おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第303話

「あー………マジで心臓に悪すぎる………」

「ふんっ、あれしきの事でだらしのない奴め。」

「……シーナに声を掛けられてキョドってた奴に言われたくねぇな。」

「なっ!?だ、誰がキョドっていただと!?我を舐めるでないわ!」

「もう、声が大きいよクリフ君。それと九条さん、シーナさんと仲が良いのは分かりますけど人目に付く場所でああいうのは……流石にどうかと思います!」

「僕もエルアさんと同意見ですね……あんな風に見せつけられてしまったら、嫉妬のあまり何をしてしまうか………うふふふふ………」

「わ、悪かったよ!今度はちゃんとビシッと引き剥がすからジリジリとにじり寄って来ないでくれ!そ、それよりもほら!こうして合流する事が出来たんだからさっさと祭りを楽しむとしようぜ!」

「……逃げましたね。」

「あぁ、逃げたね。」

「逃げた。」

「そこの3人!余計な事を言うんじゃない!」

「……仕方ない、ここで貴様の悪事を追求するのも時間の無駄だからな。」

「まぁ……今回は九条さんの事を信じますけど……次はシッカリして下さいね!」

「僕達の信頼……裏切らないで下さいね……」

「も、勿論だ!よしっ、行くぞ!」

「あっ、ちょっと待って下さい九条さん!」

「うおっと‥…ど、どうしたんだエルア?」

歩き出そうとしたその直後にいきなり声を掛けられたので、思わず足をもつれさせながら立ち止まり振り返ってみると……何故かエルアがモジモジとしながらうつ向きがちにこっちを見ていて……?

「そ、そのですね……よければ……あの……か、感想とか言って頂けたらと……」

「か、感想?………あ、あぁ……もしかして浴衣姿の……か?」

「は、はい……どうですかね……あんまりその……こういう女の子っぽい格好をする機会がなくて……に、似合ってなかったら……そう言って貰えると………」

濃い黄色の中に色とりどりの花が散りばめられた浴衣を着たエルアが自信なさげな表情のまま上目遣いでジッと見つめて来たせいで、心臓の鼓動が激しくなってきた!

だってもう本当に破壊力がヤバすぎるんだよ!普段はボーイッシュな格好をしてる美少女が、可愛らしい浴衣を着て恥ずかしそうにして!ギャップ萌えが凄すぎます!

「い、いや!そんな事は絶対に無いから!うん!メチャクチャ似合ってるぞ!」

「そ、そうですか……?えへへ………」

「はうあっ!?」

「お、おじさん!?大丈夫ですか!生きてますか!」

「な、何とかな………へっ?」

「うふふ……九条さん、僕の浴衣姿はどうですか?」

「あっ、そ、その………」

いつの間にか近づいて来ていたイリスに微笑まれながら頬を撫でられていた俺は、問いかけられた質問に答えようとして目線を下げて浴衣に視線を送ってみた。

そこには紫色の艶やかな……って、どうしてチラッと鎖骨を見せてくるんだよ!?い、いや落ち着け俺!相手はイリスだ!男だ!同性だ!……それなのに……どうして目が離せないんだ?!

「あらあら、うふふふ……何処を見ているんですかぁ……九条さん……」

「うぇっ!?い、いや!べ、別にその!」

「そんなに慌てなくても大丈夫ですよぉ……それに九条さんにならぁ……全身、隅々まで見せてあげても………」

「ぜ、ぜんしっ!?」

「そこまでです!エルアさん!」

「はい!ほら!早く離れて下さいイリスさん!」

「あぁん、残念。」

「はぁ……はぁ……今……俺は……何を……?」

「まったくもう……さっきのビシッと引き剥がす宣言は何処に行ったんですか……」

「……返す言葉もございません……それと、ありがとうございました………」

「いえいえ、それじゃあもう行きますよ。」

呆れた様子のマホに手を引かれながら皆と大通りを歩き始めた俺は………その後にクリフと射的で勝負をしたり小遣いを渡した3人と学生組に色々と奢ったりしながら祭りを楽しんでいくのだった。

その途中で抽選番号が張り出されてる掲示板に立ち寄ってみたんだが、俺は見事に外れてしまい、見事に当選したのは何とマホだった……まぁ、3等だけどな。

だが当たった事には変わりないので大はしゃぎしているマホと斡旋所に足を運んで当選した事を報告すると、景品として大きなモンスターのぬいぐるみを貰った。

……微妙にブサイクな気もするが、とりあえずマホが喜びまくっているのでそこは気にしない事にした。

そんなこんなで祭りを満喫しながら大通りを歩いていると、すぐ近くに設置されていたスピーカーからノイズ音が聞こえてきた。

『……皆様、本日はトリアルのお祭りを楽しんでいますでしょうか?ご満足して頂けているなら喜ばしい限りでございます。しかしそんな皆様に非常に悲しいお知らせがございます……もうそろそろ、お祭りが終了となる時間が近づいてまいりました。』

「えっ!もうそんな時間になってしまったんですか!?」

「いや、陽が暮れてから随分と経ってるんだからそんなに驚く事じゃねぇだろ。」

「うぅ……でもでも、まだ遊び足りないですよ!」

「そ、それを俺に言われてもなぁ……」

「まぁまぁ、そんなに悲観する必要は無いよマホ。お祭りの終わりが近づいているという事は、最後のイベントが始まるという事だからね。」

ロイドがそう言って駄々をこねてるマホに微笑みかけてから数秒ぐらい経った後、大通りの道端に散らばる様に斡旋所の職員さん達と警備隊の方達が集まり始めた。

『……ですが、残念がるのはまだ早いですよ!皆様、是非とも貴族街の方面に広がる夜空にご注目してみて下さい!それでは………どうぞ!』

お姉さんのテンション高めの合図が大通りに響き渡ったその直後、真っ暗な夜空に綺麗な花火が咲いてドドンッという全身が震えるぐらいの爆音と周囲の人達から溢れ出してきた歓声が同時に聞こえてきた!

「うわぁ!凄い迫力ですねおじさん!」

「おう!まさかこんな近くで見られるなんて、思っても見なかったぜ!」

「ふっはっはっはっは!見事な花火ではないか!我の魂が震えておるぞ!」

「もう、クリフ君ってば声が……って、別に心配しなくても大丈夫かな。」

「うふふ、皆さん花火に夢中ですからね。」

……こうして色々と慌ただしく過ぎ去って行った俺達の夏は、夜空に浮かぶ花火と共に終わりを迎えて

「あぁ、そう言えばこんな時になんなんだ……エルアとイリス、もし良かった今晩は私の家に泊まって行かないかい?」

「えっ、良いんですか!?」

「ふふっ、誘っているのは私なんだから勿論だよ。夏休み最後の思い出作りとして、女子会なんてどうだい?」

「は、はい!喜んで!」

「あらあら、僕もご一緒させて頂いても良いんですか?」

「当然。」

「それでは、お言葉に甘えさせて頂きますね。」

「うーん!何だかワクワクしてきましたね!あっ、そうだ!おじさんとクリフさんも一夜を共にして男同士の友情を」

「「それだけは絶対にお断りだ!!」」

中二病と揃って大声を出してマホの提案を却下した俺は、咲き乱れる花火を見上げながら思いっきりため息を零すのだった。

……そしてその日の夜、誰も居ない家の中で1人寂しく夜を迎えた俺は久しぶりにほんの少しだけ孤独を感じながら静かに眠りにつくのだった……ぐずっ……

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