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おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第330話

「皆様、本日は魔術師フラウ・レジアントのイベントにお越し頂いて誠にありがとうございます。これから皆様を魅惑で幻想的な世界へとご案内を致しますので、どうぞごゆっくりお楽しみ下さい。」

……普段のおっとりした姿からは想像も出来ない様な堂々とした立ち居振る舞いでピンスポットに当たりながらステージの上に現れたフラウさんは、静かだが会場中に響き渡る凛とした声でそう宣言すると右手を天高く掲げると指をパチンと鳴らした。

その直後から、俺達はまさしく奇跡と言ってもおかしくないレベルの光景を幾つも目の当たりにする事になるのだった。

見た事も無い様な舞台装置を使った大掛かりで派手な魔術、アシスタントの方達と協力して行われた心奪われる魔術、そして極めつけは水と氷と炎を使って生み出した龍を従えながら会場内を飛び回るという観客全員がビックリするぐらい凄い魔術。

その他にも様々な魔術が繰り広げられていったのだが、そのどれもこれもに俺達を含めたお客さん達は感嘆の声を漏らしながら見惚れ続けてしまうのだった……

だがしかし、楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうものでハッと気付いた時にはクライマックスと思われる魔術が淡い光を放ちながら消えていく光景が視界に映し出されていた。

……それから数秒後、会場中から溢れんばかりの拍手の音が鳴り響き始めてソレを聞いたフラウさんは肩で息をしながら満面の笑みを浮かべて客席に向き直ると最初と同じ様にピンスポットに当たりながら周囲を見渡していくのだった。

「皆様、魔術師フラウ・レジアントのイベントに最後までお付き合いして頂き本当にありがとうございました。願う事ならば、今夜この時この瞬間が皆様の心の中に残り続けてくれる事をお祈りしながらお別れさせてもらいます。皆様、改めまして今夜は本当にありがとうございました。」

フラウさんがそう締め括り深々とお辞儀をしてくれた瞬間、再び会場中から割れんばかりの拍手と歓声が聞こえてきてイベントは終わりを迎えるのだった……!

「いやぁ!もうほんっとうに最高でしたね!私、こんなに感動したのは久しぶりかもしれませんよ!」

「あぁ、私もさっきから心が震えっぱなしだよ……本当に、彼女にはどれだけ感謝をしても足りないぐらいだね。」

「うん、ありがとうって気持ちしかない。」

「ふむ、まさか人の身でありながらこれ程までの奇跡を起こせるとは……神として、これは見習わざるを得ないと言うべきじゃのう……上手く使えば信仰心を更に集める手段にもなるじゃろうからな……お主もそうは思わんか?」

「ん?あぁ、そうかもな………」

「おや、どうしたんだい九条さん。さっきから……と言うより、イベント中も難しい顔をしていたみたいだけど何か悩み事でもあるのかい?」

「……いや、まぁ気にしないでくれ。それよりもほら、さっさと会場を出ようぜ。」

「ふむ……九条さんがそう言うなら、そうしようか。」

ロイドの指摘を軽く流して座席から立ち上がった俺は、会場を後にするお客さんの姿を見ながら背後にある扉の近くに向かうのだった。

……本当は俺だってフラウさんが作り上げる魔術の世界感にどっぷり浸りたかったけどさ、行方不明になってる例の派手な馬車を起点としたフラグが厄介事を起こすんだったらこのタイミングなんじゃねぇかって気になって仕方なかったんだよなぁ。

ちきしょう……こんな平穏無事に終わるんだったらもっとフラウさんのイベントに集中してりゃあ良かったぜ……こっちの世界に来てから警戒心が上がり過ぎていて、ちょっとした事でも不安に感じる様になっちまって……うん、マジで辛いんだが!?

「そうじゃ九条、舞台終わりのフラウに一言だけ挨拶をしていかんか?」

「え?いやいや、それは止めとこうぜ。ようやく気が抜ける様になったのに、それを俺達が邪魔しちまったら悪いからな。」

「そうですね!今日はとっとと退散するとしましょうか!」

「そうか……ならば、明日辺りにでもまたここに来てみるとするか。」

「おう、そうだな……って、アレ?あっちから歩いて来るのって……ローザさん?」

会場の出入口を目指して警備隊の方に案内された道を戻っていたその時、前方からローザさんが姿を現して俺達と目を合わせるとスタスタとこっちに近寄って来た?

「良かった、まだ帰る前だったみたいだな。」

「あれ、どうしたんですか?私達に何か用事でも?」

「あぁ、先ほどフラウさんから伝言を頼まれてな。明日、お前達の都合が合えば共に食事がしたいとの事だ。イベントの感想などを聞きたいらしい。」

「おぉ!それは丁度良い!わし達も似た様な事を考えておったからな!」

「そうか。それでは承諾という事で良いんだな。」

「はい!フラウさんに、よろしくお願いしますって伝えて下さい!」

「分かった。それでは、私はこれで」

「あっ、すみません!ちょっとだけ聞きたい事があるんですけど……」

「聞きたい事?何だ。」

「えっと、その……例の馬車、あれから見つかりましたか?」

「いや、まだ発見には至ってないが……何故そんな事を聞く?」

「あー……少しだけ気になったものですから……でも、そうですか……まだ……」

「あぁ、だからお前達もそれらしい馬車を見かけたらすぐに街を巡回している警備隊まで連絡を寄こしてくれ。」

「……分かりました。それでは、俺達はこれで失礼します。」

「うむ、それではな。」

それだけ言って立ち去っていたローザさんの姿を見送った後、俺達も外に出る為に歩き出すのだった。

「おじさん、ローザさんにどうしてあんな質問をしたんですか?何か気になる事でもあるんですか?」

「うーん、気になるって言うか……気にしすぎってだけかもだし……」

「はっはっは、そんなに色々と心配せんでも大丈夫じゃ!お主には頼りになる仲間がついて居るんじゃからな!それに神の加護が付いておるじゃろう!」

「……それもそうだな。何かあったらその時はその時か。」

レミに諭されて何時までも起こるかどうかも分からないイベントを不安に思うのがバカらしくなった俺は、ため息と一緒に悩みを吐き出してしまうと今日の感想を皆と言い合いながら会場を後にして宿屋に向かって歩いて行くのだった。

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