアイツの目……それが理由でどうしてもアイツを信用する事が出来ねぇんだよな……

(それにさっきのお話……リーパー・アレクシスさんは自分に関する黒い噂について知っていて、それについて思い当たる節があるって言っていましたよ?)

(……父親がそういった連中を紹介してきたってあの話か?自分はそういった奴らと繋がっちゃいないがソレが原因かもって言ってはいたが、それも本当かどうか……)

 相手に嘘を信じ込ませるのなら真実も織り交ぜた方が効果的だ……って、何処かの誰かが言ってた気がするからなぁ……それに確たる証拠が無いから警備隊に訴え出る事も出来なかったって……言い訳としちゃ随分と厳しくねぇか?

(うーん……私としてはそんなに疑ってあげなくても良いんじゃないかなぁ……とか思ったりしちゃうんですけどね。)

(……それならそれで良いんじゃねぇの?今はこの場を乗り切ってロイドを護るって事だけ考えるとしようぜ。)

(……それもそうですね!)

 頭の中で久しぶりにマホと会話をしていると屋敷の方からメイドさんがやって来てロイドとリーパー・アレクシスに近寄って行った。

「ロイド様、アレクシス様、ご昼食の準備が整いましたので食堂へどうぞ。」

「おや、もうそんな時間になっていたのか。」

「ははっ、お喋りに夢中になっていたせいで気が付きませんでした。」

「ふふっ、私もですよ。それでは、行くとしましょうか。」

「……よろしいんですか?」

「えぇ、勿論ですよ。」

「それならば、お言葉に甘えさせていただきます。」

 そんなやり取りをしながらメイドさんについて行く2人から離れない様にして屋敷まで戻り食堂にやって来た俺達は、数十分近く空腹に耐える事になるのだった……!

「どうですかアレクシスさん、お食事は口に合いましたか?」

「えぇ、とても美味しいです。」

「うふふ、それは良かったです。」

「あぁ、そうだね。」

(うぅ……ご主人様ぁ……お腹が空きました……)

(……美味しそう……私も食べたい……‥)

(が、我慢しなさい!俺だって辛いんだから!)

(皆、すまないね。彼が帰ったらとびきり美味しい食事を用意させるから、それまで辛抱していてくれ。)

(わ、分かりましたぁ………そう言えば、レミさんはどうしてるんでしょうか……?)

(ははは……アイツの事だ……今頃は昼飯をむさぼり食っている所だろうよ……)

(う、羨ましいですぅ……)

(あぁ……俺もだよ……)

(……つらい……)

 使用人の恰好をしているから皆と一緒に食事をする訳にもいかず、だからと言ってロイドの傍から離れる訳にもいかず………はぁ……しんどい………

  そんな事を思いながら腹が鳴らす音が周囲に聞こえないか心配していると、更に時間は過ぎていって……

 運ばれてきた料理が皿の上から無くなったのを見てようやくこの地獄ともおさらば出来るんだと心の中でガッツポーズをしていたその時、急にさっきまで微笑んでいたリーパー・アレクシス雰囲気が一変して真剣なものになり始めた……?

「ロイドさん……そろそろ、お返事を聞かせていただけないでしょうか。」

「おや、随分といきなりだね。」

「申し訳ございません。ですが、こういう事はあまり時間を掛けるものでは無いなと思っていますので……」

(い、いよいよですねご主人様!)

(……お前は何でそんなに緊張してるんだ?)

(だ、だって!もしかしたらって事があるかもしれないじゃないですか!)

(……ロイドが結婚を受け入れるって事?)

(そ、そうですよ!あんなに良い雰囲気だったんですよ!だとしたら……!)

(……それならそれで受け入れるしか無いだろ。アイツの人生なんだ、俺達が横から口を挟む事じゃない。)

(そ、それはそうかもですけどぉ……でもでも!)

(良いから、静かに見守ってろ。)

「ご結婚……いえ、婚約……それもダメならお付き合いからでも構いません。どうか考えてみてはもらえないでしょうか。」

「ふむ……1つ尋ねたいんだが、どうしてそこまで私と結婚がしたいんだい?もしやウィスリムという家名が目当てなんだろうか?」

「……それについては否定はしません。ですが、勿論それだけではありません。実は一度、私はロイドさんをお見掛けした事があるんです。」

「おや、そうなのかい?」

「はい。とあるパーティー会場でこちらが一方的に……と言った感じなので、貴女が知らないのも無理はありません。しかし、その時に私はロイドさんの他人に対しての心遣いに一目惚れをしてしまったのです。」

「……心遣い?」

「えぇ……パーティーに馴染めずに居た1人の少女に声を掛けて、親身に寄り添ってあげていたロイドさんのの姿に心を奪われてしまったのです。そして思いました……心が美しい貴女と共に人生を歩めれば、こんなに素晴らしい事はないだろうなと。」

「ふふっ、そんな風に言われてしまうと照れてしまうね。でも、ありがとう。」

「いえ……それで、いかがでしょうか?私の想い、受け止めてはくれませんか。」

 リーパー・アレクシスに真っすぐ見つめられなが告白をされたロイドの姿をほんの少し息が詰まりそうな感覚に襲われながら見つめていると……

「貴方の気持ちはとても嬉しい……だがすまない、お断りさせてもらうよ。」

 ハッキリと、それでいて迷いの無い凛とした声で告げたロイドの返事を聞いたその瞬間……俺は誰にもバレない様に深々と深呼吸をするのだった……

「……どうしてなのか、聞かせてもらっても良いですか?」

「うん、勿論。私が貴方の想いを受け止められない、その理由はただ1つ……」

 ロイドはそう告げるとエリオさんとカレンさん……そして後ろに立っている俺達と目を合わせてからリーパー・アレクシスに改めて向き直り……

「私にはもう、人生を共に歩むと決めた人達が居るからだ。」

「……なるほど、そういう事ならば仕方ありませんね。」

 ふっと笑みを零したリーパー・アレクシスは目を閉じると顔を首を横に振って……上着のポケットから縦長の黒い箱みたいな物を取り出してテーブルの上に置いた?

「おや、それは?」

「ははっ、渡しそびれていたんですがロイドさんに贈り物をと思いまして……あまり値打ちのあるものでは無いのですが、受け取ってもらえませんか?」

「……いいのかい?」

「はい。残念な事に振られてしまいましたが、今日と言う出会いの記念にどうぞ。」

 そう言いながらリーパー・アレクシスは箱を手に取るとパカッと蓋を外して中身をロイドに見せてき……俺達も後ろから覗いてみたんだが、そこに入っていたのは……

「へぇ、綺麗なネックレスだね。付いているのは漆黒の宝石かい?珍しいね。でも、本当に私が貰ってしまっても良いのかい?」

「えぇ、その為に用意した物ですから。もし良ければ、私が付けてさしあげても?」

「ふふっ、それならお願いしようかな。」

「ありがとうございます。それでは失礼しますね。」

 椅子から立ち上がったリーパー・アレクシスはロイドの後ろに立ってネックレスのチェーンを外すと、ゆっくりと腕を回して

「九条っ!そやつを今すぐロイドから離れさせろ!!」

「っ!?くっ!」

「がぁっ?!」

 血相を変えて食堂に飛び込んできたレミの言葉に本能的に従った俺は、テーブルの上に置かれていたナイフをリーパー・アレクシスに目掛けて思いっきり投げつけた!

「ぐっ、あああああああ?!?!!!!!」

「なっ!?ロイドっ?!」

 ナイフが勢いよく突き刺さり奴が部屋の奥に倒れ込んでいった次の瞬間、いきなりロイドが黒い渦に呑み込まれて叫び声をあげながら膝から崩れ落ちだした!?

「は、はははははっ!やった!成功だ!これで……お前達は終わりだ!ぐうぇ!!」

「貴様!ロイド様に何をした!」

「ははっ、はははは!これで、これで私は!選ばれしもの……に……な……って……あ、ああああ、ああああああああ、アアアアアアアアア!!!」

「ひっ!?」

「マホさん!見ちゃダメよ!」

「アア……アアアア………ドウ……シ……テ………」

「お、おいおい……何がどうなってやがんだよ……!?」

 カームさんに取り押さえられていたリーパー・アレクシスは急に苦しみだすと……瞬く間にミイラみたいに干乾びていって……そのまま砂みたいになっちまって……

「うっ、ぐっ……!」

「っ!お、おいロイド!しっかりしろ!」

「はぁ、はぁ、ぐぅ……!」

「チッ!どうしてこんな……そうか、このネックレスか!」

「待って九条さん!それに触れたら!」

「があっ!?」

「おじさん?!」

「九条さん!」

「ぐっ……何だ……コレ……!」

 ロイドに掛けられたネックレスに触れようとした瞬間、激痛に襲われて腕を弾かれたかと思ったら………右手が何かに切り裂かれた様に血だらけになっていた……?!

「い、いやそれよりも……ロイド!しっかりしろロイド!」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「ロ、ロイドちゃん!」

「これはちょっとマズい状況ね……今すぐ医務室に連れて行きましょう。」

「あぁ、分かった……って、どうしてお前がここに!?」

「それは後で説明してあげるから、早くロイドさんを。」

「おじさん!」

「くっ、あぁもう分かったよ!」

 砂の様になって居なくなったリーパー・アレクシス……苦しそうに息を荒げているロイド……そして何処からか姿を現した仮面のメイド……何が起きているのか状況が呑み込めないままロイドを背負い込んだ俺は、カームさんに先導されながら医務室に向かって走って行くのだった……!

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