おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第236話

水神祭すいしんさい、ですか?」

「はい。クアウォートを守護していると言われる神様に由来したお祭りなんですが、明日から開催されますのでもしよろしかったら参加してみて下さい。それとクエスト斡旋所ではそれに関したちょっとしたイベントが始まる予定ですので、もしご興味がありましたら斡旋所の職員に話を聞いてみて下さいね。」

トロピカル感が満載な観光案内所でそんなやり取りをした俺は、そこで受け取ったマップを頼りに30分近く歩いてこれまた似た様な雰囲気のある斡旋所の前に立って額から流れ出る汗を拭っていた………

「はぁ……こんなに距離があるんだったら馬車に乗せてもらえば良かった……」

と、とりあえずさっさと冒険者登録を終わらせちまうか……その後はどっかの店に寄って飲み物を買ってから別荘に戻ろう……そうでもしないと、この暑さの中をまた歩こうなんて気にはならないからな……

そう決意してから斡旋所の中に足を踏み入れた俺は、建物の中がどんな感じなのか気になって辺りを見渡してみたんだが……

「あれ、随分と人が多いな……そんなに冒険者が居るのか?」

だとしたら頼まれてた素材を集めるのも苦労しそうだ……って、ん?おかしいな。ほとんどの人の恰好が冒険向きの服じゃない気がするんだが……どうなってるんだ?

「……まぁ良いや、それよりもやるべき事をやっちまうか。」

少しだけ混み合っている人の間をすり抜けて受付まで向かった俺は、冒険者登録をしたいと職員のお姉さんに告げて手続きに取り掛かった。

……それからしばらくして無事に登録が完了した事を告げらてお姉さんから預けていた冒険者カードを返してもらう事になったんだが……何故だかそれとは別に、俺の目の前には淡い水色の綺麗なカードが置かれていた?

「あの、これは?」

「そちらは明日から開催されるイベントに必要な抽選カードになります。」

「はぁ………って、ちょっと待って下さい。これを受け取る前に、イベントがどんなのか詳しく教えて貰っても良いですか?まだよく分かってないので……」

「あっ、申し訳ございません!………おほん、それではご説明をさせて頂きますね。明日から開催されるイベントとは、とあるダンジョンに入る為に抽選番号を獲得して頂くといったものになっているんです。」

「……とあるダンジョン?」

「はい、水神龍の宮殿と呼ばれているダンジョンでこの時期にしか入る事が出来ない場所となっているんですよ。」

「……なるほど、要するに季節限定のダンジョンって事ですか。」

「えぇ、その通りです。」

「……それは分かりましたけど、それがどうしてイベントにまでなってるんですか?普通に考えて、ダンジョンに入りたがる様な人って少ないと思うんですが。」

「ふふふっ、それがですね………」

お姉さんは微笑みながら受付の下にそっと手を入れると、そこから冊子の様な物を取り出して俺に手渡してきた………何かと思ってペラっと開いて中を覗いて見ると、そこには何処かの城の広間の様な写真と………えっ?!

「な、なんだこれ……窓の外を………魚が泳いでる?」

「はい。実はその水神龍の宮殿というダンジョンがある場所なんですが……海の底にあるんですよ。」

「う、海の底?!」

お姉さんの言葉に驚いて冊子に載っている写真を改めて見てみると……た、確かにそうとしか思えない光景じゃねぇかこれ?!

「その光景を是非見たいと毎年この時期になると観光客の方が訪れて来るのですが、その人数があまりにも多いのでこうしてイベントとさせて頂いたんです。」

「な、なるほど……それでえっと……その詳細ってか、抽選番号を獲得する方法ってどんな感じになってるんですか?このカードが関係してるんですよね。」

「はい。そちらのカードには最大で7つの番号が表示される仕組みになっています。クエスト1つこなすと1桁目の数字が表示され、7つ全ての数字を表示させる為には合計で7個のクエストをこなして頂く必要があります。」

「そうなんですか……でも、それだと冒険者以外の人は条件が厳しくありませんか?いや、ダンジョンに入るんですからそうした方が良いのは分かってるんですが……」

「その点につきましてはご心配ありません。九条様、あちらにあるクエストボードをご覧になって下さい。」

「え…………あれ、2つある?」

「右側に見えるボードには従来通りのクエストが、左側の物にはイベントの為に用意されたとても簡単なクエストが張り出されているんです。まぁ、報酬は抽選番号のみとなっておりますけどね。」

「へぇ……左側にはどんなクエストが?」

「例えばになりますが、お店で3000G分のお買い物をして下さい等になります。他にもどこどこのお店でお食事をして下さいという物もありますね。」

「あぁ、それなら誰でもクエストを達成できますね。」

「はい。そうやって番号を獲得して頂き、ダンジョンに入る為の抽選に参加出来るかどうかを楽しんで貰っています。」

「……抽選って事は、どっかしらにそのカードの番号が張り出されるんですか?」

「そうですね。大通りと海水浴場、それと斡旋所の前にある掲示板に張り出される事になっています。そちらで当選を確認致しましたら、こちらでダンジョンに入る為の手続きをして頂きます。」

「……あの、当選したけど冒険者じゃなくて戦えないって人はどうするんですかね?やっぱりダンジョンに入る以上はそれなりに強くないとまずいんじゃ?」

「いえ、戦う術を持たない方には専属の冒険者を派遣いたしますので大丈夫ですよ。ただダンジョンに入ってすぐの所しか見て回る事は出来ませんけどね。」

「まぁ、そりゃ当然ですね。」

「ふふふっ、それでは九条様。他にご質問等はありませんか?」

「うーん……それじゃあ最後に番号はいつ発表されてそれには必ず当選者が居るのかどうかって事と、何時までに手続きに来れば良いのか教えて貰えますか。」

「かしこまりました。まず最初のご質問ですが、当選された番号は明日の朝8時からダンジョンに挑めなくなる日が来るまで毎日発表される事になっております。それと手続きに関してですが、必ず午後3時までには来て頂く様にお願い致します。」

「午後3時ですが……思ったよりですね。」

「はい。その時刻を過ぎてしまいましたら当選権を放棄したとみなしまして、新しく当選番号を発表致します。その時は午後7時までに手続きに来て下さいね。」

「分かりました……って、こっから見る限りでは参加人数がかなり多そうなんで当選する可能性はかなり低いと思いますけどね。」

「ふふふっ、確かに倍率は高いですが運に恵まれればきっと当選致しますよ。諦めずに抽選番号を集めてみて下さいね。」

「ははは……そうですね……」

ぶっちゃけ抽選とかに関しては苦い思いでしかないんだが………いや、これ以上は考えるのを止めとこう……フラグが構築されかねないからな。

「それでは九条様、他にご質問はありませんでしょうか?」

「あぁ、はい。すみません、長々と付き合わせてしまって………」

「いえいえ、それでは九条様。またのお越しをお待ちしておりますね。」

「はい、それじゃあ失礼します。」

俺は目の前に置かれていた水色のカードを手にして椅子から立ち上がると、受付のお姉さんに向かって軽く会釈をしてから斡旋所の外に出て行くのだった。

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