おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第266話

……鎧の腕の中で目覚めるという衝撃的な経験とマホによる大説教を味わいながら光の輪を通って皆と洞窟まで戻って来た俺は、建物の外に出て周囲に誰も居ない事を確認すると振り返って神様と目を合わせた。

「……なぁ、もう一度だけ聞くけど本当に俺達と一緒に来るつもりなのか?」

「さっきから何度もそう言っておるじゃろう。父上は人の話を聞いておらぬのか?」

「だから父上って呼ぶなっての!誰かに聞かれて変な誤解をされたらどうすんだ!」

「まぁまぁ、それよりも今はこの後どうするのか決めるべきじゃないかな。」

「神様を連れて海の家まで戻る……というのは流石にマズいですものね」

「はい……どう説明したら良いのか分かりませんし、何があったか事情を話した所で信じて貰えるとは思えませんから。」

「そうだよなぁ……しょうがない、ロイドとリリアさんは神様と一緒に海の家の裏を通って馬車が待っている所まで行ってくれ。」

「ふむ、それでお主達はどうするのじゃ?」

「俺とソフィとライルさんは海の家でダンジョンから戻って来たって報告を済ませてくる。そんで帰りを待ってくれてるかもしれないアリシアさんとシアンを回収したら俺達も後から合流するよ。」

「了解した。それじゃあリリアさん、神様、私達は先に馬車まで戻るとしようか。」

「はい!かしこまりましたわロイド様!さぁ、ついていらしてください神様!」

「うむ……と言いたい所じゃが、その前に少し良いじゃろうか?」

「ん、何かあったのか?」

「いやなに、ちょっとした事なのじゃが……そろそろわしの呼び方を変えてはくれんじゃろうが?」

「呼び方……ですか?」

「そうじゃ、いい加減に神様と言う呼ばれ方にも飽きてきたらのう。」

「……それじゃあ何て呼べば良いの?」

「はっはっは、それをお主達に考えて欲しいのじゃよ。」

「え、なにその突然の無茶振り……」

(ご主人様に名前を付けて欲しいだなんて……どう考えても止めておいた方が良いと思いますけどね。)

(い、いや!俺もあれから成長してネーミングセンスを磨いてみたし!)

(へぇ……そえじゃあ、ご主人様はどんな名前を付けるつもりなんですか?)

(え、えっとそれは……神様だから……その………神子……とか?)

(……さてと、それじゃあ私も神様も名前を考えてみますね!ご主人様はただ静かに見守っていて下さい!)

(……分かりました。)

ネーミングセンス無さを改めて実感させられた俺は青く澄んだ海に目を向けると、名前を決める為に頭を悩ませている皆の様子をチラっとうかがってみた。

「別に難しく考える必要はないぞ。今のこのわしにピッタリの名前を付けてくれればそれで良いだけじゃよ。」

「今の神様に似合う名前か………ふむ、それならば可愛らしい感じの名前の方が良いかもしれないね。」

「はい、外見との印象が離れすぎない名前がよろしいかと思いますわ。」

「あっ、それなら髪と瞳の色から名前を決めてみませんか?」

「ふむ、髪と瞳の色か………これは青色……いや、そうではなくて海の色と呼ぶべき感じかな。」

「あぁ、確かに私達の目の前に広がっている海と同じ色をしていますわね。」

「はっはっは!わしはクアウォートを守護してきた神じゃから、その象徴とも呼べる海の色をしておるんじゃろう。」

「そ、それでしたらやっぱり……ウミさん……でしょうか?」

「うーむ、悪くはないのじゃがもう少し少女らしさが欲しいかのう。」

「ふっ、少女らしさって…………ひっ!?」

「何か……文句でもあるのかのう?」

「いえ!そんなのは一切ありません!申し訳ございませんでした!!」

殺気が漂ってくる様な笑みを浮かべながら小さな水の塊を出現させた神様に向けて瞬時に土下座をかました俺は、砂浜に額をこすり付けながら謝罪をするのだった!

(はぁ……そんなに神様が怖いんなら余計な事を言わなければ良いじゃないですか。)

(いや、つい心の声が……げっ!?)

「はっはっは……後で覚えておるんじゃぞ?」

(……そう言えば、私達の声って神様には聞こえちゃてるんでしたね。)

(あぁもう、逃げ場が無さすぎるだろ……)

太陽にジリジリと背中を焼かれながらそっと顔を上げてみた瞬間、ソフィが小さく手を上げて神様の顔をジッと見つめた。

「……それじゃあレミは?」

「おっ、それはどうしてじゃ?」

「綺麗な海。そこから。」

「ふっ、なるほどね……どうかな神様、私は似合っていると思うよ。」

「確かに名前の由来からしても良い感じかのう……」

「じゃあ、これはらレミさんと呼ばせて頂いても?」

「うむ!それではこれからわしはレミと言う名前じゃ!よろしな、お主達!」

「あぁ、よろしくねレミ……さて、名前も決まった所で行動に移ろうか。」

「かしこましましたわ!それでは皆様、後の事はよろしくお願い致しますわね!」

「わ、分かりました!それでは後ほど、馬車の方でお会いしましょう。」

土下座の状態で皆の足音が遠ざかって行くのを耳にした俺は、額に付いた砂を手で払い落しながら立ち上がるとうおっほんと咳払いをしてこの場に残った2人を見た。

「よ、よしっ!それじゃあ俺達も報告に行くとするか。」

「はい!……ですがその前に九条さん、女の子の年齢をどうこう言ったりしたら失礼ですから今後は気を付けて下さいね。」

「……はい、反省します。」

ライルさんに優しく怒られてちょっとドキッとしながら海の家まで戻って行くと、そこには不安そうな表情を浮かべていたアリシアさんとシアンが待ってくれていた。

2人は俺達の姿を見つけた瞬間に座っていた椅子からバット勢いよく立ち上がり、小走りでこっちに向かって駆け寄って来てくれた。

「み、皆さん!ご無事ですか?お怪我はございませんか?!」

「あぁ、そんなに心配しなくてもピンピンしてるよ。」

「そ、それならば良かったですわ………って、そう言えばロイドさんとリリアさんのお姿がお見えになりませんが……」

「え、えっとお2人はちょっと用事があって先に馬車の方に戻っているんです。」

「そうなんですか?……ま、まぁ大丈夫そうなら構いませんけどね。」

「もう、お姉様ったら素直じゃないんですから。あんなに心配していましたのに。」

「こ、こらシアン!余計な事を言わないの!」

「あはは……ご心配してくださってありがとうございます。」

「い、いえそれは……その……どういたしまして……ですわ。」

顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているアリシアさんを見てツンデレは最高だ!と心の中で叫んだ俺は、煩悩を振り払う様に首を横に振ると海の家の中に居る職員の方達に目を向けた。

「それじゃあ俺はダンジョンから戻って来た事の報告を済ませてくるから、ソフィとライルさんは2人を連れて馬車の方に行ってくれ。」

「あ、はい。それじゃあお願いしますね。」

「え、どうして私達を馬車へ?」

「事情は後で話す。今は何も言わずについて来て。」

「は、はぁ……分かりましたわ……」

事情が呑み込めていないアリシアさんとシアンを連れて行った2人を見送った俺は職員の人に観光が終わったと報告をすると、急いで馬車の方に戻って行くのだった。

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