おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第294話

やりたくもない私闘に付き合って微妙な勝利を収めてから1週間後、これまでなら午前中には来ていたアイツが昼飯時を過ぎても来なかった事実に思わずテンションが上がっていた俺は何時もよりノリノリな感じでクエストをこなしていったんだが……

「ったく、2人揃って替えの武器をぶっ壊すとか何を考えてんだよ……あれが最後のモンスターだったから良かったけど、もうちょい気を付けて行動しろよ。」

「あぁ、本当にすまなかったね。だけど私達の事ならそんなに心配せずとも大丈夫、例え武器が無くなったとしても問題なく戦えるからね。」

「うん、魔法で応戦出来る。」

「……確かにそうなのかもしれんが、こっちはこっちで丸腰のお前達を護らなくちゃならないって勝手に気が張っちまうんだよ。」

「ふふっ、九条さんは本当に私達の事を大事に想ってくれているんだね。」

「ぐっ、そうやって人の羞恥心を煽ってる暇があるならきちんと反省しなさい!」

(まぁまぁ、こうして無事に街まで戻って来られたんですから良いじゃないですか!それよりもほら、早く斡旋所に行ってクエスト達成の報告をしましょうよ!ねっ!)

(……はいはい、分かりましたよっ。)

採取クエストで指定された物がちゃんと集まっているか改めて確認しながら正門を通り過ぎて街中に皆と戻って来た俺は、斡旋所に向かう為に普段よりも賑わっている大通りを歩き始めるのだった。

「……それにしても、こうしてお祭りに向けて街の人達が活気づいているのを見ると自然と胸が高鳴ってくるね。」

「あぁ、いよいよって感じだな。」

「お祭り、来週やるって斡旋所の人が言ってた。」

(えへへ、楽しみですよね!やっぱりトリアルのお祭りもクアウォートの時みたいに花火が打ち上がったりするんでしょうか?)

(うーん、参考にしてるのかもって可能性を考えると無い話じゃないと思うけど……)

(ですよね!きっとありますよね!それに今回は、ロイドさんと一緒にお祭りを見て回れるのがとっても楽しみなんです!)

(ふふっ、そう言ってくれるなんて本当に嬉しいよ。私も、マホや皆と一緒に回れるお祭りがとっても楽しみになって来た。)

……聞いてるこっちが恥ずかしくなる様なやり取りをしている2人の声を頭の中に響かせながら大通りの十字路付近までやって来たその時、前方に何故かとてつもなく焦った様子でキョロキョロとしている見知った顔の2人を発見した?

「なぁ、あっちに居るのってもしかして……」

「ん?……おや、エルアとイリスじゃないか。何やら慌てている様子だけれど、一体どうしたんだろうか?」

「……誰かを探してる?」

「……そう……見えるよな………」

(皆さん、とりあえず声を掛けて話を聞いてみたらどうですか?)

(あぁ、そうしようか。)

マホの提案を聞いて俺達は2人の方に駆け寄って行った訳なんだが、これってどう考えてもアイツ絡みだよな………うん、マジでもう勘弁してほしいんですけどね。

「はぁ……はぁ……ここにも居ない……ねぇイリスさん、やっぱりクリフ君は……」

「えぇ、恐らくは……って、あれ?」

「み、皆さん!どうしてここに!?」

「俺達は斡旋所に向かう途中だったんだけど……お前達こそ、こんな所で何をしてるんだよ。」

「そ、それがその……あ、あの!皆さん、クリフ君を見かけませんでしたか!?」

「クリフ少年?いや、見かけていないと思うけど……」

「そ、そうですか……どうしよう、このままじゃ……」

「エルアさん、とりあえず落ち着いて下さい。」

「で、でもっ!」

「お、おいおい!マジでどうしたんだよ?ってかアイツは?お前達がここに居るって事は、アイツも一緒に来てるんだろ?」

神妙な顔をしているエルアにそう確認しながら周囲を軽く見回してみたんだが……おかしな事に、痛々しい中二病的な格好をしている奴を見つける事が出来なかった。

(……ご主人様、もしかしてクリフさんに何かあったのかもしれませんよ。)

(はっ?……そう言えば、エルアが俺達にアイツを見かけませんでしたかって……)

「……エルア、クリフ少年がどうかしたのかい?もしかして行方が分からなくなってしまったのかな。」

「あっ、それがその……行方に関しては心当たりがあって……!」

「ふーん、ならそんなに慌てて探してるのはどうしてなんだ?心当たりがあるなら、そこに行ってみれば良いじゃねぇか。」

「うふふ、確かに九条さんの言う通りなんですけれど……その場所、ほんの少しだけ危ない所なので僕達だけで行くのが難しいんです。」

「……どういうこっちゃ?」

困った様に微笑みながら頬に手を置いたイリスを見て首を傾げていると、腕を組み真剣な表情を浮かべたロイドが2人の顔をジッと見つめ始めた。

「もしかしてクリフ少年は………1人でダンジョンに行ってしまったのか?」

「……っ!」

「はっ、え?ダ、ダンジョン?!しかも1人でって……おい、それマジなのか!?」

「うふふ、可能性の話……ではあるんですけどね。」

「じ、実はクリフ君……森林の迷宮ってダンジョンに行こうとしていて……」

「ちょっ、森林の迷宮って!」

「あぁ、リリアとライルの2人と勝負をした場所だね。」

「そ、そうだよな!ってか、どうしてそんな場所にアイツが!?いや、それより早くアイツを助けに行かねぇと!」

「えっ?く、九条さん……クリフ君を、助けに行ってくれるんですか?」

「当たり前だろ!ほら、手遅れになる前に早く……ってヤッベェ!ロイドとソフィの武器はぶっ壊れてるんだった!でも、今から替えを買いに行く暇は……!」

「九条さん、さっきも言ったと思うが私達なら大丈夫だ。」

「武器が無くても戦える。」

「っ!……わ、分かった!でもあんま前に出過ぎるなよ!そんじゃあ2人共、俺達はダンジョンに行ってくるからお前達はここで!」

「い、いえ!僕達も行きます!」

「えぇ、お留守番をしていろだなんて寂しい事を言わないで下さい。」

「いやでも、お前達も武器は持ってないだろ?」

「うふふ、それならロイドさんとソフィさんと同じ様に魔法を使うだけですよ。」

「そ、それに僕達は皆さんと一緒にダンジョンを攻略した事があります!お邪魔にはなりませんから、お願いします!友達を助けに行きたいんです!」

「………あぁもう!どうせ俺が何を言ったって一緒に来るつもりなんだろ!それなら約束しろ!絶対にロイドとソフィのそばを離れないって!」

「わ、分かりました!絶対に離れません!」

「僕はどうせなら九条さんの近くに居たかったんですけど、了解しました。」

「よしっ!そんじゃあ2人共、悪いがエルアとイリスの事は任せたぞ!」

「あぁ、必ず護り通してみせるよ。」

「傷1つ付けさせない。」

「あぁ、頼んだ!」

ってか、アイツはマジで何を考えてんだよ!?ダンジョンから連れ戻したら絶対に顔面をぶん殴ってやるから覚悟してやがれよこんちきしょうが!!

心の中でそう決意をしながら皆と一緒に歩いて来た道を戻って街の外に出て行った俺は、アイツの無事を祈りながら森林の迷宮を目指して走るのだった!

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