おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第287話

多少の不安が残りつつも何とか面倒事が片付いたその数日後、依頼されてた武器が完成したと書かれた手紙が送られてきた俺は1人で加工屋に足を運んでいた。

「こんちわ~っす。」

「おっ、九条さんじゃねぇか!いらっしゃい、元気にしてたかい?」

「えぇ、まぁそれなりに……親父さんもお変わりない様で良かったです。」

「へへっ、体力だけには自信があるからな!それよりも九条さん、もしかして今日は完成した武器を引き取りに来たのかい?」

「はい、その通りなんですけど………アレ、今日は親父さん1人ですか?」

「あぁ、アイツなら店の奥で爆睡中だ。九条さんに頼まれてた武器を完成させる為に精根尽きたみたいでな……もしアレならすぐに叩き起こして来るぞ?」

「いやいや!流石にそれは悪いんで寝かせてあげて下さいよ!……だけど、そんなに大変だったんですか?」

「あーそうだな……いつもの仕事を100とするなら、今回は300ぐらいの大変さだったとだけ言っておこうか。」

「マ、マジですか!?そ、それはその……とんだご迷惑をお掛けして……」

「はっはっは!別にアイツも俺も迷惑だなんて思っちゃいねぇよ!むしろ、こんだけやりがいのある仕事をさせてくれたってんで感謝してるぐらいさ!」

「そ、それなら良いんですけど………」

「おっと、それよりも武器だよな!よしっ、ちょっと待っていてくれよ!」

「あっ、分かりました。」

親父さんはニコっと笑みを浮かべて受付から離れると店の奥に行ってしまった……そして1人残された俺は、ガランとしてる周囲を見回しながら時間を潰すのだった。

……ってかこの店で他の客とエンカウントした記憶がほとんど無いんだが、本当にやっていけてるのか?まぁ、依頼料がそれなりだから大丈夫って事なのかしら?

そんな余計なお世話とも言える様な事を考えながらしばらくボーっとしていると、高級感の漂う黒い縦長のケースを抱えた親父さんが受付に戻って来た。

「待たせたな、コレが依頼されていた品物だ。開けて中を確認してみてくれ。」

「はい、それじゃあ失礼して……」

ゴクリと喉を鳴らしてから受付の上に置かれたケースに触れた俺は、緊張しながらゆっくりと蓋を開いていった……そして中に入っていた物を見て、思わず感嘆の声を漏らしてしまうのだった。

「どうだい?九条さんから受け取った絵を参考にしてアイツが色々と手を加えてみたらしいんだが……納得のいく出来に仕上がってるか?」

「え、えぇ……コレは………流石としか言い様がないですね………」

俺が描いた日本刀は本当にデザイン性の欠片も無いって感じの物だったんだが……鞘、持ち手、つばにはシンプルだが思わず見惚れてしまう格好良さを持ち合わせている装飾が施されていて……刀身は美しさすら感じる綺麗さで………もう、男心が完全に持っていかれちゃって心臓バクバクになってるんですけどぉ!?

「へへっ、どうやら満足してくれたみたいだな。」

「そ、そりゃもう!正直、感動しすぎて持ってる手が震えそうなんですから!」

「そうか、九条さんがそう言ってくれるって知ったらアイツも喜ぶと思うぜ。まぁ、残念な事に今はぐっすりと寝ちまってるがな。」

「あっ、そうでしたね……じゃあ今度来た時にこの感想を伝えたいと思います。」

「おう、頼んだぜ。」

「はい、それじゃあえっと……これはもう頂いても?」

「勿論、是非とも装備してみてくれ。」

「わ、分かりました!」

お、おぉう……まさか本物の日本刀を腰からぶら下げられる日が訪れるなんて……修学旅行の時に木刀ではなく模造刀を買ったあの日から早十数年……俺は今、猛烈に興奮しています!ありがとう異世界!夢を叶えてくれて本当にありがとう!

「……へぇ、よく似合ってるじゃねぇか。」

「そ、そうですか?そ、そんなに似合ってますか?」

「あぁ、更に男前になったって感じがするな!」

「ほ、ほほっ!あ、ありがごうとうございます!」

うわぁ!自分で自分が気持ち悪い!だけどそんなの気にしてられるか!だって憧れだった日本刀がこの身に……やっべ、俺の中に居るサムライが目を覚ましそうだぜ!

「おっと、ちょっと良いかい九条さん。依頼されている残り2つの武器について報告しとく事があるんだが。」

「……えっ、何ですか?」

「実はここ最近ずっと九条さんの武器に掛かり切りだったから、まだ手を付けられてない状態なんだ。悪いが、完成までにもう少し時間が掛かるって伝えてくれるか?」

「は、はぁ……ってか、この武器ってそんなに作成が大変だったんですか?」

「あぁ、最初に言ったと思うが普段の倍以上の大変さだったからな。アイツに関して言うと、ソレ以外の仕事は出来なくなるぐらい頑張ってたみたいだぜ。」

「な、なるほど………あの、今度お邪魔する時は甘い物でも買って来ますね。」

「おう、そうしてくれ。ついでに俺の分も用意してくれると嬉しいんだがな。」

「わ、分かってますってば!」

「はっはっは!それじゃあ2人分のお高めの甘い物と武器の使用感、それを楽しみに待ってるからな。」

……微妙に条件が付け加えられてたが苦笑いを浮かべて小さく頷いた俺は、貰った武器と共に加工屋を後にして家に帰って行くのだった。

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