おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第338話

「これは一体……それに、後ろに居るメイドを着た女性は……?」

「うふふ、どうも初めまして。私は仮面のメイド、怪盗を生業としている者よ。」

「か、怪盗?何を言って……それよりも九条さん!もう一度聞きますけど、どうして貴方がこの場所に……あ、あれ?九条さん?」

広々としてる玉座の間の中央に立っていたジョッシュさんを見つけてから数秒後、俺はその場にしゃがみ込みながら頭をガシガシと掻きむしるのだった……

「あー……マジかぁ………主人公かと思ってたのに、まさかまさかの黒幕ポジションってそりゃないぜ……これは完全に予想外だわ………はあああぁぁぁぁ………」

「く、黒幕って……ひ、人聞きの悪い事を言わないで下さい!私はこの鐘をどうにかする為にここまで来たんです!早くしないと、街の皆が大変な事に」

「はいはい、そんな演技は良いからさっさとこの事態を引き起こした理由を喋れや。こっちには時間が残ってねぇんだ早くしねぇと容赦なくぶった斬るぞこの野郎。」

「ま、待って下さい!僕には何が何だか……そこの方!貴女からも九条さんに何とか言って下さい!」

「あらごめんなさい、私も九条さんと同意見だからそれは出来ないわね。」

「そ、そんな?!そ、それじゃあ私が怪しいと思う根拠を教えて下さいよ!でないと言い掛かりを付けられて襲われそうになったと警備隊の方達に報告をして九条さんと貴方を捕まえてもらいますよ!」

「えぇー面倒だな……そんな無駄なやり取りする必要あるか?戦った方が早くね?」

「ふざけないで下さい!さぁ、どうして僕が黒幕だと思ったんですか!?」

「ったく、往生際の悪い……分かったよ、そこまで言うなら教えてやる。お前の事を黒幕だと確信した2つの根拠を!」

「……っ!?」

うわぁ、犯人を追い詰める探偵みたいな気分になってきたぞぉ!……残念なのは、これが創作じゃなくて現実って事だけだな……あぁ、本当に残念だよ……

「まず第一の根拠……それは、お前がこの場所にいるって事だよ。」

「ど、どういう事ですか。」

「お前はこの場所に居たから知らないかもしれないが、街は鐘の音が鳴り響いたそのすぐ後に封鎖されたんだ。俺はコイツのおかげで抜け出す事が出来たがジョッシュ、そもそもの話としてお前はどうして俺達よりも先にこの場所に居たんだ。」

「そ、それは……」

「もし仮に、封鎖される前に街を出ていたとするならどうしてそんな事を?…………そうか、答えたくないか。それならそれで良いだろうよ。こっちは勝手に話を進めていくだけだからな。」

少しずつ険しくなっていくジョッシュと睨み合う様な形で視線を交わしていると、仮面のメイドが俺の隣で人差し指をピシッと立ててみせた。

「それじゃあ九条さん、第二の根拠を話してあげてちょうだい。」

「……お前に命令されるのも癪だが分かったよ。第二の根拠、それはこの玉座の間に至るまでの道中で戦闘の痕跡が一切見当たらなかった事だ。」

「…………」

「この城の中には鐘の音に誘われたモンスターが大量に集まっていた訳だが、そんな危険な所を戦闘もせずにどうやって歩いて来たんだ?アイテムでも使ったか?だけどそうだとしたらそんな物、どうやって手に入れた?………またもや回答は無しか。」

「ドクターの助手として調合した薬を使用したって言ってもいいけれど、ここに居る全てのモンスターを無効化できる程の効力を持っている物なんてそうそう作れるとは思えないけれどね。もしあるんだとしたら、その証拠を見せて欲しいわね。」

「封印が解かれてすぐに城の中に入ったから鐘の音はここで聞きました……そういう言い訳をしても良いが、それならどうして街で起きている事をお前が知っているのか教えてほしいもんだ。ついでにどうやって封印が解かれたのかもな。」

「…………はぁ…………何も知らない部外者の癖にゴチャゴチャ煩いですね………」

うつ向いて感情の読み取れない静かな声でそう告げたジョッシュはゆっくりと顔を上げると、ガッと髪を掻き上げて敵意……いや、明確な殺意が込められた冷酷な瞳で俺達をジッと睨みつけてきた。

「あらあら、さっきまでの彼とは思えないぐらいの豹変ぶりね。もしかしてそっちが本当の姿なのかしら?」

「そんな事はどうでも良いんですよ……はぁ、貴方達のせいで私が組み立てた美しい計画に支障が出てしまったじゃないですかっと……九条さん、いきなり斬りかかって来るのは少し無粋じゃないですかねぇ?」

「……悪いがお前の戯言に付き合ってる暇なんかねぇんだよ。やる気があるんなら、とっとと掛かって来い。」

「ふふふっ、そんなに街に残してきたお仲間が心配ですか?それならば、貴方も街に残れば良かったじゃないですか。まぁ、今更こんな事を言ってもなんですが……」

俺の攻撃を躱して部屋の奥に飛んで行ったジョッシュは口元に手を当てクスクスと笑ってくると、狂気じみた表情を浮かべながら両腕をバッと広げてみせた。

「あぁ……それにしても本当に迷惑な人達だ……私がこの日の為にどれだけの時間を費やしてきたと思っているんですか?もう少し……もう少しで私が救世主となれると言うのに……!」

「救世主?それは一体誰にとってのかしら。」

「そんなの決まってるじゃないですか……彼ら、魔人種にとってのですよ!」

「……お前、何を言ってるんだ?」

「九条さんだってご存じのはずですよね?彼らが受けている扱いをっ!人間とは違う容姿のせいで迫害され、見世物にされ、時には奴隷の様に扱われている事をっ!私はそんな彼らを救いたいんですよ!彼らの中に眠る本能を目覚めさせてね!そうすれば人間は思い知る事になる!自分達が見下していた相手ははるかに格上だったんだと!その時、僕は彼らを不遇の扱いから救った救世主になるんだ!はっはっはっはっ!」

……ギリギリっと歯噛みしながら静かに武器を構えた俺は、目の前で高笑いをしているクソ野郎をぶった斬ろうと両足に力を込めて一歩前に踏み出そうと……した次の瞬間、ソレをさえぎるかのように仮面のメイドが俺の目の前に歩いて来た。

「うふふ、ここまできて嘘は止めてくれるかしら。」

「………嘘?」

ピタッと笑い声を止めたジョッシュは天井に向けていた視線をゆっくりと下ろしてくると、ニコリと微笑んでいる仮面のメイドをジッと睨みつけた。

「えぇ、確かにそういう目的のあったのかもしれないけれど……貴方の真の狙いは、その先にあるのでしょう?」

「先だと?それってどういう……」

「簡単な事よ。彼の目論見通りに進んだとしてもそれは一時的な事、魔人種が危険と判断されれば人間側も黙ってはいないでしょうからね。数で劣る彼らは最後には必ず敗北してしまうわ。そうなったら、救世主で居られるのは少しの間だけ……その為にこんな危険を冒すだなんて割に合わないとは思わない?」

「……言われてみれば、確かにそうだな。それじゃあ、アイツの目的って……」

「ドクター……彼女を手に入れる事が、貴方の最終目的なんじゃないかしら。」

「な、何っ!?」

「……ふっ、面白い方ですね貴女は……殺してしまうのが非常に惜しいですよ。」

仮面のメイドの言葉を聞いたジョッシュは口元をぐにゃりと歪ませながら微笑んでみせると、パチ、パチ……と拍手をしだした。

「うふふ、どうやら私の考えは正解したみたいね。」

「えぇ……ごく一部を除いては……の、話になりますけどね。」

「お、おい待てよ!それじゃあお前の目的って本当に……」

「そうです、ドクターですよ……ただ、私が手に入れたいという訳ではありません。そんなのはおこがましすぎますからねぇ……」

「そ、それなら……」

「私はですね九条さん、彼女が持つ才能をこんな寂れた街で終わらせたくは無い……そう思っているだけなんですよ。」

「ドクターの……才能だと?」

「はい、彼女は素晴らしい才能の持ち主です。そして彼女がしてきた魔人種に関する研究もまた、素晴らしい物です……しかし……彼女はそれを分かってはいない!」

「あら、それはどういう事かしら?」

「ドクターの研究は世界を大きく変えます!それなのに私がいくら進言しても彼女はこれまでしてきた研究の成果を発表するのを拒むんですよ!魔人種の力を利用すればどんな人間でも常識を超える力を得られると言うのに!彼女は栄誉や名声よりもこの街に暮らし人達の暮らしの方が大切だなんて甘い事を……!だから、私が手を貸してあげる事にしたんですよ!彼らの本性と危険性を知れば見切りを付けるだろうと思いましてねぇ!」

「……なるほどな、結局はそのおこぼれが欲しいって事かよ。」

「それは違います!私はドクターの才能をもっと色んな人に認めて貰いたいんです!その為だったらどんな手でも使いますよ!こんな手もねぇ!」

ジョッシュはそう叫ぶと白衣のポケットの中から何かを取り出すと、それを首元に突き刺しやがった!?

「おい!何をしやがった?!」

「ははははははははは!!!!これから私は人を超える力を手に入れます!そうだ!これから死んでいく貴方達に良い事を教えてあげますよ!この鐘は私の命と繋がっているのでコレを止めたかったら私を殺すしかありません!まぁ、そんな事は無理だと思いま……す……がががが、が、ががががああああああああああああ!!!!!」

「チッ!何が起きているか知らねぇけどさせるか!」

本能的に危険な気配を感じ取った俺は風をまとって移動速度を上げると武器を構えてジョッシュに向かって突っ走って行った!

そして苦し身悶えている奴の首元に目掛けて刃を振り下ろそうとしたんだが……!その瞬間、俺はとてつもない衝撃を受けて後ろの方に吹き飛ばされて行った!

「ぐっ!」

「九条さん!」

「大丈夫だ!それよりもアレは……!?」

床に刃を突き立てて勢いを殺しながら何とか態勢を立て直して立ち止まった俺は、仮面のメイドと共に眼前を睨みつけた。

「どうやら、さっき言っていた研究の成果を使ったみたいね……残念だけれど、彼はもう人間では無くなったわ。」

「……あぁ、どうやらそうらしいな。」

静かにそれぞれの武器を構えた俺達の目の前には、鋭くて長い爪と牙を持ちながら4本の手足を地面に付けて唸り声を上げてる巨大なネコみたいな生物が殺意の満ちた瞳を覗かせながら存在した……

「九条さん、さっきまで対話をしていた相手だけど……いける?」

「ハッ、アイツには悪いが俺は誰でも救ってみせるなんて言う主人公でも救世主でも無いからな……仲間を護る為だったら、どんな相手でもぶった斬ってやるよ!」

「うふふ、それを聞けて安心したわ……それじゃあ、始めましょうか。」

「そうだな………おい、化け猫!後悔する暇も与えないまま真っ二つにしてやるから覚悟しやがれ!」

剣先を向けながら年甲斐もなく大声で叫んだ俺は身を低くしながら刀を構えると、仮面のメイドと久しぶりに共闘する決意を固めるのだった!

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