おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第255話

これといった情報を見つけられないまま正午を迎える事になってしまった俺達は、近場にあった飲食店で昼飯を食べながら作戦会議を開き本屋ではなく古い物を扱っている店を探す事にした訳なんだが………

「……なぁマホ、もう一度聞くけど本当にここであってるんだよな?」

「は、はい……そのはず……なんですけど……」

「……暗い。」

マホの案内に従って大通り沿いに入り細い路地の奥の奥の奥の方にあった古物店の前にやって来た俺達は、目の前にあるお化け屋敷みたいな外観の建物を見上げながら呆然と立ち尽くしていた……

「……なぁマホ、これはどっからどう見ても廃墟って言うじゃねぇのか?」

「い、いやでも!マップでは間違いなく古物店ってなっていますし……それにほら!そこにある看板も営業中になっていますよ!」

「……それ、ずっと放置されてるって可能性があるんじゃないのか?」

「そ、そう言われると……私も自信が無いですけど……」

「……仕方ない、古物店はここだけじゃないんだから他の店に……って、おい!?」

日が当たらなくて妙に肌寒いのに冷や汗が止まらない俺はこの場から逃げ出したい一心だったのだが、ソフィが店の扉を開けて普通に中に入って行ってしまった?!

「ソ、ソフィさん!?ちょっと、どうするんですかおじさん!」

「ど、どうするって……お、俺達も行くしかねぇだろうが!ほら、行くぞ!」

「うぅ……おばけが出ません様に………」

マホに服の裾をキュッと握られて少しだけ安心しながら店内に入って行った俺は、奥の方で突っ立っているソフィに慎重に近づきながら辺りを見回してみた。

「……やっぱこの店、もうやってないんじゃないか?あちこちにホコリが積もってるみたいだしさ。」

「た、確かにそうみたいですね……ソ、ソフィさん、もう出ませんか?お店もやってないみたいですし……」

「……そんな事ない。」

「は?ど、どういう事だよ。」

「店員さんなら………ここに居る。」

「え………うおっ?!」

「ひぅ!?」

「ふぇっふぇっふぇ、この店に客が来るなんて久しぶりだねぇ………いらっしゃい、今日は何をお探しですか?」

ソフィがスッと横に移動した瞬間、ロウソクの小さな明かりに照らされて不気味なお婆さんの姿が現れた……っていうかマジで人か?もしかして妖怪の類の方ですか?どっちにしたってちょっとビックリしちゃったじゃねぇかよ!

「私達の目的は海底に沈んでるダンジョンに関する情報が載ってる本。」

「ほうほう、街で賑わってるあの……」

「大通り沿いにある本屋には観光向けの物しかない。それ以外の物を探してる。」

「なるほど……これはこれは……中々に面白い事になりそうな……」

「……どういう意味?」

「ふぇっふぇっふぇ、その質問に答える前に……そちらの方、こちらに来て頂いてもよろしいですかな?」

「え?お、俺……ですか?」

「えぇ、お願い致します。」

「は、はぁ……分かりました……」

薄っすらと微笑んでいる様に見えるお婆さんに若干の恐怖心を抱きながら奥の方に歩いて行った俺は、汗ばむ手を服で拭いながら静かに息を吐いた。

「………やはり、お主で間違い無かった様じゃのう。」

「ま、間違いないって……何がですか?」

「えぇえぇ、申し訳ありませんが少々こちらでお待ち下さい。」

お婆さんはそう言って立ち上がると店の奥に引っ込んでいき………しばらくして、見るからに古そうな本を片手に戻って来て元の場所に腰を下ろした。

「あの……それは一体?」

「これはお嬢さんが言っていたダンジョンに関する……いいえ、そこに住まう神様に関する情報が載っている本です。」

「……神様?」

「はい。そしてこの本の中には、貴方に関わりのある情報が載っているんですよ。」

「お、おじさんに……?」

「えっと、どういう事なのか意味が分からないんですけど……」

「ふぇっふぇっふぇ、それでは……………ここ部分をご覧になってみて下さい。」

そう言って俺達の目の前に置かれた古い本をパラパラとめくり始めたお婆さんは、その途中で手を止めるとそこに描かれていた………絵を……指差して…………え?

「これは………ローブを着た女性?」

「……顔が良く見えない。」

「うーん……あ、ここに何か書かれて………へぇ、このローブの女性って神様が人に化けた姿らしいですね。」

「えぇ、これは遠い昔に目撃されたと言われる神様の姿。この人物に予言をされると必ずその通りの事が起こると言われております。」

「そうなんですか………でも、これがどうしておじさんと関わっているんですか?」

「ふぇっふぇっふぇ、それはご本人に確かめてみるとよろしいのでは?」

「は、はぁ………おじさん、この絵なんですけど…………あれ、おじさん?どうしてうずくまって頭を抱えてるんですか?」

「嘘だ……嘘だ……はは……ないない……ある訳ないって……ないない……」

「……九条さん、どうかしたの?」

「やはり……貴方はこの人物に既に会っていた様ですね。」

「「……え?」」

頭上から聞こえてきた2人の声を耳にしながらさっきの絵とお婆さんの言葉を思い出していた俺は、着々と構築されつつあるフラグを否定するかの様に独り言を延々と呟いていた………

だ、だって……予言された通りの事が起きるって……は、はは……いやいや………いやいやいやいやいや!!!

「ないない!そんな事がある訳無いじゃないですか!」

「きゃっ!?ちょ、ちょっとおじさん!急に大きな声を出さないで下さいよ!」

「だ、だってよく考えてみろよ!確かにローブの女の子に会って予言をされたけど、そこに描かれてるのは大人の女性じゃねぇですか!つまり、俺は神様とは会ってないって事になる訳でしてね!?」

「は?ローブの女の子?予言?え、まさかおじさん……神様に会ったんですか?」

「い、いや!違う!俺が会ったのは小さい女の子で!」

「このローブの人物は見る者によって姿を変えると言われております。」

「そ、うだとしても……よ、予言なんて……まさか……」

「……何を言われたの?」

「そ、それは……その………かなりヤバめな予言を………」

「聞かせて、今すぐ。」

……キラキラした瞳にしばらく見つめられる事になった俺は、裏路地で女の子から聞かされた予言の内容を全て話してみた。

「ち、近い将来とある場所で大いなる相手と対峙して試練を与えられて……」

「突破出来れば夢の様な幸運が訪れて、失敗すれば身を引き裂く様な痛みが心を……九条さん、これで間違いない?」

「あ、あぁ……そうだな……」

右手で額を触りながらため息交じりにそう答えると、マホが背後から目の前に回り込んできて俺の服をガッと掴んでグラグラと揺さぶって来た。

「も、もうおじさん!そんな大事な事をどうして今まで黙ってたんですか!?」

「いや、俺も半信半疑だったんだよ!それによく考えてみろ!これはどう考えたって面倒事になる展開だろうが!無視出来るならそうしたかったんだよ!」

「むぅ!!さっきの話を聞いてましたよ?!予言されたら絶対に起きるんですよ!」

「だから困ってんだろうが!?ってか何だよ試練って!?予言するならもっと詳しく説明しろよ神様!」

「……ふふふ………試練……ダンジョン………」

「おいソフィ!まだダンジョンに行けると決まった訳じゃ無いんだからな!」

「……大丈夫、予言は必ず当たる。」

「いやいや、聞いてたか俺の話を?!当たったら困るって言ってんだろうが!!」

「ふぇっふぇっふぇ、残念じゃが予言からは逃げられんぞ。」

「くっ!?ってかお婆さん!どうして俺が予言された事を知ってんだよ!?」

「なに、この歳になると因果の流れが見える様になるんじゃよ。」

「えぇっ?!何それ怖っ!?」

「お、おじさん!失礼ですよ!す、すみませんお婆さん!」

「いや、気にする事は無いよお嬢ちゃん。それよりもほれ、この本をどうぞ。」

「あ、どうもです!じゃあえっと、お代は幾らになりますか?」

「お代はいらんよ、珍しい者に出会えた記念じゃ。貰ってくれ。」

「で、でもこれ、かなり歴史的な物の様ですしお値段もけっこうするんじゃ……」

「どうせここでホコリを被っていた本じゃ。気にせず受け取っておくれ。」

「そ、そうですか?では、ありがとうございます!ほら、お2人もお礼を!」

「……ぶっちゃけ余計な事をしてくれたなっていう思いが無い訳でもないんですが、どうもありがとうございます。」

「おやおや、それは申し訳ない事をしたねぇ。」

「もう、失礼ですよおじさん!」

「……本、ありがとう。大切に読ませて貰う。」

「ふぇっふぇっふぇ、そうしておくれ。」

「それではお婆さん、私達はこれで失礼しますね!」

「あぁ、それじゃあ……また会える日を楽しみにしているよ。」

「………え?」

口元が少しだけ笑った様に見えたお婆さんがロウソクの炎に息を吹きかけた瞬間、一瞬にして目の前が真っ暗になり驚く程の静寂が訪れた……

「あ、あれ?お婆さん?」

「……気配が……無くなった。」

「ちょ、ちょっと待てよ……そんな訳ないだろ?だってさっきまでここに……」

「………お、おじさん………」

「………あぁ、言われずとも分かってる。」

一筋の汗が流れ落ちるのを感じたその直後、俺はマホを瞬時に抱き抱えると急いで店の外に逃げ出していった!!!羞恥心?こんな時にそんなの感じてられるか!!!

ソフィが後からついて来ている事を確認しながら走って大通りにやって来た俺は、マホを地面に降ろすと膝に手を置きながらゼーゼーと深呼吸をしていたんだが……

「……おじさん、さっきチラッと見たんですが。看板、何も書いてませんでした。」

マホのその言葉を聞いた俺はゴクリと喉を鳴らして振り返ると、視線の先に伸びる薄暗い路地を見つめながら血の気が引くのを感じるのだった……

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