おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第347話

 予定通りの時刻に出発した馬車に揺られながら無事に王都までやって来た俺達は、昼飯時で賑わっている大通り沿いにある店でかなりお高めの菓子折りを幾つか買うとすぐに闘技場に向かい受付のお姉さんにソフィの両親について尋ねてみたんだが……

「えっ!?数日前に王都を離れたって……それ、本当なんですか?」

「はい……申し訳ございません……」

「いや、君が謝る事ではないよ。だがそうか……すまない、ソフィのご両親が何処に行ったのかは聞いてないかい?」

「それがその、今回はお仕事で離れた訳ではありませんので行き先までは……」

「おや、そうなのかい?だとしたら、王都を離れたのは私用という事かな。」

「えぇ、そうだと思います……とは言っても、詳しくは分かりませんけど……本当にお役に立てず申し訳ございません……」

「あぁいえ!お姉さんが悪い訳ではないんですからそんなに謝らないで下さい!」

「タイミングが悪かった。ただそれだけの話。」

「すみません……ですがあの、言いそびれてしまってたんですが実はガルドさんからソフィさんにとお手紙を預かっているんです。」

「……手紙?」

「はい、ソフィさんからお預かりしたお手紙をお渡しした翌日に……それがこちらになりますので、どうぞお受け取り下さい。」

「……ありがとう。」

 受付の下から取り出された真っ白な封筒をお姉さんから受け取ったソフィは、中に入っていた1枚の紙を取り出すと無言のままそこに書かれている文字を追い始めた。

「……なぁ九条よ、ソフィの両親が居ないとなるとその菓子は無用じゃよな?」

「シッ、今は空気を読んで黙ってなさい……って言うか、さっき欲しいって言ってたやつは買ってやったろうが。」

「それはそれ、これはこれじゃよ。」

「はぁ……どんだけ食い意地が張ってんだよ……」

 強欲な神様に呆れながら額を押さえてため息を零していると、手紙を読み終わったらしいソフィが顔を上げてソレを封筒に仕舞い込むと俺達の方に向き直ってきた。

「ソフィさん、お手紙にはなんて……?」

「近況報告、それと手紙が貰えて嬉しかった事と返事を書けなくてゴメンって書いてあった。仕事が忙しかったみたい。」

「あー、国からの依頼ってやつか……そりゃまぁ急がしいだろうな……他には?何か気になる事は書いてなかったのか?」

「……1つだけある。」

「ふむ、それはなんなんじゃ?」

「……近い内に会える日が来るのを楽しみにしてるって。」

「……はっ?近い内にって………そういう約束でもしてるのか?」

「してない、こうして手紙を貰うのも久しぶり。」

「えっ、それじゃあ………どういう意味なんでしょうか?」

「いや、俺に聞かれても分かる訳が無いだろ……お姉さん、何か聞いてませんか?」

「すみません、心当たりは……」

「ですよねぇ……」

「まぁ、ここで悩んでいた所で仕方がないだろう。その手紙に書いてある通り、近い内に会える日が来るのを楽しみに待っていれば良いんじゃないかな。もしかしたら、ソフィのご両親の方からやって来るという意味なのかもしれないからね。」

「……うん、そうだと良いな。」

 両親から貰った手紙の入った封筒を両手で大事そうに握り締めながら小さな笑みを浮かべたソフィを横目に見ていた俺は、パンパンと手を叩いて皆の目線を集めた後にふぅっと短く息を吐き出した。

「よしっ、そんじゃあそろそろ昼飯でも食べに行くとするか。」

「あっ、それもそうですね!私、さっきからお腹が鳴りそうだったんです!」

「ふふっ、それじゃあ急いでお店を探さないとね。お姉さん、お仕事中なのに長々と付き合わせてしまってすまなかったね。」

「いえ!それでは皆さん、お気を付けていってらっしゃいませ。」

「うむ、それではのう!……ところで九条よ、さっきの話の続きなんじゃが……」

「あぁはいはい、宿に着いたら食って良いからそれまで我慢してなさい!」

「……おなかすいた。」

 そんなこんなありながらいつもの感じに戻った俺達は近場の店で昼飯を済ませるとマホやレミの我儘に付き合わされたり、ロイドがソフィが興味を惹かれた様々な店に立ち寄ったりしながら過ごして行った。

 そして夕暮れ時になってようやく宿屋に向かった俺達は、朝早くに出発する馬車に乗り遅れない様にする為に早めに就寝するのだった……

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