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おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第241話

何度か深呼吸をして何とか心を落ち着けた俺は平常心を装いながら皆さんと合流をすると、更衣所を後にして着替えで遅れる女性陣を待たずに海岸へと足を運んだ。

「おぉ!やっぱ随分と賑わってるみたいだな!」

「うん、やっぱり夏の海はこうでないとね。」

「……確かにそうですけど、人の数はそんなに多くないんですね。」

海ってもうちょいすし詰め状態になっている様なイメージがあったんだが、見渡す限りではかなり空いていてそんなに混み合ってるって感じでは無いんだよなぁ………もしかして、こっちの世界ではコレが普通なのかしら?

「恐らくですが、今日からお祭りが始まったのが関係しているのではないですか?」

「あぁ……そう言われると、街中は昨日より盛り上がってる様に見えましたね。」

「がっはっはっは!そりゃ好都合だったな!思う存分、海を満喫出来るぜ!」

「ディオス、人があまり居ないからと言ってはしゃぎ過ぎないでよ。」

「勿論、分かってるっての!それよりさっさと休憩場所に向かおうぜ!」

「うむ、それでは休憩場所に行こうか。」

エリオさんはそう言うと海を正面にして左方面に歩き出したので、そっちに視線を向けてみると少し離れた場所に一昨日の昼時に見た様な大掛かりなテントとその下に厳つい制服……ではなく、白い半そでに短パン姿という警護隊の方達の姿が見えた。

その光景にちょっと驚きながらも設営されていた休憩場所に辿り着くと、警護隊の方達はすぐに俺達に向かってお辞儀をしてくれた。

「皆様、おはようございます。早速ではありますが、我々は海の家の方で待機をしておりますので何か御用がありましたら何時でもお呼び下さい。それと、そちらにあるケースの中には海で遊ぶ為の道具が幾つか入っておりますので是非ご使用下さい。」

「うむ、色々とご苦労だったな。本当に助かったぞ。」

「いえ、お役に立てたのなら何よりです。それでは失礼致します。」

警備隊の方達はもう一度俺達にお辞儀をすると、テントを出て行き少し遠く離れた所に見える海の家に向かって歩いて行ってしまった………その姿を見送っていると、背後からガチャッと何かを開ける音が聞こえてきたので振り返ってみると……

「おっ!色々と面白そうなのが入ってるじゃねぇか!どれどれ……」

「こらディオス、まだ皆が揃ってないんだから。」

「へへっ、固い事を言うなよファーレス!っと、やっぱ海と言ったらコレだよな!」

ディオスさんはケースの中から何か平べったい物体を取り出すと、それを自慢げに俺達の前に掲げて見せた。

「それは………もしかして、ビーチボールですか?」

「あぁ!さてと、それじゃあ魔法で一気に……!」

「ちょっと待って、ディオスは魔法の加減が下手だから僕が代わりにやるよ。」

「ん、それもそうだな!じゃあ頼んだぞ!」

「はいはい。」

やれやれと言った感じで微笑んだファーレスさんが空気を入れる所に触れた瞬間、ぺちゃんこだったビーチボールが一瞬にして膨らんでまん丸になった!

「うわっ、流石と言うか何と言うか……凄いですね。」

「ふふっ、別に何て事もありませんよ。それじゃあ、はいどうぞ。」

「おう、ありがとうな!よぉし、後は全員が揃うのを待つだけ……お、来た来た!」

「おーい!おじさーん!」

砂浜を踏む複数の足音に気が付いたディオスさんが振り返った直後、マホの大きな声も聞こえてきてそっちに目を向けた俺は………すぐさま空を見上げるのだった。

「皆さん、お待たせして申し訳ありませんでしたわね!」

「すみません、あまり水着を着る機会が無くて少しだけ戸惑ってしまって……」

「いえいえ、それほど待っていた訳ではありませんのでお気になさらず。」

「うん、僕達もさっき来た所だからね。」

「うふふっ、それなら良かったです。」

親御さん同士のやり取りを聞きながら静かにと空を見上げていたその時、こっちに向かって来る複数の人影がチラッと視界の端に映り込んだ……んだが………

「はぁ……はぁ……ライルさん……私の代わりにカメラのシャッターを………」

「すみません……今の私には無理です……だって……だって……」

「「はぅ……」」

その内の2つは何やら幸せそうな声を出しながら設置されていた椅子に座り込んでテーブルの上に突っ伏してしまった…………うん、どうやらファンの2人には色々と刺激が強すぎたらしいな!はっはっは!

「おじさん?どうして空なんか見ているんですか?」

「……いや、今日も良い天気だなぁって思ってさ。」

「はい?何を当たり前の事を言ってるんですか?それよりもほら!シッカリと私達の水着姿を見て下さいよ!」

「あ、ちょ、グイグイ手を引っ張って来るなって!ま、まだ心の準備が!」

「あらあら、何だか面白そうな事をやってますね。私も混ぜて貰って良いですか?」

「ふむ、それならば私も参加しようかな。この日の為に用意した水着、九条さんにはちゃんと見て貰いたいからね。」

「……同じく。」

「ぐ、ぐがががが!!」

「がっはっはっは!九条さん、凄い人気じゃないか!羨ましいぜ!」

「あはは……彼的にはかなり困ってるみたいだけどね。」

「ふむ……私的には色々と思う所があるんだがな……」

「あ、えっと……その………元気を出してください……ね?」

「そうですわよエリオさん!意中の殿方に水着を見て貰う為に積極的になる娘さん、とっても素敵ではありませんか!そしてカレンさんもその手伝いをする為にああして尽力している訳ではありませんか!さぁ、シッカリとご覧になって貰いなさいな!」

「な、何ですって?!意中の殿方とは聞き捨てなりませんわ!」

「そ、そうです!ロイドさんと九条さんの関係はその……!あれですから!」

「あぁもう、何かまた面倒事が増えた気がするんですけど!?」

「さぁおじさん!そろそろ観念して私達の方を見て下さい!そうしなければこの場は収まりませんよ!」

「ぐっ……!分かった!ちゃんと見るからマジで離れて下さいお願いします!」

「ふふっ、そうまで言われたら離れるしかないかな。」

ロイドの満足した様な声が聞こえたと思ったら腕や肩を引っ張っていた手が次々と離れたので、俺はその事にホッとしながら何度か深呼吸を繰り返すのだった………

「はぁ……まさか空を見上げていただけでここまでの事態になるとは………」

「さぁ、約束ですよ!何時までも恥ずかしがっていないで、覚悟を決めて私達の方を見て下さいね!」

「はいはい……ってか、恥ずかしがってねぇですから。」

女の子の水着姿を見るのが数十年ぶりだったから、ほんの少し戸惑っただけで……別に鼓動が早くなりすぎてヤバいと思ったからとかでは絶対に無いんだからな!

心の中で誰に対してしているのか分からない言い訳をしてから覚悟を決めた俺は、短く息を吐いてから視線をゆっくり下ろして目の前を……見て………みた…………

「じゃーん!どうですかおじさん!私達の水着、似合ってますか?」

「そこまで派手という訳では無いんだが、どうだろうか。」

「感想、聞かせて。」

「……あ……えっと…………そ、そうだな………ま、まぁ……似合ってる……ぞ。」

「えっ、本当ですか!嘘じゃないですか!」

「お、おう……本当に……似合ってると……思ってる……」

カラフルなワンピース水着を着ているマホと、腰に布を巻いてる……パレオ?的な水着のロイド、そして可愛らしさより動きやすさを重視したスポーツタイプの水着を着ているソフィ………うん、マジで似合いすぎてて心臓に悪すぎるね!!

「えへ……えへへへ!おじさんにそう言って貰えてとっても嬉しいです!」

「あぁ、九条さんが気に入ってくれた様で何よりだよ。」

「やったね、ぶい。」

「べ、別にそんな喜ぶ様な事じゃないだろうに……ったく………」

微妙に恥ずかしくなって後頭部を掻きながら視線を逸らした俺は………視界の先にあった光景を目の当たりにして…………

「がはっ?!」

「お、おじさん?!どうしたんですか!?一体何を見て……………」

膝から崩れ落ちた俺に駆け寄って来たマホはさっきの俺と同じ方向を見てみると、何故か無表情になり………ゴミを見る様な目つきで俺の事を見下ろしてきた……

「おーっほっほっほ!どうやら九条さんは、私の美貌に心を奪われた様ですわね!」

「あらあら、それはどうでしょうか。もしかしたわ私の水着姿かもしれませんよ。」

「え、えっと……あはは………」

……ち、違うんですよ?別にですね、際どいビキニを着たアムルさんや大人の色香が漂うカレンさん、そして素朴ながらも魅力があるリタさんを見て興奮したとかっていう訳では決してなくてですね?その、何と言うか…………ね?

「………最低ですね、おじさん。」

「ぐ、ぐふぅ?!」

これまで聞いた事が無い様な冷え切った声でそう言われた俺は、心に深い傷を負い熱い砂浜の上にバッタリと倒れ込むのだった……

「がっはっはっは!九条さんの気持ちは男としてよく分かるが、まぁ仕方ないな!」

「う、うーん……何て言ったら良いのか、困ってしまうね。」

「ふむ、これも人生経験と思って乗り越えて下さい。」

「そうだな!よぉし、それじゃあ後の事は任せたぜ九条さん!」

「はい………………って、え?」

突っ伏していた砂浜から顔を上げてみると、ビーチボールを抱えたディオスさんとその後にズラッと並んだ親御さん達の姿が……?

「実は別の場所にも休憩場所を設営してあってな!俺達はそっちで過ごすぜ!」

「九条さん、娘の事をよろしくお願いしますね。」

「夕方頃にまた合流しましょう。それでは。」

「は、いや……へ?」

いきなり知らされた衝撃的な事実に呆然としている間にエリオさん達はこの場から居なくなってしまい……

「おじさん、分かっていますよね?」

「ふふっ、思う存分……楽しませて貰おうかな。」

「……覚悟して欲しい。」

「あぁ!ロイド様の黒い微笑み!これはシャッターチャンスですわ!!ライルさん、ちょっとお手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか!」

「はい!勿論です!」

「は、はは……ははは………」

カオスという名の置き土産を渡されてしまった俺は、おかしくもないのに何故だか笑いが込み上げて来てしまうのだった…………!

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