おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第244話

「あっ、皆さんお疲れ様です。」

「あぁ、九条様にマホ様。もしかしてお二人もご昼食を買いに来たんですか?」

「はい、そうですけど……俺達もって事は……」

「えぇ、先ほどエリオ様達も訪れられてご昼食を手に戻られましたよ。」

「そうなんですか。じゃあ入れ違いになってしまったみたいですね。」

「その様ですね……って、すみませんでした。ご昼食を買いに来たというのに長々と引き留めてしまいまして。」

「いえいえ、こちらこそすみませんでした。それじゃあ俺達はこれで。」

「はい、それではまた後で。」

大型のビーチパラソルの下で待機をしてた警備隊の方達との挨拶を済ませた俺は、近くで待ってくれていたマホと合流すると広々とした海の家の中に入って行った。

「うわぁ!おじさん、コレを見て下さいよ!メニューが色々と書いてありますよ!」

「あぁ、定番の物から初めて見る物まで色々とあるな。」

「……おじさん、海の家の定番とか知ってるんですか?」

「……察しているならわざわざ聞いてくるんじゃないっ。」

「あいてっ。」

きょとんとしながら俺を見つめてきたマホの頭を軽くチョップした俺は、少しだけ大きめのボードに書いてあるメニューを改めて確認してみた。

「さてと……何を買ってくかねぇ。」

「うーん、そうですねぇ……海の家のラーメンとか美味しそうなんですけど、流石に持って帰るのが大変ですもんね。」

「あぁ、それを6人分も運ぶのはちょっとな……」

「だとしたら……あっ、焼きそばなんてどうですか?ソースと塩の2種類あるみたいですから、どっちも買って行けば皆で分けられますよ!」

「うーん、それもそうだな。じゃあソースを4人前で塩を3人前頼むとするか。」

「え、それだと7人前になっちゃいますよ?」

「ソースの一人前は俺が食うんだよ。お前達と分け合う訳には行かないからな。」

「えぇ?別に皆さんはおじさんと分け合う事になっても気にしないと思いますよ?」

「あのな、俺が気にすんだよ……」

「ぶぅ、恥ずかしがり屋のおじさんには困ったものですね。」

「うっさいわい……さてと、そんじゃあ後はデザートにかき氷でも頼むとするか。」

「あっ、良いですね!えっと味は……3種類あるみたいですし、その分だけを買って行けば大丈夫ですよね!」

「まぁそうだな。焼きそばもあるし、足りなかったら後で来れば平気だろ。」

「はい!それじゃあ早速ですが、注文をしましょうか!」

またまたマホに手を引かれて海の家の奥にある受付に足を運んだ俺は、大量の汗を掻きながら出迎えてくれた頭にタオルを巻いたイケおじに注文を伝えたんだが……

「あぁ、悪いね!ついさっき焼きそばの作り置きを切らしちまったんだ!新しいのをすぐに作るからちょっとだけ待っててくれるか?出来たらこの番号で呼ぶからさ。」

「あ、はい。それじゃあお願いします。」

代金をイケおじに支払った俺は4番と書いてある札を受け取るとマホと一緒に海の家の外に出て、料理が出来上がるまで時間を潰す事にしたんだが……

「ふぅ、タイミングが悪かったみたいだな。」

「そうですね……まぁ、出来立てが食べられると思えば良かったですよね!」

「……それもそうだな。あいつ等を少し待たせる事にはなっちまうが、空腹は最高の調味料って言われてる事だし我慢して貰うとするか。」

「えへへ、そう言われると何だか物凄くお腹が空いてきました!」

「あぁ、俺もだよ……っと、ちょっと混んで来たな。」

「お昼時ですからね。邪魔にならない所に移動しましょうか。」

「そうだな。」

なるべく人の流れを妨げない様にマホと海の家を出た俺は、周囲を見渡し空いてる席が無いか探していたんだが………

「……あれ?」

「おじさん?どうかしたんですか。」

「あぁいや、あっちの方に人が居ないのがちょっと気になってな。」

「……そう言われればそうですね。どうしてでしょうか?」

「さぁな……マホ、マップでこの先がどうなってるのか調べられるか?」

「あ、はい。すぐに調べるので、ちょっと待って下さい。」

右側に伸びている海岸の先をジッと見つめながら人差し指でこめかみを触り小首を傾げたマホは、しばらく黙った後に小さく息を吐き出した。

「……どうやらここを真っすぐ行って右に曲がると、神様を祀ってる所があるみたいです。」

「神様って……あぁ、そう言えばそんな話を聞いたな……って、ん?」

「今度はどうしたんですか、おじさん。」

「いや、そこの木の影に立札が……」

「あ、本当ですね。どれどれ………ここから先、関係者以外は立ち入るべからずって書いてありますね。」

「なるほど、だから人が居ない訳か……って、そんな大事な事が書いてある立札ならもっと目立つ所に置いとけよ。これじゃあ知らずに入る奴がでるだろうにな。」

「あはは……ですねぇ。」

「4番のお客さん!料理が出来上がったから受付まで来てくれるか!」

「おっ、本当にすぐだったな。」

「はい!じゃあ、受け取りに行きましょうか!」

ニコッと微笑みかけてきたマホと受付に行って使い捨て容器に入れられた7人前の焼きそばとかき氷を受け取った俺は、慎重になりながら海の家を後にした

「よしっ、そんじゃあ急いで戻るとするか。」

「そうですね!皆さん、お腹を空かせて待っていると思いますから!」

「だな!」

「あ、あのすみません!少々よろしいでしょうか!」

「……ん?」

「……へ?」

背後から女の子の大きな声が聞こえてきてマホと一緒に振り返ってみると、白色のワンピースタイプの水着を着た金髪の少女が受付に立ってイケおじと話をしていた。

「あぁ、どうしたんだいお嬢ちゃん。注文かい?」

「あっ、いえ、そうではないんです!あの、お姉様を探しているですが、ご存じではありませんでしょうか!」

「お姉様……って、言われてもなぁ……特徴とかあるかい?」

「あ、はい!えっと、お姉様は私と同じ髪色で、水色の水着を着ています!」

「そっか……うーん…………ごめんね、それらしい女の子は何人か見かけた様な気はするんだけどちょっと分からないかな。」

「そ、そうですか……」

「本当にごめんね。もし困っている様なら、あっちにある建物の中で相談してみると良いよ。」

「……分かりました………すみませんでした、お忙しい所を……」

うつ向いたまま受付の前から移動した女の子はそのまま海の家を後にしようとしていて……その姿を見ていたマホが俺の顔をジッと見つめてきた。

「……おじさん。」

「はいはい、かき氷は預かっといてやるから早く呼び止めて来い。」

「……っ!はい!あのー!ちょっと待って下さーい!」

「っとと……ったく、誰に似たんだか。」

容器の蓋の上に置かれたかき氷を落とさない様に気を付けながら走って行くマホの後ろ姿を見ていると、呼ばれた女の子が声に気付いてこっちに目を………って、え?

「あ、あれ?もしかして………?」

「え…………マホちゃん?それに…………九条さんも?」

驚きに満ちた表情で俺とマホを交互に見てきた少女の正体は………数ヶ月前の襲撃事件の時に知り合った………シアン・ペティルだったああああ?!!?!

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